ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第2回 労働者協同組合 玉木信博さん(2/2)

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前回は、玉木さんの現在のお仕事内容や労働者協同組合の日本初の法律でどのような変化があるのか、また、コロナ禍の今思っていることなどを伺いました。今回は、玉木さんがワーカーズコープで働き始めたきっかけや、2030年のビジョンに迫ります!

 

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ワーカーズとの出会い=社会に対する印象を共有できる人との出会い

  • ここからは玉木さんご自身のキャリアをお聞きしたいと思います。なぜ、ワーカーズコープで働こうと思われたのですか?

 

学生のときは農業をやりたくてしょうがなくて、有機農業をやっているような人たちのところを転々と回ったり、大学の時も農作業ばっかりやってたんです。大学を卒業して、河川の調査をしている環境保護団体で働いたり、子どもたちや養護学校の生徒に農業体験をしてもらう世田谷区の事業に関わったりしました。農業をしようと思って移住先を探している中で、東京で生まれ東京で育ったのに、「東京が嫌だから自然の中で生きていきたい」っていうのもどうなのかなと思ったこともあって、しばらく東京で地域に役立てるような仕事を探すことにしました。その時に、ちょうど地域のコミュニティセンターをワーカーズが委託を受けて運営しますという新聞求人が出ていて、話を聞きにいきました。

 

  • ワーカーズコープに入られる前から、協同組合についてはご存知でしたか?

 

私が子どもの頃から母が生活クラブ生協の組合員だったんです。共同購入といって、例えば豚肉の部位を皆で分けるっていうことをやっていました。そういうことを身近で母がやっていたので、協同組合は知っていたんですが、働く人の協同組合(ワーカーズコープ)は知りませんでしたね。説明会に行った後に、母に聞いたら、ワーカーズコレクティブと言って、生活クラブがワーカーズコープと同じような取組みをしていること教えてもらいました。今、法律の運動もワーカーズコレクティブとやっています。ただ、当時は働く前にお金を出資をするって考えられなかったですよね…だってお金がないから働くのに、なんでって(笑)でも、ワーカーズコープの説明会では、組織の歴史から現状から丁寧に説明は受けました。しかも、3回ぐらい面接受けて…びっくりしましたね。最後に「うちはこういう組織だけれども、いいですか?」って逆に問われたのも印象的でしたね。

 

  • 「ワーカーズコープにしよう!」と思った決め手は何でしたか?

 

面接してくださった人たちがみんな魅力的な人たちで、世間話とかも含めて面白かったんですよ。もちろん、組織のミッションとかも大事なんですけど、日常的に考えていることを共有してくれる仲間がいるってすごく大事だと思っていて。面接を受けたときに、キューバ有機農業に関心がある方がいて、「こんな風に都市が有機農業に変わっていったらいいね」っていう話もしたり。コミュニティセンターの仕事とは全然関係ないけれども。

 

  • 社会に対して思っていることに共感できる部分があったのだと思うのですが、ワーカーズコープに入った後はどうでしたか?

 

入った後もこの共感の部分は続いていますね。大変なこととか、個人的に苦しいこと、なかなか上手くいかないこととか、いっぱいありますけど、結局そういうところ(社会に対しての思い)でつながっていますね。ワーカーズコープは1つの業種じゃないので、事業も働く人たちの経歴も本当に多種多様なんです。有名な大学を出てキャリアを積んでいる人もいるし、高校に行かなかった人もいるしずっと不登校で30代ぐらいでやっと働けるようになったという方も。本当に色んな人がいるので、それが1番の魅力なんだと思います。

 

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ワーカーズは、衝突も含めて人と向き合う力を鍛えてくれる「民主主義の学校」

  • 国内や足元にも多様性があることは、見落とされがちですよね。多様性があるからこそ、何かを決めたり実行するのが難しい部分もあるのではないですか?

 

これは、個人的な感覚なんですけど、僕はそういうこと自体が面白さだと思っています。言っていることが通じない人たちも、もちろん時々います。ですけど、自分が全然出来ないことや考えもしないことを他の人は出来たりするじゃないですか。それはとっても大事かなと。それでも私が所長をしていて、どうしても折り合いがつかず離れていってしまう人たちもいましたし、最終的に分かり合えないっていうこともあります。でも、そういう対話をトレーニングしていかないといけないかなとは思ってるんですよね。僕らの世代とか、衝突したりするの嫌じゃないですか。嫌なんだけれど、衝突も含めて向き合う力をもう少しつけていかないと社会的な包摂って程遠いような気がするんですよね。

SNSとの付き合い方も考えなければいけないし、直接的な関わり合いの中で対話したり、ぶつかったり、議論したり、ということは日常の中でのすごいトレーニングが必要だと思っているんですよ。今僕が住んでいる中川村の前村長さんにワーカーズコープを知ってもらいたいと思い、ワーカーズコープの研究所にも関わってもらっているんですが、「ワーカーズコープは民主主義の学校かもしれない」と言ってくれたことがとても嬉しくて。いまの日本社会では民主主義ということに対して、選挙の時以外は、生活の中で直接触れることは多くはないんじゃないかなと。ワーカーズコープは、そんな日常の中で、自分自身の民主主義のトレーニングが出来るところだという印象を、僕自身も持っています。

 

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  • ワーカーズコープで民主主義のトレーニングをやってこられて、いかがですか?

 

いやぁ、疲れますよね(笑)みんなとよく言っているんですが、終わりがないんですよね。「こうしたら成功だ」というものがワーカーズの中ではなくって。離れてしまった人がまた戻ってきて「やっぱり一緒に働きたい」っていうこともあるし。労働者協同組合法成立は大きな目標なんですが、むしろ法律が始まってから「自分たちの今までやってきたことってなんだろうか」って考えたり、その中で見えてきたものを伝える仕事だったりが、また始まるんですよね。常に終わりのようで始まりのようで、別れがあって出会いがあってって感じなんですよ。だから、そのプロセス自体を楽しむというか、価値あるものとしてしっかり捉えないと。今やっていることとか、向き合っていること自体に価値があるって思った方がいいのかなと思います。そのような意味では、一次産業はぴったりなのかもしれないですよね。終わりがないですからね。林業で関わっている若い仲間と話しても、自分が切った木は80年前に植えられていたり、自分が植えた木がもしかしたら300年後に切られるかもしれないっていう感じなんですよね。そういう長期的なスパンでなかなか色々な事を見られない社会にあって、林業のようにしていった方が人も生きやすいのかもしれないなと思います。

 

2030年・・・地域の中でFEC(Food, Energy, Care)の自給圏づくりへ

  • 玉木さんが描く2030年のビジョンはどのようなものですか?

 

ワーカーズコープ連合会としては気候危機に対応するために、まさに今、コロナ後の社会の中長期的なプランを作っています。グリーン・エコノミー といわれる分野にワーカーズコープ自体が大きく前進していくことになるだろうなと。そうでなければ、社会の必要に応えられないんじゃないかと。グリーンニューディールといっても、大きくグローバルな形で進めていくというよりは、地域の中でFEC(Food、Energy、Care)の自給圏づくりを進めていくイメージです。これまでも、ずっとこの10年ぐらいそれは目指してきたんですけれど、コロナ以降はかなり重点を置くことになっていくだろうなと。そのための組織整備も重要になってくると思います。

 

  • 具体的に「こういう組織づくりができたらいいな」はありますか?

 

今までは、全国の本部が東京にあって、事業所ごとに経営の基準を設けて、事業所と本部で役割を決めて運営してきました。これからは、もっともっと事業所に判断を委ねていくということがこれから必要になってくるだろうなと思っています。今までは、大きな事業への投資だとか、資金繰りのこと、人のこと、労務の関係などは本部が結構やってきました。これからは事業所ベースで全国をネットワークでつないでいくような、ダイナミックな組織づくりができたらいいなと思います。

 

  • 玉木さんご自身のビジョンはありますか?

 

僕自身は、仲間と中川村で1つ法人をつくりました。ソーシャルファームというだれもが働ける場をつくりたくって10名程の仲間で立ち上げたんです。もともと薬用養命酒が中川村で生まれたっていうのもあって、今、地域の薬草の研究会をしています。昨年からは、薬草、薬木などを近隣の会社とか農家とか、信州大学の研究者とかと一緒に栽培研究を始めています。それを、地域の障害のある人たちが生産/加工/販売したりする仕事にならないかなって考えています。要は、地域にあるもので、社会に役立つものをどんどんつくっていって、持続可能な産業にしていくっていうのが一般社団法人ソーシャルファームなかがわの一つの大きな目標ですかね。

地域にあるものっていうと、空き家もそうなんですけどね。全国どの地域も空き家は15パーセント近くあって、高齢化と過疎化の中で、空き家の管理をしていく仕事も重要になるかなと思っています。空き家を貸すという決心がつくまで数年ぐらいかかると思ってて、その間に床が抜けて天井が落ちて倒壊するんですよね。家主の決心がつくまで、状態のいい空き家で残していくというのはこれから重要になると思います。若い世代も含めて、移住者でも状態のいい空き家を探している人が沢山います。なので、そういう地域の資源を地域の高齢者や障がい者が仕事として担っていく仕組みと関係性を3年ぐらいかけてつくっていきたいですね。

 

  • 地域の資源と地域の人々をつなげて、より持続可能な循環を地域の中でつくっていくということですよね?

 

そうですね。そもそも、僕自身は、ワーカーズコープというあり方が農山層にぴったりあうんじゃないかと思っているんです。自分たちでお金を出し合って、山や道の管理を今でもやっているので、みんなでお金を出し合って自分たちの地域の仕事を起こすことに違和感がないんです。都会だったら、色々なところに住んでいる人たちがこの指止まれで人が集まるけれど、村であれば、ここの地域にはこういう野菜や薬草があるんだけど、みんなでこれを残していかないかっていう話になれば、関心の度合いというよりは住んでいる地域自体での協同組合活動っていうのが可能かと思うんです。

 

何もかも個人でやらなくて良い・・・色々な共同体に関わる中の一選択肢としての協同組合

  • 若い人たちに協同組合を広げるにはどうしたらいいでしょうか?

