ILO_Japan_Friends’s diary

ILO Japan Friends’ diary

国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

MENU

【まとめシリーズ vol.1】コロナ禍に聞く若者の働き方:はじめに&ILO調査から見る、新型コロナウイルスが若者に与えた影響 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828120432p:plain

今回のまとめシリーズの元になった座談会の記事はこちら↓

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol.1

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol.2

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol. 3

================================

第1章 はじめに

新型コロナウイルスは、これまでの私たちの生活を一変させ、移民労働者、女性など、それぞれのグループが直面している課題を露わにしています。その中でも、「ILOモニタリング資料:新型コロナウイルスと仕事の世界 第4版」は、新型コロナウイルスが若者に与えた影響に着目しました。(モニタリングでは若者を18-29歳と定義します。)

 

モニタリングは、若者が受ける3重のショックを指摘しています:

パンデミック発生後、働かなくなった若者は6人に1人を上回り、就労中である若者も労働時間が23%減少。

②雇用に止まらず、教育や訓練も中断された。

③雇用、教育、訓練の中断の結果、若者の就職活動や転職に大きな障害が発生。

 

また、8月12日の国際青少年デーに際し公表された報告書 "Youth&COVID-19: Impacts on Jobs, Education, Rights and Mental Well-being"では、約112カ国・12,000以上の18-34歳のアンケート回答をもとに、雇用、教育及び訓練、精神的ウェルビーイング、権利の4つの分野において若者が受けた影響を詳細に分析しています。

 

これらの調査を受け、私たちILOインターンの中で、こんな問いが浮かんできました:

新型コロナウイルスの影響が及ぶ社会の中で、実際の若者はキャリアについて何を思い、何を感じているのか?

 

今回、ILO調査から明らかになった若者への影響を足がかりに、実際の状況を「見える化」するために、ILOインターン経験者計8名の座談会を行いました。本調査レポートでは、第2章でILO報告書の内容を概説し、第3章では座談会から得られたエピソードにも見られるコロナの影響を明らかにしていきます。そして、第4章では、座談会参加者のエピソードに示唆されている、コロナ以前から若者のキャリアに影響を及ぼしている要素を取り上げ、これらの影響を乗り越えるためのアイデアを提示します。この報告書を通して、若者が考える「仕事の未来」とは何か、その答えのヒントとなる示唆を見せられたらと思います。

 

パンデミックの影響は人によって様々です。ILOモニタリングのようなマクロの視点に基づいた分析やデータと同じように重要であるのは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」と誓った持続可能な開発目標(SDGs)を体現する観点です。つまり、一人一人のリアルな声を拾っていくことが、パンデミックの影響の実態をよりよく知ることにつながるのです。

 

※なお、座談会の内容・情報は、座談会を実施した2020年6月時点のものです。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174606p:plainf:id:ILO_Japan_Friends:20200901184703p:plain

(座談会の様子)

第2章 ILO調査から見る、新型コロナウイルスが若者に与えた影響 

まず、報告書 "Youth&COVID-19: Impacts on Jobs, Education, Rights and Mental Well-being"で示されている影響を概観していきます*1

「雇用」の分野では、報告書はCOVID-19が発生する以前から、若者は厳しい労働市場に直面していたと指摘しつつ、以下の影響を明らかにしています:

 

  • アンケート回答者の約17.4%の若者が仕事を失った。
  • 仕事を失った若者のうち、約6.9%の回答者は失業し、約10.5%の回答者は雇用されている状態にあるが、実質的な労働時間はゼロである。
  • 仕事をしている若者では、約37%の回答者に労働時間の減少が見られ、約17%の回答者に労働時間の増加が見られた。
  • 労働時間の減少があった約78%の若者には、約42%の賃金減少が見られた。
  • 仕事を失った若者の職業として多かったのは、事務支援、サービス、販売、工