 

わたしの年代も含めて若い人たちは色々な活動も個人ベースで進んでいて、それがすごくもったいないと思う。人と何かをやるってことが辛いとか面倒臭いっていうことはあると思うんですよ。でも、本当は、何もかも個人でやらなくていいんですよね。家直して貰うんだったら例えば友達の大工とかにやってもらうし。協同組合を1つつくって、家そのもの自体を共有する、借りたいという人がいたら斡旋するという形でもいいと思いますし。もっと協同組合的に、1人が1つのワーカーズで働くっていうことだけではなく、自分の仕事も持ちながらもワーカーズコープを作ったりとか、地元で生協を作ったりとか、そういう風に色んなチャンネルを自分で持ちながら暮らしていくっていうことは1つの選択肢としてあるのかなと。

田舎に引っ越してきて思ったことなんですけど、特に今の80代ぐらいの人たちって、仕事を複数掛け持ちしていた方が多い。転職もすごいし。1つの仕事が、色んな社会の流れの中でブームが終わったりすると、別の仕事に就いたりすることも一般的に行われてきています。僕は東京で生まれ、東京育ちなので分からないけれど、もっと1人が色んな仕事とか役割とか、転職をすることはもう少し抵抗なくあってもいいのかなと思います。1つの会社に勤められたからこそ安定してきた人もいるし、それしか出来ない人もいるので、コロナ後の社会では、社会の根底で支えられるような社会保障の変化は必要だと思うけれど、もうちょっと生き方は自由であっても良いっていう社会の風潮になったらいいですよね。

 

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  • 最後に、協同組合を一言で表すと?

 

この機会に初めて考えましたが、「人間らしい組織」って言うことだと思います。株式会社にも良い企業もたくさんあると思いますが、やはり仕組みとしては資本が中心にあると思います。人間を中心に考えている組織は協同組合かなと思います。人間らしく働いたり、人間らしく生きるってことを大事にする組織のあり方。

人間らしさも時代と共に色んな変化があって、終わりが無いというか、ずっと考え続けるものだと思います。協同組合が出来た100年前の人間らしさと今とでは、良くなっている部分もあるだろうし、失った部分もあるだろうし。そういう意味ではこれから、またその人間らしさは変化するけれど、協同組合に関わっている人たちはずっと考え続けるんでしょうね。

1回決めて、進むんですけど、間違えたら見直すってぐらいが人間らしいかなと。一生懸命前に進むことも良いなと思うんですけど、途中で間違えるじゃないですか。その間違いを間違いとして認めてまた方向転換をしようというのが、協同組合であり、人間らしい組織だと思います。

 

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  • お忙しい中、ありがとうございました!

↓↓ グラフィック完成までの様子を1分で見る↓↓

 

こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページにも掲載されています。

 

ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第2回 労働者協同組合 玉木信博さん(1/2)

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 本企画の背景

2020年3月23日、ILO協同組合ユニットは創立100周年を迎えました。国や企業のサービスの届かない地域にも、必要なインフラやサービスを提供してきた歴史が協同組合にはあり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献してきました。世界中が新型コロナウィルス感染拡大の危機に直面し、人々の連帯がこれまで以上に必要とされる今、協同組合に注目が集まっています。

この機会に、若者世代の協同組合のイメージ(「古い」「縁遠い」)をより身近なもの/魅力的なものとするべく、日本の協同組合の活動を振り返ります。これからの時代の仕事/生活/消費/生産において、また今回のパンデミックをはじめ危機的状況において、協同組合はどのような役割を果たし、より良い未来を創っていけるのか。各協同組合で活躍される方々へのインタビューを通じて、協同組合の強みや可能性を、若者代表のILO駐日事務所インターンと一緒に耕して(探って)みたいと思います。

第1回は、株式会社 地球クラブ 厚東清子さんへインタビューしました。

第2回は労働者協同組合(ワーカーズコープ)で活躍されている玉木信博さんにお話を伺います。こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページにも掲載されています。

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インタビュー実施日:2020年5月27日

聞き手      :ILOインターン 藤田真理

グラフィック   :中尾有里

記録       :ILOインターン ジャン・ミロム

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労働者協同組合(ワーカーズコープ)とは?

 

ワーカーズコープは、働く人びとや市民がみんなで出資し、経営にみんなで参加し民主的に事業を運営し、責任を分かち合って、人と地域に役立つ仕事を自分たちでつくる協同組合です。
農協であれば、正組合員は農業者に限定されるし、生協であれば購買する人たちが組合員に、という風になりますけど、基本的にワーカーズコープはそういうジャンルがないんですよね。つまり、誰もが、共通の願いを持った人たちと集まってお金を出し合って、1人1票の議決権を持って、働くんですよね。ただ、どんな仕事でもいいというわけではなく、今回提出された労働者協同組合(ワーカーズコープ)の法律では、地域に必要な、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することと書かれています。これまでも、組織自体が全国組織か、都道府県組織かというのはあるのですが、基本的には地域にすごく密着している事業所が多いです。地域との関係性をなくしては事業所がそもそも成立しません。

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ワーカーズコープ連合会の組織図



4足のわらじで、全国組織から地域の一般社団法人まで

  • 今はどのようなお仕事をされているのですか?

 

これがなかなか難しいのですが(笑)他の協同組合と同じように全国連合会としてのワーカーズコープ連合会というものがあり、私は理事をしています。私自身の仕事は、これとは別にもう2つの仕事があります。

ワーカーズコープセンター事業団は、連合会に加盟しながら、福祉(子育て・高齢者支援、生活に困っている人々の支援)や、建物の設備管理・清掃などの事業を全国で展開しています。センター事業団には30年余りの歴史があり、初期は病院の清掃、掃除の仕事、公園の管理・緑化がメインでしたが、20年前から高齢者の介護や児童福祉、生活に困窮している人々へのサポート事業が増えてきました。その中で、常務理事として事業経営や運動的活動を含む組織全体の方向性を考える部署で働いています。

ワーカーズコープでは、常に経営のことも大きなテーマです。例えば、今全国に広がっている子ども食堂などは、地域に必要だし、組合員自身もやりたいという思いはあるけれども、経営としてなかなか成り立たないですよね。そういった、地域に必要で役には立つけれどもすぐには事業にならないような、「つながり」をベースにした活動をする日本社会連帯機構という団体を、ワーカーズコープセンター事業団が中心になって、15年前に立ち上げました。私は今、その団体の事務局長をしています。全国から補助の申請を受けたり、様々な団体と事業だけでなく運動的に連携したりと、様々な連帯をつくるための取組を行っています。

  

  • 事業のカバー範囲がとても広い印象ですが、ワーカーズコープはもともと今のような事業をされていたのですか?

 

戦後~90年代まで、国が失業者に対して仕事を出すという失業対策事業があったのですが、その失業対策事業が高度経済成長後に基本的に役割を終えて制度をなくすということになりました。制度がなくなることで、失業者が生まれていく中、人にただただ雇われて仕事をするのではなく自分たちでお金を出し合って、事業経営もしていこうとしたのが、ワーカーズコープの始まりです。ですので、はじめは、失業対策事業の時にあった、道路や建物の掃除や公園の緑化事業などがメインでした。私が入った15年前は、ちょうどワーカーズコープが福祉的な仕事に広がっていく時期でした。私も以前は、児童福祉(学童保育や児童館)や公共施設のコミュニティセンターの運営や、生活に困窮している人の支援等をしてきました。

 

  • 玉木さんは現在、3つも役職をお持ちなんですね(お忙しそう…)

 

そうですね、実はもう1つあってですね(笑)5年前に東京から長野県に移住したんですが、長野でも一般社団法人の活動をしています。

ワーカーズコープセンター事業団は全国組織なんですけれども、これから労働者協同組合の法律ができれば、小さな労働者協同組合(ワーカーズコープ)を誰もが作れるようになります。色んな地域で、その地域に必要な仕事をその仕組みを使って作ることができるようになるかもしれないんです。そうなったときに、今まではセンター事業団という大きな組織の中で働いてきましたが、今住んでいる長野県の小さな村で、村に必要なことを自分たちでつくろうということもできるかもしれない、ということで昨年から一般社団法人ソーシャルファームなかがわという、長野県の中川村で仕事をつくっていくワーカーズコープ的な存在・場所をつくっています。

 

労働者協同組合の法律ができる「前」とできた「後」

  • いま、一般社団法人という言葉が出ましたが、労働者協同組合(ワーカーズコープ)と一般社団法人は組織のあり方として両立するということですか?

 

いや、両立しないんですよね。組織の設立目的自体が違うということもあるし、働く1人ひとりの出資する権利が一般社団法人にある訳ではないので、完全には一致しないんです。また、NPO法人では出資が許されていないので、組合員として参加時に出資をして、退会時に出資金が返還されるという仕組みはNPO法人ではつくれないんです。そういう意味では、一致しないからこそ、新しい法律をつくっているんですよね。

 

 

その通りですね。なので、私たちワーカーズコープもNPO法人を使い、企業組合法人も一緒に運営していたりとか、色々な組織が色々な工夫をしているんですよね。一般社団法人も、組合員が出資をして経営にも参加という部分は一致しないのですが、公益性の高さや、出資は許されないけれど基金という形で積み上げることは許されていたりということがあるので、私自身は地元で一般社団法人でも設立しました。労働者協同組合の法律が出来たら、転換をするという形ですかね。

私が、この労働者協同組合の法律に希望を持っているのは、労働者協同組合だけでなく、日本で協同組合を自分たちでつくることが社会に広まるキッカケになると思っているからなんです。日本には今まで、自分たちでつくれる協同組合って少なくて、協同組合は基本的に参加して、加入するものという認識になっていますよね。株式会社やNPO、一般社団はつくれると思うんですが、協同組合はつくるというイメージがない現状の中、今回の法案では3人以上いれば協同組合が設立できることになっています。日本で初めての労働者協同組合の法律となると同時に、協同組合をつくる、立ち上げることがこの社会で広がるということが非常に面白いと思います。

フランスの労働者協同組合とかはITベンチャーのようなものが多いと聞いていますし、ドイツでは再生可能エネルギーの協同組合があったり。イタリアでは80~90年代に精神病院が廃止されて、その受け皿は地域だということで、社会的協同組合というものをつくって働く場とケアの機能を果たしています。色々な人たちが多様なワーカーズコープをつくることが非常に進む可能性があり、とても楽しみですね。

 

  • 確かに…!NPOの立ち上げや起業の話しは同年代でも聞いたことがあるけれど、協同組合を立ち上げたという話は聞いたことがないです。

 

それが、ヨーロッパ等と決定的に違うところかなと思っていて。協同組合はつくるものという認識を持っている人がヨーロッパでは多いと思うんです。コミュニティ協同組合であったり、社会的協同組合だったり、同じ思いを持った人たちが集まって、何か問題を解決するためにつくる組織という認識なんです。韓国もすごい勢いで協同組合法が出来上がって、協同組合をつくる動きが加速しています。

 

  • まさに、日本もその一歩を踏み出そうという段階ということですよね?

 

ワーカーズコープは、今まで協同組合として位置づけられた法律がなかったので、色々な法人格を使ってやってきました。ようやくここに来て、色々な協同組合の人たちや労働団体も含めて色々な応援や支援もあったり、国会でも法律を作ろうとする機運が高まってきている状態です。

 

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ケアと一次産業が、気候変動への取組の鍵

  • 玉木さんは多様な組織や分野に関わっていらっしゃいますよね。その中でも、特に注力しているお仕事は何ですか。

 

ワーカーズコープの中でケア、福祉に携わってきたので、私の中で1番大事にしていることは「ワーカーズコープの中でのケアってなんだろうか」というテーマですね。つまり、協同組合で1人1票で働いていて、民主的な組織を目指しているので、その中でケアする人/される人という区別は馴染むものなのだろうかと。そうした問いから現場のメンバーがつくりあげてきたものがあって、「対等な関係の中に自分たちワーカーズコープのケアがある」ということが今は一般的な認識になっています。これは、自分の中では大きなテーマです。海外から視察が来ることもあるのですが、千葉県松戸にある高齢者介護の事業所では、障害のある組合員もヘルパーとして働いてるんです。一面ではケアされる人たちが認知症の人たちのケアをする役割をもっていたりだとか、アルコール依存症の人たちが本部で働いていたりとか、発達障害の人たちも働いているし、多様な人たちがともに働いているという状況になってると思います。

もう1つ、今1番関心を持っているのは、気候変動の問題に対してワーカーズコープは一体何ができるのかということです。ワーカーズコープの歴史からいうと、失業したり非常に生活に苦しい人たちが集まって、今日まで必死につくってきた組織ですので、環境問題とか気候変動の問題は、初めから積極的に取り組んできたテーマではなかったように思います。ただ一方で、強い関心は持っていて、何か自分たちでも挑戦できないかと考えてきました。ここ10年ぐらいはワーカーズコープが農業であったり、林業に取り組んでいて、特に若い世代が中心に働いています。彼らの山や自然との関わりの中で、このままでは環境だけではなく社会自体が持たないんじゃないかという認識がかなり強まって来ていると感じます。ワーカーズコープにおけるケア(福祉)と一次産業の部分がこれから気候変動に対して非常に大きな役割を果たすんじゃないかと思っています。具体的な取り組みの1つとして、現在はBDFという天ぷら油を回収してバイオディーゼル(燃料)につくり直すということも、全国3カ所でやっています。

 

  • ワーカーズコープのお話の中で、「気候変動」というキーワードが出て来ることに驚きました…SDGsなどでも様々な社会課題があるとされている中で、特に気候変動にフォーカスしている理由は何ですか?

 

まず、SDGsはおそらく、単一のテーマで捉えても難しくて、むしろトータルにコミットできるかというのが、重要な捉え方だと思っています。僕らはずっと地域に必要な仕事とか、持続可能で循環的な地域社会にどうしたらなるかっていうことを考えてはきたけれども、気候変動の問題を放置しておくと、そういう次元ではなくなるということもありますよね。自然環境として人が住めなくなるっていう問題があったり。例えば、私たちが今関わっている生活に困窮している人たちは世界的に見ても気候変動の影響を最も受けるんですよね。これはアフリカとかアジアとかはもちろんそうだし、日本の社会の中でも、おそらく富裕層の人たちはよりいい環境を求めて移動して暮らす、または、2拠点、3拠点ということも出来るかもしれないですが、そういうことが実質的に出来ない人たちが大勢いるということがコロナ危機でも分かったわけです。

 

  • サステナブルな状態の地球ありきの全ての活動だということですよね。そのために、根本的な問題として気候変動に取り組んでいると…なるほど!

 

「支えるー支えられる」の関係性を見つめ直す

  • 先ほど、ケアする-されるの関係性の話がありましたが、人の関わりをどのように捉えていくかは、協同組合の根本的な部分だと思いますが、いかがですか?

 

そうだと思います。どういう関わり合い、関係性を作るかはすごく重要なことだなと思っています。これまでは、支える側が社会の中でも弱者をどう支えるかが議論されてきたと思うんですが、では、本当に弱者と呼ばれている人たちはそういう思いを持っているのか。支えられるよりも、自分がイキイキとこれから生きていきたいという願いの方が大きいと、僕は思っていて。そうなってくると今までの「支える」とか「支援する」というあり方は、おそらく大きく見直していくことが必要なんじゃないかと思っています。それを、ワーカーズの場合には、現場の日々起きる様々な出来事から学んでいます。一方的ではなく、相互に。多様な人たちがいることで、誰もがそういう学びの場に直面できるのだと思います。

 

  • 以前、認知症の方々が施設の中で役割を担いながら、イキイキと暮らす施設のドキュメンタリー番組で見たことがあるのですが、今のお話に通じるものを感じました。

 

つながっていると思いますね。近所のご高齢の方にお話を聞くと、特に男性は、デイサービスには行きたくないって言うんですよね。歌を歌ったり手遊びしたりするよりも、いつまでも働きたいって。満足のいく給与をもらいたいというよりは、やっぱり「役割」なんですよね。この小さな社会、小さな事業所でも自分が役割を担っているという実感が一番大切なんだと思います。今、介護の事業所でも働けるデイサービスというのが少しずつ出てきています。社会のニーズとか人々のニーズがあって、特に、若年性認知症の人たちは、有償ボランティアが特例的に認めています。

 

震災時、被災者自身による仕事づくりを一緒に

 

阪神淡路大震災の時は、私はまだワーカーズコープに入っていないんですけれども、災害支援ボラティア等でワーカーズコープからも現場に入ったと聞いています。あの時は建物の倒壊が多かったので、建設労協というのを現地で立ち上げて支援に入ったそうです。被災地域の色々なつながりで立ち上げたと聞いています。

2011年の東日本大震災は、本部の一部を東北に移管するという形をとりました。東京に本部があり、東京が東北を支援するのではなく、本部の一部を東北復興本部に置き、役員(当時の専務・副理事長)も異動しました。今のワーカーズコープセンター事業団の田中理事長が東北に移住して、そこで指揮を執っていました。その当時、私は北関東地域を担当していて、埼玉に事務所があり、群馬や栃木も担当していました。また、東北は近いかったこともあり、月に一回北関東のメンバーと一緒に炊き出しにも行っていました。ワーカーズコープとしては、東北復興本部と、以前からあった東北事業本部と一緒に、被災者自身による仕事づくりというのを今日まで続けてきています。東北沿岸部でもかなり進んできてはいます。

 

  • 被災地でも支援する-されるの関係ではなく、「自分たちで」という意識が貫かれている印象を受けます。

 

東日本大震災の時は、そういう意思は本当に強かったと思います。一方で、被災被害は非常に深刻で、被災当事者による仕事づくりにのために、特に20~30代のメンバーも全国から東北復興本部に移動しました。目に見えるインフラは良くなっていくけど、気持ちの傷は生涯癒えないかもしれないという中で、20~30代のメンバーが試行錯誤して、事業所を被災当事者と一緒に立ち上げました。

  

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コロナ禍、地域の小さなコミュニティで働き方/暮らし方の転換を

  • そのような意味ではコロナウイルスと今までの震災とでは質が違ったりするんでしょうか?

 

だいぶ違うかもしれないですね。リーマンショックの時も多くの方が失業し、年越し派遣村などができましたが、そういった失業者支援をしている人たちの中でも、リーマンショックよりもはるかに深刻な自体になってきているという認識です。これまでの自然災害は被災していない別の地域がサポートする形が取れたと思うんです。ただ、今回は全国共通のみならず世界的な失業や貧困がこれから深刻になってくるであろうと思っています。

目の前にある困難ということを考えれば、私たち自身は今までのように生活に困窮している人たちと、小さくとも地域に必要な仕事を立ち上げていくことがとても重要だと思います。ただ、おそらくワーカーズコープが単一できることは少なくて、色々な団体と連携しなければいけないし、農協、生協、森林組合、漁協、金融の組合やNPOとも一緒になって取り組んでいく必要があると思います。

もうちょっと長期のことを考えると、暮らし方とか働き方そのものが大きく変わっていくんだと思うんですよね。都市の一極集中で政策的にはずっときたものが、今回のコロナ禍では都市部での感染率が非常に高いことからも、人が一極に集中して暮らすということの難しさが見えてきたと思います。これだけ一次産業が大切にされない社会の弱さ、ちょっと物がなくなればパニックになるっている状況の中で、社会の転換がやってくるだろうなと。そういった社会をどうつくるのかというと、地域の中で小さな深い関係性を色々つくっていくしかないと思うんです。もちろん、大きな社会のグラウンドデザインは大事なんですけど、人間が生きていく大事な小さなコミュニティをどういうふうにつくっていくかということを考えると、ワーカーズのような組織が色々な人たちと連携してやっていくべきことは、中長期的に見ても大きいと思っています。

 

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次回は、労働協同組合で働き始めた理由や2030年のビジョンを通して、労働協同組合の可能性や価値観を聞いていきます!お楽しみに! 

ILO職員インタビュー第5回(2/2):坂本明子 技能・就業能力専門家

 

前回は、坂本さんの業務内容や、COVID-19による技能・職業訓練への影響について伺いました。記事はこちらから↓

第5回(1/2):坂本明子 技能・就業能力専門家~COVID-19と技能・就業訓練~

今回は、仕事でのやりがいや大切にされていること、そしてキャリアパスについて聞いていきます!

  

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在宅勤務中のバンコクの自宅にて


坂本 明子(さかもと あきこ)

英国ロンドン大学教育大学院博士号取得。専門は技能・職業教育訓練政策。ILOジュネーブ本部にて教育・職業訓練資格制度の整備等に従事した後、ILO南アジア局でインド、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、そしてアジア太平洋地域総局で主にフィリピン、マレーシア、インドネシアベトナムの技能・職能訓練政策並びに制度形成を支援。現在は、ILOアジア太平洋地域総局のディーセントワークチームにて、職業教育訓練、生涯学習などを担当。

  

印象に残っている仕事・やりがい 

坂本さんの中で最も印象深いプロジェクトはなんですか?

印象深かったのは、インドで行なった国家技能・職業能力開発政策(National skill development policy)の発動プロジェクトです。振り返ればもう10年程前になります。インドの経済が全体的に盛り上がっている時で、経済成長率も著しく、企業も高い技能・能力をもつ優秀な人材の確保に取り組んでいる時期でした。人づくりに対して国の戦略的な政策の必要性があると要望があり、インド初の国家技能職業能力開発政策にむけて政労使を含めた対談を重ね、政策策定をサポートしましたILOはプロジェクトの中で対話の場を設けたり、調整したり、また他国での経験や効果的だといわれる事例を紹介し参考にしたりと技術支援をしました。

その中で記憶に残っている場面は、プロジェクト終盤に政府側の責任者が、政策の草稿を首相の前でプレゼンテーションして閣僚決定にかけるという場面でした。その段階にいたっては外部の組織が立ち入ることはなく、全てこのプロジェクトのリーダーシップをとっていた労働省主導で行われたのですが、1年以上かけてILOの支援と政労使の方々との協力のもと作成された草稿を政府側トップがオーナーシップを持って直接プレゼンテーションした時、当事者として頑張ってくださっているということを感じました。政府の方々が、ご自身で噛み砕き、最終的に自分たちの主導で進めてくれたということにやりがいを感じ、少しお役に立てたかなと思える瞬間でした。今ではそのインドの技能・職業能力開発政策もほぼ5年ごとに改訂され、アップデートを重ねています。

 

様々なアクターを含めて合意を形成するということは大変な作業と受け取れます。

大変ですが、社会対話を大切にするというのはILOの精神の一つですからね。活動を行う上で様々なステークホルダーを交えて対話を行い、その中で解決点を見つけていくことはとてもやりがいがあります。政府の方、労使のパートナーの方々からそれは面白いと言われたり、ドナーを含めて一緒にやりませんかとアプローチいただいたりすると、ワクワクします。



専門家として大切なこと

仕事をする上で坂本さんが大事にされている、譲れない点は何でしょうか?

専門家としての仕事の一部なので余り意識していませんが、一緒に働いている国、パートナーの状況やニーズをよく把握すること、そしてそのための努力を怠らないことでしょうか。プロジェクトを行う上で、理想的なベストプラクティスが語られることはよくありますが、その事例が成功するかどうかは各国のコンテクストによって異なってきます。現場の環境が整っていなければ、モデルだけを持ってきても同じ効果は期待できません。その国の状況を100%理解することは難しいですが、できるだけ把握することでモデルの可能性や限界を模索できます。

もう一点は、外部から解決策を持ってくるのではなく、現場の状況をできるだけ把握した上でパートナーの方々と一緒に解決策を探し、プロジェクトを動かしていこうとする姿勢で臨むことを心がけています。

 

―そのような姿勢で臨む上で、特に気をつけている点がありますか?

提案の伝え方に気をつけています。ベストプラクティスや他国で成功したモデルに関して伝える時は、‘このセクター’、‘この国’では成功しているのですが、どうでしょうか、という話し方をするように心掛けています。基本的に外部から持ち込んだ解決策がそのまま現場に当てはまることはありませんので、どこを変えたら良いか、どの部分を改善できるか、情報提供をした上で問いかけていくようにしています

もう一つ、少し違う点になりますが、最近仕事をする上で一息つくことの大切さを特に感じるようになりました。あまり至近距離で仕事をしていると、見えるものも見えなくなります。職業訓練のプロジェクトは中長期の展望も大切なので、ある程度距離を置いて考えてみることが必要な時もあります。意識して少し一息つくことで、いいアイデアが思い浮かぶことが多々あり、また再始動する力になる時もあります。

 


ILOで働くまで

ILOに入られる前は学びの場に身を置かれていたり、仕事をされていたと伺っています。その経験は今にどう生きているのでしょうか?

大学では政治経済学を専攻し、その後カナダで国際開発学の修士をとりました。最初に働いた職場は、政府系開発援助のリサーチ業務などを行うところだったのですが、その職場で出会った方々からたくさんの刺激や挑戦を頂きました。当時職場にいながら社会人入学で夜学で大学に通っていましたが、頑張れ、と応援をくださる方々がおり、人柄的にも尊敬できる方が多くいらっしゃいました。また、この職場での業務経験をその後に繋いでいきたいと思っていました。

その後、ロンドン大学で取ったコースで教授に博士課程を勧められ進学をしました。博士課程を始める前は東アジアのプロジェクトの比較研究をやらないかと勧められ、研究員にもなりましたね。その時々に来た機会を躊躇せず受け入れてきたと思います。

これまでの職場、学校、奨学金の財団などで出会った方々とは今でもずっと繋がっていますし、大学を卒業してからもこれは面白いかもしれない、やりたい、と思える自分がいました。場面場面で巡り合った人たちに恵まれ、経験がまたその次の経験へ繋がることの連続で、今に繋がっていると思います。

 

研究員からILOという国際機関に入ることに抵抗感や不安はありませんでしたか?

初めての職場(政府系援助のリサーチ業務)では国連でのキャリアをもつ人もいて、開発援助に携わっている方々と交流することが多くあったので、国際機関に対する抵抗感はありませんでした。日本の外に出て活動することに関して不安などはなく、むしろそういった方々の仲間になりたいという思いが強くありました。また、その当時から労働というトピックには漠然と惹かれるものがありました。国際機関の中でもILOは専門性が高いということもあり、国連機関で唯一興味を持っていた機関でしたね。

 

 

キャリアを振り返って

―キャリアを積み上げていく中で苦労された点は何でしょうか? 

やはり仕事と家庭のバランスを取るのは大変です。家族が遠距離で暮らしていても大丈夫という方やご家庭ももちろんありますし、仕方がない状況にある場合もあるでしょう。それでも、私は一緒にいることを家族像の一つとして持っているので、そのような理想を持ちつつ国際機関で働き、移動を重ねるというキャリアはなかなか難しいものがあります。

夫とは私の家族観を共有しており、今となってはだいぶ長くなってきたキャリアの中で、ある時は夫が、ある時は私がお互いのキャリアを極力サポートしてきました。綱渡り状態ではありますが、バランスを取るためにお互いの譲り合いや、努力が大切と感じています。また、職場からの理解やサポートも仕事と家庭のバランスを取る上で大事なポイントでした。さらなる取り組みが必要な部分もありますが、ILOジェンダー意識も比較的高く、女性が働きやすい方だと思っています。お互いにキャリアを持つ家庭で仕事とのバランスをどう取るかは、職場内でよくあるトピックで、話題がつきません。

 

坂本さんのこれまでのキャリアを振り返ってみて、その中心にあると思われるもの、共通点のようなものはありますでしょうか?

今振り返ってみると、色々なことに対して常に主体的に動いてきたと思います。各場面で出会った人たちから感銘をうけ、面白いかもしれない、やれるかもしれないという好奇心や、または根拠のない自信などを持ち続けてきました。余り意識しているわけでないのですが、計画を立て達成していくというより、心持ちを大切にし、蓄積した知見や経験で誰かの役に立っているという感覚を大切にしてきました。
 

 

読者に向けたアドバイス

最後に国際機関を目指す人々にアドバイスをお願いします!

目指す機関にもよりますが、共通して実務経験は大切だと思います。国際機関で働くということ、特に各地域・国事務所では、現場の人たちと一緒に働くことになりますが、実務経験があるとパートナーの方々の問題意識を共有しやすいですし、特にILOは労働の世界の問題に取り組んでいる機関なので、労働市場に実際に出て、知見や感覚を得ることは大切なことではないかと思います。そのために一度、民間機関や、NGO等で実務経験を積むことをお勧めします。そこである程度自分の知識や経験を積んで、それをベースに国連の職についた時、さらに成長し活躍できるのではないかと思います。

そのような意味では、最初から国連機関を目指すのではなく、自分がやりたいことの先に、そして自分が何を貢献できるか考えた上で、たまたま雇用主が国連機関であるというように、選択肢の一つとして捉える方が良いと思います。

ILOは仕事の幅、裁量が広く、学びの機会がとても多いと思っています。違うバックグラウンドの人がいて、(労働の分野とはいえ)専門分野をこえてつながるグループがいて、考え方も多様で、同文化同一言語内によくみられる固定観念や既成概念などがあまりありません。それによるチャレンジもなきにしもあらずですが、そのような同僚と一緒に仕事をするのはとても面白いですし、お薦めの仕事です。頑張ってください!



―お忙しい中、ありがとうございました!

ILO職員インタビュー第5回(1/2):坂本明子 技能・就業能力専門家

 本企画はILOや国際機関に関心のある方や将来のキャリアとして国際機関を考えておられる方にILOの具体的な姿をイメージしてもらえることを目的としています。職員の方へのインタビューを通してILOでの具体的な業務、やりがいやキャリアパスを皆様にご紹介していきます!

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前回の記事はコチラ↓

第4回(1/2):三宅伸吾 労働法国際労働基準専門家~業務内容ややりがい~

第4回(2/2):三宅伸吾 労働法国際労働基準専門家~キャリアパス~

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第5回目はILOアジア太平洋地域局の技能・就業能力専門家である坂本さんにお話を伺いました。

 

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在宅勤務中のバンコクの自宅にて


坂本 明子(さかもと あきこ)

英国ロンドン大学教育大学院博士号取得。専門は技能・職業教育訓練政策。ILOジュネーブ本部にて教育・職業訓練資格制度の整備等に従事した後、ILO南アジア局でインド、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、そしてアジア太平洋地域総局で主にフィリピン、マレーシア、インドネシアベトナムの技能・職能訓練政策並びに制度形成を支援。現在は、ILOアジア太平洋地域総局のディーセントワークチームにて、職業教育訓練、生涯学習などを担当。

  

 

技能・就業能力専門家の仕事 

―現在の業務について教えていただけますか。

ILOアジア太平洋総局のディーセントワークチームにて、技能開発の専門家をしています。職業教育訓練、生涯学習などを担当しています。日本だと、教育というと若い人が学ぶ対象というイメージがありますが、私が担当する教育の対象はもっと広く人づくり、キャリアに関わる教育に携わっています。

現在は、主に3つの仕事を行っています。一つ目は、職業訓練、生涯教育に関連する政策の見直しや制度の効果を上げるためにILOパートナーと対話を通じて行う政策強化への支援です。二つ目は、職業訓練、生涯教育の政策実施や制度の見直しのために、具体的なプロジェクトの企画や実施を行います。三つ目は、技術・職業訓練に関する調査研究です。各国の事例研究、ILOのプロジェクトの評価等を行い、レポート、記事また出版物等にまとめます。ここでの分析が、一つ目や二つ目の仕事にインプットされ、更新、改善されながら、さらに効果的な政策支援へとつながっています。今は、これら3つの業務が相互につながった状況で仕事をしています。

 

COVID-19の技能・職業訓練への影響

―COVID-19によって、今の仕事内容に何か変化は起きましたか?

毎年時期によって3つの仕事の比重が異なるのですが、COVID-19の感染が拡大し始めた頃は、ちょうどインドネシア・マレーシア・フィリピンのプロジェクトが立ち上がる時期でした。このプロジェクトは、それぞれの国の技能・職業訓練制度の在り方を仕事の未来と包摂的な成長を助長する観点から見直そうとするものですが、外出制限が課され、職業訓練機関が通常に運営できない中で、当面の問題としていかに学びを継続していくことが課題になりました。オンラインでの訓練・教育の機会が注目を浴びる中、もともとプロジェクト内容の一つとして予定されていたオンラインを通じた教育の優先順位を上げ、訓練の機会をオンラインベースで確保できるよう支援を進めています。

また、これまで技能・職業訓練は都市部に集中し、農村地域の人々のアクセスの問題がありました。農村地域を含め、女性、若年層、社会的に弱い立場にいる人々に技能・職業訓練の機会をいかに均等にしていくのか、というのもプロジェクトの目的です。COVID-19は社会的に既に脆弱(vulnerable)な状況にある人々をさらに厳しい状況に追い込んだと思われます。今後プロジェクトを実施・拡大していくために、今は技能・職業訓練の機会の均等化に対する比重を高めているところです。

 

―COVID-19によって、急速にオンライン学習が世界的に注目されるようになりました。ポストCOVID-19において、技能・職業訓練は今までとどのように変化するとお考えですか?

オンライン学習は、これまで国によって学校教育においてはある程度浸透していましたが、技能・職業訓練では余り普及していませんでした。なぜなら、技能・職業訓練では理論だけではなく実技にも重点が置かれ、手を使って学ぶことが多いので、実技の学習、また評価をオンラインでどのように実施するのか、という点が課題でした。今後、職業訓練の分野でもオンライン学習だけでなく、スキルの需要や訓練の効果など、広くデジタル化が進むと思われます。しかし、経済がどれくらい、どの程度のペースで回復できるか、そもそも感染は収まるのか等、COVID-19のインパクトに関しては、まだ不透明なことが多いですね。

また、仕事を探したいと思っている人、そのためにスキルアップを考えている人は、この事態だからこそ今の雇用状況や労働市場をよく見て備えていく必要があります。中長期的にキャリアを考えるのであれば、COVID-19に対する企業の対応をみると多くの示唆があります。このような危機に企業がどう対応しているのか、経営の維持や雇用を守るためにどのような努力をしているのか、こういった点は企業の底力と基本的な姿勢が見える重要な指標だと思います。

「仕事の未来」はILOの100周年のテーマですが、そこにあるメッセージの一つは「仕事の未来」のビジョンはひとつではなく、自分たちで描いて、目指すものということ、そのために今何をすべきかを問いかけていることです。こういった考えは基本的に教育や訓練の在り方を考えるうえで当てはまると思います。今後、教育や訓練においては、労働者のより主体的な視点と行動が求められていきます。労働者自らが主体的にキャリアや仕事についてビジョンを持ち、そのために何をするべきか考えるアプローチが必要になってきます。これまで、教育・訓練は労働市場に入る前の準備として考えられてきました。しかし、労働市場に入るまでに特定の資格や技術を取れば準備万端であると言うことは通用しなくなり、変動が多い労働市場の中で、学びはこれまで以上に続くもの、求まれるものになるでしょう。労働市場に入った後も学び続ける「ライフロングラーニング」を広げていく制度が、今後一層必要になってきます。この点ではCOVID-19は失業者や雇用対策の一環として、スキルアップや新しいスキル取得の継続と、そのための制度作りの重要性を改めて示したといえます。ただ、生涯学習はライフプランニングを踏まえた広い考え方なので、たとえ仕事につながらなくても、自分の興味を追求する、何かを学ぶというその事実自体が、人間らしく生きるために重要であるとされています。

 

技能・就業能力訓練における制度の重要性

―労働者が主体的に行動するために重要なことは何でしょうか?

テクノロジーの進化、新しいビジネスモデルの模索が続く中、労働市場で求められるスキルは急速に変化していきます。ですので、「私の仕事の範囲はここまで」という現状維持より、仕事を通じて更なる学びの機会、スキルアップの機会を将来への就業能力をあげるための糧として前向きにとらえていく姿勢も大切です。

しかし、労働者の主体性を考える上で、これを個人の努力の問題として捉えることには気をつけなければなりません。学びの機会は均等ではなく、必ずしも自己責任の問題として捉えられないためです。ジェンダー、社会的背景、会社の規模など、様々な状況によって、人々が得られるスキルアップの機会は均等ではありません。必ずしも皆が学びを継続できる状況にいるわけではないため、学びのための支援、インセンティブ、報酬・リターンも一律ではありません。学びの機会をよりインクルーシブに確保し、提供することが重要になってきます。個人の範囲だけでなく企業や社会の問題として捉え、制度的にスキルアップの機会を設けなければなりません。企業の場合は、大切な人材として企業にいてもらう方法を考え、スキルアップの制度を整え、またそのインセンティブとリターンを考える必要があります。

 

どのようなスキルが自分に必要なのかを含め、キャリアを考える上で自分のビジョンを固めるのは難しい作業のように思えます。

将来像を描くことは確かに難しいですね。働き手がキャリアビジョンを描くことを企業が手伝うことも重要ですが、企業側がどのような人材が必要なのか、今後の事業展開の計画に絡めてメッセージを発信していくことが大切です。

これは、労働者のスキルを十分に活かせるか、というスキル活用(Skill utilization)の問題にもつながります。スキルアップしたものの、高い技術を持つ労働力に対する企業の需要は果たしてあるのか、ビジネスを展開していく上でその労働力をしっかり取り込めるか、技術・技能力に見合うだけの報酬は与えられるか、などの課題があるためです。ただ教育・訓練レベルが高ければいいというわけではなく、しっかりと労働者と使用者との需要と供給が合わなければなりません。そのために個人だけでなく、一人一人の労働者のスキルを支える、活用できる基盤、制度を含めて包括的に考える必要があるのです。

 

今後労働者に求められる力とILOの取り組み

ー坂本さんから見て、今後どのようなスキルが重要になってくるとお考えですか?

知識やスキルを学ぶことは大切ですが、好奇心や探究心、分析力、忍耐力、問題解決能力など、何かを学べる力やスキルアップをするための基礎となる力も同じく大切です。労働市場が常に動いている中で、その市場を追える力、将来のキャリアを描く力に繋がるためです。これらを強く持っていると、予想していなかった危機や展開があるときに主体的にその状況を打開していける原動力になります。これはスキルの有無と同じくらい大切です。このジェネラルな力の重要性はILOの中でも注目されています。

 

そのような力はどのように培われるのでしょうか?

逆説的かもしれませんが、ある分野、ある職業を深く長く、最低でもある程度の期間やることが一つの方法だと言えます。一つのことを追い求める過程では、先ほど話したような力の習得が必要とされるためです。しかし、途上国も含め雇用の機会が限られているところでは、即戦力として短期間の労働力が求められることが多く、このような力をつけることが難しい環境があります。このような環境では、キャリアアップをすることが難しく、中長期的な技術・技能を身につけづらいため、なかなかディーセントワークには届きにくいということもあります。そのため短期と中長期的な雇用機会にあわせてどのように技能訓練のバランスをとっていくかが大事になってきます。

 

 このような課題に対してILOはどのような活動を行なっていますか?

まず現場へ入って労働市場や雇用のニーズを確認し、技能・職業訓練の提供状況を把握します。その上でカリキュラムやコースの更新,改訂、職業訓練機関と企業との連携強化、またそこで必要となってくる法・制度整備等必要な部分をプロジェクトの形で支援します。ILOでは特にインフォーマルエコノミーで従事している方々へ中長期的なキャリアデザインの重要性を認識しています。基本的に現場のニーズに基づいて活動していますが、ILOが全てを請け負えるリソースはないので、ドナーに呼びかけを行うことも、逆にドナーの方からプロジェクトの提案が来ることもあります。



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後半は、坂本さんの仕事でのやりがいや大切にされていること、そしてキャリアパスについて掘り下げています。

記事はこちらから→ ILO職員インタビュー第5回(2/2):坂本明子 技能・就業能力専門家〜キャリアパス〜

また、以前、坂本さんには「活躍する日本人職員 」でもインタビューをさせていただきました。こちらの記事も是非ご覧ください。

ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第1回 (株)地球クラブ 厚東清子さん(2/2)

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前回は、厚東さんの現在のお仕事内容や生協で働くきっかけなどを伺いました。今回は、震災時の連携や、生協間の横のつながり、2030年のビジョンについて迫ります!

 

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震災への”生協流”向き合い方

阪神淡路大震災の時は学生でしたが、当時の様子を職場の先輩からいろいろ聞きました。コープこうべは神戸市と「緊急時における生活物資確保に関する協定」[1]を結んでいたので、コープの本部は倒壊していたのにもかかわらず、物流センターや取引先と連携し、救援物資をすぐ出せたそうです。協定では、オイルショックの時に買い占めが起きた教訓から、災害時に物資の奪い合いが起きないように、コープこうべが物資を正規価格で販売することが決められていました。この協定があったからこそ、当時、便乗値上げが起こらなかったと聞いています。阪神淡路大震災の時は、職員も、自分の家が壊れているのにもかかわらず、駆けつけ、店舗にあるものを外で販売したりとすぐ動いていました。この話を資料で読んだとき、生協職員の根っこには「自分も大変なときでも、すぐ誰かのために動く」という姿勢があるんだなと思いました。

東日本大震災の時も、発生の翌日にはコープこうべの人間はトラックを出して、東日本の現場に向かいました。道路が寸断されていたりしていましたが、「まず、行こう」と。更に、その後の熊本地震等の災害時の経験も積んだことから、各生協との横のつながりができているので、緊急時に向かうべき場所の割り振りもすぐにできるような体制になってきています。

熊本地震の時も、現場にはいろいろな生協の制服をきている人たちがいて、非常に統率の取れた行動が取られていました。阪神淡路大震災の経験が活かされていると思います。

今回の新型コロナウイルスでも、各生協も大変なので、今は日本生協連が事業連合会として各生協の状況を把握して、働く人をまず守るということに取り組んでいます。緊急用に備蓄してあったマスクを医療生協や介護の現場の職員さん向けに送ったりしています。何かあった時に、すぐに行動できる体制はずっと出来ているのかなと。

 

  • 過去の経験が生かされて、その都度の災害対応につながっているというのは、一つの会社がこのようなことをやろうとすると、なかなか難しいような気もします。経験を引き継ぐために、何か取り組みは行われていますか?

各生協に、過去の経験をまとめる部署があります。まとめられた資料も、職員が見たい時にいつでもアクセスできるようになっています。あとは、先輩方の話を聞いたというのも大きかったと思います。私は先輩たちとよく飲みにいくので、飲みの席でよく話を聞いてました(笑)。

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未来の子どもたちのためにエネルギー問題に取り組む

  • 今は環境問題にフォーカスした仕事をされていますが、SDGsなどの社会課題とされている事柄の中でも、最も気になっている/働きかけていきたい分野はありますか?

今、エネルギー関係の仕事をしているので、やはり、ゴール13の「気候変動に具体的な対策を」に一番関心があります。日本生協連としても「地球温暖化対策を推進し、再生可能エネルギーを利用し普及しましょう」と言っているので、まさに、それを具体的に進める部署だと思っています。

また、ゴール7の「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の具体的な実践として、再生可能エネルギーにこだわって調達をして広げていきたいと考えています。

 

  • 地球クラブという組織から環境問題に取り組む意義は何でしょうか?

未来のことを考える組織だからこそ、再生可能エネルギーに取り組む意義があると思います。未来の日本を担う子どもたちに負の遺産を残してはいけないですし、今起きている災害の原因と言われている地球温暖化を少しでも止めなければいけない、と考えている組織だからこそ、再生可能エネルギーに取り組む必要があるのだと思います。

各生協が実施している組合員学習会などで、エネルギーについて組合員さんと一緒に考えるという機会も多くあるのですが、その際も、今の自分たちのためというより、未来の子どもたちのためにという意識で行っていることが多いですね。

 

  • 生協というもともとのネットワークを活用して、再生可能エネルギーについての学習の機会を設けることもできるのですね。再生可能エネルギーを使おうと人が思えるようになるためには、「知る」ことは大切ですよね。

そうですね、組合員は意識が高い方が多く、配達担当者が(エネルギーの)話をすると、聞いてもらえることも多いようです。なので、職員のレベルアップにも取り組んでいて、宅配センターで配達担当者をはじめとする職員向けに学習会を開催することもあります。これも、再エネの取り組みの一つなんです。今後、配達担当者、生協職員全員に再生可能エネルギーについて知ってもらうことは、私の夢の一つでもあります。 

組織を超えた”当たり前な”協力体制

  • 今までのお話で、生協について語る際、「横のつながり」はキーワードのような気がしています。

実は、近隣の生協間ではお互いを良い意味でライバル視することもあるのですが、新型コロナのような緊急事態になると、横のつながりって強くって助け合うところが出てくるので、不思議だなと思っています(笑)緊急事態でなくても、例えばそれぞれの生協が独自の電気メニューを作って取り組んでいたりするのですが、電気に関する学習会とかを開催すると、相手のいいところを積極的に吸収しようとしたり、意見交換を活発に行ったりしています。ライバルでもあるけれど、仲が良いというところは、好きですね。

 

  • なぜ、そのような関係性が出来ているのですか?

なんか、もう当たり前になっていますね。困っている人がいたら、そこに助けにいく、というのを疑問を持たずに行動をすることが生協の職員は多いかもしれません。でも、それが普通なので「なんで?」と聞かれると困りますね(笑)

つい最近の北海道地震の際も、コープさっぽろの職員は被災した方も全員出勤したと聞いています。パートの方であっても、困っている人がいたら自らを顧みずすぐに駆けつける、という意識の方が多いなと思います。

今も、本来は4月が異動のタイミングだったのですが、日本生協連ではコロナウイルスが発生したことを踏まえて、異動を一旦止めて、元の職場に応援のために駆けつけたりしています。このように、たとえ明日からすぐに元の職場に戻って手伝ってと言われても、誰も文句も言わずにその判断を受け入れていると思います。

助け合いが当たり前、という考えは、やはり過去に助けられたと言う経験が原動力になっていますね。阪神淡路大震災の時に助けてもらったから、東日本大震災の時は助けにいく、こういった経験が共有されて、助け合いの精神が根付いているのだと思います。

 

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 再生可能エネルギーは、元々地域によってポテンシャルが違います。例えば、東北は風力が、九州は地熱が得意であったり。なので、各生協から「新しい再エネを調達したいんだけれど、どういうところにアプローチしたらいいのか?」と聞かれた際には、別の生協に連絡をとって色々教えてもらったり、どこにアクセスすればいいのか等の情報交換をすることもできています。地球クラブにも、各生協から「この(エネルギー関連)商品を紹介してほしい」などと営業が来る時もあり、他の生協につなげたりする時もあります。また、地球クラブが調達した電気を、他の独自に再エネに取り組んでいる生協に販売したりとかもしています。

生協全体で、「原発に頼らないエネルギーを皆でつくって使っていきましょう」という方針が出来たこともあり、再エネで生協同士をつなぐ際も、将来の地球温暖化対策の一つとして再エネに取り組むということがまず最初に共有されています。もちろん数字や利益も見ますが、そのような方針があるということは大きいと思います。

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2030年…「当たり前」の中に生協があって欲しい

  • 10年後、2030年までのビジョンはありますか?あれば、どのようなものか教えてください。

地球クラブとしては、日本全体の電気を100%再生可能エネルギーにするというのが目標です。そのために、まずは地球クラブの事業を日本生協連の主力事業にしていきたいです。日本生協連ウェブサイトには、主力事業が「サービスと取り組み」で紹介されるのですが、電気供給・調達事業はまだメインで表示されていません。電気は、年齢性別関係なく使うもの、つまり、食事と同じで、生まれてから死ぬまで使うものです。事業としてもっと大きくなって、日本全体の再生可能エネルギーの調達と普及に関わりたいと考えています。そのために、まずは自分たちが「再エネ電源・電力のプロフェッショナル集団になろう」といっています。

 

  • 再エネ100%になった社会とは、どんなものだと思いますか?

100%再生可能エネルギーにすると、温暖化を少しでも減退させることができますし、原発事故の問題を抱えなくてよくなります。また、再エネ普及に伴う雇用も生まれると思います。雇用が創出されると、お金の回り方が代わるので、発電所がある地域の活性化にもつながっていきます。 

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  • 厚東さんご自身のビジョンはありますか?

個人としては、当たり前の中に生協があって欲しいと思います。日本生協連の中でも、電気の契約をしている人はまだ少ないです。電気といえば地球クラブ!となるようになって欲しいです。生協に関しても、知ってはいるけど、関わっていないという人が多いと思うので、特別ではなくて、普段の生活の中に入っていけたらいいなと思っています。今関わっている電気という分野で、私は当たり前になりたいです。

 

  • 若者世代に協同組合を広げるために、今の協同組合はどのように発展していけばいいと思われますか?

これは、ずっと課題だと思っていることですね。私は、発展よりも発信が大事だと思っています。協同組合と言うと、どうしても堅い、古いというイメージがあるので、実は身近にあるということを感じて欲しいです。例えば、SDGsの「つくる責任、つかう責任」にもあるように、材料などにこだわったコープ商品を選んでもらうだけでも、協同組合に関わってもらっていることを分かってもらえればいいのかなと。協同組合自体が「どう変わるか」ではなく、今の協同組合をしっかり「どう発信をしていくか」が大事だと思います。

最近になって、ようやくCMもやり始めて、すこし柔らかいイメージになってきたかなとは思っています。こういう新しい取り組みは、続けていった方がいいと思います。SNSもやっているようです。多くの人の目につくところにやわらかく入っていけるものを、如何に継続的に発信できるかが課題だと感じています。

 

  • 協同組合が掲げているビジョンや理念は、まさに今の若い世代が共感できる考え方や取り組みを持っていますので、普遍的な価値を持った組織としてどんどん認知されていったらいいですね。

 歴史がある古い組織ではあるのですが、そういう風にいっていただけると嬉しいですね。

私が生協という組織で長年働いてきた中で「やっぱりこの組織が好きだな」と思う部分は、第一に相手の立場に立って考え、それをすぐ行動に移す風土であることです。

災害が発生した際、多くの生協が真っ先に現地に向かうのはその表れだと思います。また東日本大震災が発生したとき、私はコープこうべ労働組合の専従でした。春闘真っ最中で、生協側の回答を呑めず戦い続ける姿勢の中、遠くの地域で大震災が起こり、瞬時に今何をやるべきなのか方向転換したのを覚えています。同じ生協で働くなかまが被災している中、自分たちの労働状況改善を求めている場合ではない、と。このような組織が継続、発展するためには、宅配・店舗事業で利益を出さなければなりません。ですので、一人でも多くの方(組合員さん)にコープ商品をご利用いただきたいですね。

 

  • 協同組合を一言で表すとしたら、何でしょうか。

 「つながり」
上下はあまりないのですが、横のつながりがあるから、これまで震災でも対応ができてきているのだと思います。

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  • お忙しい中、ありがとうございました!

↓↓ グラフィック完成までの様子を1分で見る↓↓

 

こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページにも掲載されています。

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[1] 神戸市とコープこうべは、阪神淡路大震災の15年前の1980年に「緊急時における生活物資確保に関する協定」を締結。オイルショックの時に起こった物不足、パニック、物価狂乱に対する反省から、神戸市とコープこうべの間で物価問題研究会を設置。緊急時対応策として1つ目は、店舗に品切れを起こさないために緊急時における商品手配システムをつくること、2つ目に公正適正価格を維持するための物価監視機能を強めること、3つ目に公正な分配をすること。パニックが起こるとまず困るのは、特に高齢者や体の不自由な方々であるということを踏まえ、具体的なシステムを準備するための討議が行われた結果、「緊急時における生活物資確保に関する協定」が結ばれた。

ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第1回 (株)地球クラブ 厚東清子さん(1/2)

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 本企画の背景

2020年3月23日、ILO協同組合ユニットは創立100周年を迎えました。国や企業のサービスの届かない地域にも、必要なインフラやサービスを提供してきた歴史が協同組合にはあり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献してきました。世界中が新型コロナウィルス感染拡大の危機に直面し、人々の連帯がこれまで以上に必要とされる今、協同組合に注目が集まっています。

この機会に、若者世代の協同組合のイメージ(「古い」「縁遠い」)をより身近なもの/魅力的なものとするべく、日本の協同組合の活動を振り返ります。これからの時代の仕事/生活/消費/生産において、また今回のパンデミックをはじめ危機的状況において、協同組合はどのような役割を果たし、より良い未来を創っていけるのか。各協同組合で活躍される方々へのインタビューを通じて、協同組合の強みや可能性を、若者代表のILO駐日事務所インターンと一緒に耕して(探って)みたいと思います。

第1回は、株式会社 地球クラブ 厚東清子さんへのインタビューです。
こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページにも掲載されています。

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インタビュー実施日:2020年5月15日

聞き手      :ILOインターン 藤田真理

グラフィック   :中尾有里

記録       :ILOインターン乗上美沙

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 生協が再エネ!?株式会社 地球クラブとは?

株式会社 地球クラブは、生協の電力事業を担うために設立された、日本生協連の子会社。再生可能エネルギーを“つくって つかって ひろげて”を目指し、2014年に設立されました。再生可能エネルギー(FIT電気含む)の調達・供給を中心とした電力事業を通じて、持続可能な社会の実現に貢献することを目的としています。 

現在の仕事は、”生協における再生可能エネルギー普及”

  • 現在のお仕事内容を教えてください。

厚東さん(以下、略):日本生協連の子会社である地球クラブで仕事をしています。生協の事業所や組合員に電気を供給する仕事です。供給だけでなく、電気の調達も担当しています。普段の仕事では二つの点について心がけています。第一に、環境への配慮です。環境を考慮し、再生可能エネルギーから作られる電気を調達しています。第二に、家計への配慮です。どれだけ良い電気であっても、値段が高いと誰も使わないので、大手電力会社より少しでも安い価格で供給するようにしています。

 

今までは、発電時に二酸化炭素を出すというのが一般的だったんです。一方、再生可能エネルギーは、電気を作るための原料が色々ある中で、発電時に二酸化炭素を排出しない地球上に存在するもの使って作るエネルギーを指します。「原発二酸化炭素を排出しないからいいんじゃないか」という意見もあるのですが、東日本大震災原発事故を機に、二酸化炭素を排出しない、かつ、原発にも頼らないということにこだわっています。再生可能エネルギーは、風も水も地球上に存在していて、なくならない、だから、ずっと再生するというエネルギーなんです。地球上に存在するので、エネルギー自体はお金がかかりません。風力発電も風に「お金出すから吹いて~」というのではなく、風が勝手に吹きますし、太陽光発電も自然に日が照りますよね。

 

再生可能エネルギーを使用して発電しているものを中心に調達をしています。更に、調達だけではなく、再生可能エネルギーに由来する電気の利用も促進しています。例えば、電気は電線を通りますが、電線は通せる電気量に限りがあります。現在は、原子力で発電されたもの、火力で発電されたもの、石炭で発電されたものも含まれていて、その割合が高いと、再生可能エネルギー由来の電気が通れる量は少なくなってしまいます。今後、多くの人が再生可能エネルギーに由来する電気を選ぶようになると、電線の中でその割合が増えていきます。そのために、「再生可能エネルギーの電気を使うように変えませんか?」というアピールも取り組みの一つなんですね。

今は、主にまだ再生可能エネルギー導入の取り組みができていない生協の事業所に対して営業をしています。各生協の方針によって違うので、環境のことは大事だけど、やはり電気代を安くしたいと言って大手の電力会社を選ぶというケースもあり、そこにどうアプローチしていくかを地球クラブだけでなく、日本生協連としても模索しています。再生可能エネルギーによって好循環となる環境にまつわるストーリーに加え、再生可能エネルギーだとCO2排出量も少ないので、各生協の環境配慮の指針や目標の達成にも適しているという、現実的な数字の話もします。

また、地球クラブは、直接組合員と関わることはありませんが、コープみらいさんやコープ東北さんを通じて、組合員さんの声を集めてもらったりしています。例えば、組合員さんに対するアンケートをお願いして、その回答の中でいろいろな声をいただいています。発電所スタディーツアーがあったら参加したいという声も沢山いただいているので、これから形にしたいなと思っているところです。

 

  • 仕事でのやりがいはどのような時に感じますか?

今の仕事への入り口は単純に人事異動でしたが、生協全体で、「原発に頼らないエネルギーを皆でつくって使っていきましょう」という方針がつくられ、それを形にしているんですよね。先を見据えてみんなで決めたことを実現できている部署であることに、やりがいを感じています。

地球クラブは小売電気事業者なのですが、その日、その時に必要な電気の量に対して、同じバランスで調達をすることが最重要課題となっています。このバランスがうまくいかないと、北海道地震で起きたブラックアウトや停電が発生してしまいます。このバランスを正確に予測して、それに応じた電気の量を買う、という作業を、毎日30分毎に見ていくのですが、その誤差が少なかった時はすごくやりがいを感じ、日本のエネルギーの安定供給の一助になっていると感じます。

また、電気は作られる元が全然違うんですよね。海外から調達したエネルギーを元に発電した電力だと、その電力への収益は海外に回っていくのですが、国内にあるエネルギーを使って国内で発電された電力は国内にお金が回ることになります。一方、海外から輸入した天然ガスや石油で発電した電力は燃料購入先である海外にお金が流れていきます。電気は誰もが日々使いますが、電気に対する支払い(電気代)が、どこへ循環していくのか、自分のお金がどう使われていくのか、を知れることが面白いと感じています。地球クラブは、国内で電力を調達しているので、収益は日本の中で循環していき、結果的に地産地消にもつながるようになっています。

 

  • 今まで生協の中でも沢山の仕事を経験されてきたと思いますが、今の仕事と、前職との違いは何でしょうか?

前職は商品事業の業務に従事し、コープ商品の開発等を担当していました。商品の在庫管理が大変で、今はコロナの影響で注文が多くなっていますが、当時はここまで注文が多くなく、在庫が残り、賞味期限が切れるものとかの在庫管理が大変でした。食品ロスの議論が行われていますが、結局賞味期限が近いものは生協が受け入れてくれないので、在庫管理の難しさを体感しました。一方で、電気は物理的商品がないので、欠品とかを考えることはありません。

悩んだ新人時代、支えになった組合員の存在

  • 前職も含めて、協同組合では様々なお仕事をされていたわけですが、なぜ、協同組合で働こうと思ったのですか?

協同組合だから働きたいと思っていたわけではなく、大学時代、私も協同組合は生協くらいの認識でした。ただ当時、株式会社には興味がありませんでした。株主のために利益をあげること、つまり、株主のために仕事をするのは楽しいのかなという疑問から、協同組合に関心を持つようになりました。また、全員が平等である組織であることにも興味を持ちました。

また、当時は神戸にいたのですが、神戸では生協の店舗数が多く、協同組合=生協というぐらい普段の生活の中で近い存在であったことも、コープこうべを志望した理由でした。

 

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  • 組合員のために働き、全員が平等であるという原則に惹かれて入社された中、入社前の理想と、入社後の現実の中で、何かギャップを感じたことはありますか?

最初は少し違ったと感じました(笑)「協同組合において事業系の活動をするためには、原資が必要だから、宅配等で利益をあげる必要がある」と株式会社のように言われたこともありました。赤字だったら何もできないから稼ぐのは当たり前だと。こういった現実に対しては、最初の4、5年は辛かったのですが、時間をかけて理解をしていきました。売上をあげて、利益を得た分を組合員に還元していくことが、協同組合にとっては大切だと理解しています。

 

  • 事業を展開する上で利益を上げなければいけないといった共通点はあるものの、働かれる中で、株式会社との違いを特に感じられた出来事はありますか?

入社後、最初は宅配業務だったので、組合員と接触できる機会を非常に多くいただき、「組合員の方々のために仕事をしていきたい」と自然に思えるようになっていました。生協のすごいところは、今は分りませんが当時は、「生協」って呼ばれていました。自分の名前を言わなくてもドアを開けて、初対面の方でも話をしてくださったり、身近な存在だったのかなと思います。組合員さんとの距離の近さは、宅配業務に携わっていない生協専従の職員も同じように感じていたのではないかと思います。この点は、やはり株式会社の場合だと、サービスの提供対象との距離は近くないことがあるのかなと思います。

 

  • 生活協同組合という大きな組織の中で、ご自身のやりたいことをどのように実現/実行されてきたのでしょうか?

生協がすごく大きな組織であるということはもちろん、知ってはいるんですが、働く上では、それほど意識していません。今自分がいるところから、つながりがあると思っているだけでしたね。やりたいことを実現、というのは、本当に目の前のことを大事に行動することかなと。今の仕事としては、何気なく使っている電気って選ぶこともできるし、未来に貢献することもできる、ということを常に意識しています。日本生協連の中でも、再エネについてあまり知らないという人は多くいるので、自分が考えていることを少しずつ広げていきたいなと。草の根運動みたいですけど(笑)以前は、(生協の)お店でも仕事をしましたが、その時も、「お店にはお店の役割がある」と思いながら、販売を通して利益をあげ、生協全体が回るようにするんだと考えて目の前の仕事をしていました。今やることを小さいけれど、しっかりやることの先に、大きなつながりがあったのではないかと思います。

 

  • 例えば、組織と考え方とご自身の考え方が違った際、どう立ち回ってきたのでしょうか?

配達していた頃は、組合員に愚痴をいったこともあります(笑)組合員はお客様ではありますが、純粋なお客さんとはまた違った特別な存在です。家族でも友達でもないのに、愚痴を聞いてもらえるってすごいなと、改めて思います(笑)

私は、基本的になんでも溜めないタイプなので、直接上司とかに話ができていました。目の前のことを一生懸命こなすことで、悩みを解消してきました。

労働組合に参加していた時もあったのですが、その時は他の生協との横のつながりで、事例やアドバイスを聞いたりしながら、新しい取り組みを行動に移していました。

 

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次回は、緊急時の生協間の連携や2030年のビジョンについて聞いていきます!お楽しみに!

Intern report (4/4):SSE (Social solidarity Economy) –its characteristics and challenges

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This report introduces what the Social Solidarity Economy (SSE) is, the challenges it faces and why the ILO works on the SSE. At the end of the report, I conclude with my own ideas and suggestions about the role of the SSE in the future.

Please check out previous posts at the following links.

 

Vol.1  SSE : Social Solidarity Economy

Vol.2  ILO and SSE ~How the ILO deals with the SSE

Vol. 3  Two Main Challenges SSE faces

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4.Possible solutions against the challenges

SSE needs unique process to raise funds. At guarantee and stable income, one of these processes, public funds and governments’ roles are important. We will see some example of public entities played a large part in guarantee or income. In Quebec, local governments and local financial institutions played a large part in developing SSE. In India, large financial dependence on local governments may sometimes dangerous for cooperatives.

-Quebec

  • There are strong and institutionalized ecosystems of SSE in Quebec. ILO(2019)[1] raises some reasons why such ecosystems are formed in Quebec, such as long history of activities of cooperatives and communities, active local governments supporting SSE both politically and financially and cross-sector cooperation.
  • Especially, openness of local governments to involve SSE in public policy making is one of the characteristics of Quebec in SSE’s success. SSE in Quebec sell more than 40 billion Canadian Dollars and employ 210 thousand people.
  • In Quebec, as nonprofit and democracy of the organizations are considered important, private companies setting own social goals cannot access to most of financial services provided by local governments. However, there are other schemes which support SSE financially. For example, “development capital” including venture investments is used to invest every entity setting social goals whether they are SSE or not while “solidarity finance” means investments to entities owned collectively.

An example of Quebec shows that policy making and discussion among local governments, financial institutions and SSE leads to making the ground where SSE are easy to do their business. On the other hand, SSE’s dependence on local governments will sometimes cause them harm. For example, SSE which highly depend their profits on public procurements of local governments are influenced by policy change or conflicts of political parties.

-IndiaShree Saundarya Safai Utkarsh Mahila SEWA Sahakari Mandli Limited.

  • Shree Saundarya Safai Utkarsh Mahila SEWA Sahakari Mandli Limited is the cooperative of women providing cleaning services, founded with the supports of federal organization of SEWA mentioned above.
  • This cooperative has consigned cleaning services in public offices since its founding. However, it got difficult for this cooperative to get regular job because the contract are renewed annually and other contractors got the contract.
  • Therefore, the federal organization of SEWA started marketing research and regular visits to targeted possible clients.

This case shows that high dependence on public procurements will threaten the existence of SSE while public procurements are important in creating sustainable employments. It also shows that supports with professional knowledge and SSEs’ efforts to develop markets are effective to those challenges. ILO also provides technical support to build capacities of SSE.

 

We have seen the role and importance of public funds for SSE, however, private funds also play a large part in financing to SSE. Among private funds, especially these two are expected their contribution to SSE: finance by cooperatives and finance based on social performances.

 

Kyosai is a mutual insurance provided by cooperatives. Cooperative financial services are different from purely commercial schemes because they focus on serving their local customers and members, rather than on maximizing profits. As SSE tends to have financial risks more frequently than pure commercial enterprises, this cooperative scheme is helpful for SSE to get stable funds. In Japan, labour banks (Rokin) and credit unions (Shinkin) are among cooperative financial institutions.

 

Financial services based on social performances mean that social performances of organizations or institutions are considered in addition to their financial performances when financial institutions decide whether they should finance to SSE. These involves various financial schemes including social impact bonds, social impact investments and social impact insurances. Especially, social impact bonds are used so well that social performances are considered when financing to public-private partnership projects. Social Impact Investment Taskforce established by G8 (now Global Social Impact Investment Steering Group) proposed some governments’ actions which promote the use of social impact investments such as setting measurable goals, clarifying the responsibility of trustee and setting an environment where private institutions can use social impact investments easily.

The ILO has social finance programme which support building capacities of financial sectors in developing countries, aiming to achieve Decent Work for all through enabling financial services to SMEs and individuals. In this programme, financial services are provided based on financial and social performances, how well the companies contribute to Decent Work.

 

5.Conclusion: The roles of the SSE in the future

I hope this report successfully introduces the important roles of SSE in creating Decent Work and necessities of involving various actors including governments and financial institutions to develop the SSE. As a conclusion, I’d like to show my points of view about how SSE should be dealt with in public policy and what kinds of roles SSE should play in the future.

 I’ve pointed out the possibility of change of SSEs’ characteristics depends on whether governments consider SSE as a policy tool or policy objectives. It is important to keep basic traits of SSE, social objectives, cooperation and democracy while achieving policy goals including creating Decent Work. In order to do that, it is necessary for governments to recognize actual situations of SSE and institutionalize it. In Japan, cooperatives are regulated separately depending on the fields of their business and NPO or other incorporated associations and foundations are regulated depending on their legal personalities. I think it is important for governments to define the basic values of SSE crossing sectors and legal entities and to cooperate with SSE and commercial enterprises in order to achieve policy goals without deteriorating the values of SSE. If there is no definition of SSE, the differences of commercial enterprises and SSE will be diluted. It is important to recognize advantages and disadvantages of both SSE and commercial enterprises and maximize their performances because SSE is not a panacea to social issues and commercial enterprises also play important roles. For this reason, we have to know what is SSE and which organizations fall into the category of SSE.

   In the world of work, SSE including cooperatives have played a part in formalizing informal employments, financial inclusion and providing social protection, job training and employment opportunity to fragile workers (youth, women and people with disability) until now. They have provided minimum required safety net to people. In the future, their roles will expand to create Decent Work by ensuring high productivity and sustainability of their businesses. This means that SSE should cooperate with commercial enterprises and work on innovation actively. For example, SSE will play a role in protecting workers in global supply chain and in connecting people from different areas by using online platform. The more frequently SSE work with commercial enterprises, the more incorporated SSE will be in their supply chain. SSE will be expected to protect their workers in such a situation. As for the platform SSE, SSE will intermediate workers with people in needs like platformers do these days. In Europe and US, there are some platforms which intermediate home care services provided by immigrants or manage accommodations by communities. In Japan, cooperation among remote areas will be important in aging and declining society.

 

[1] ILO(2019) op.cit.

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Thank you for reading the report!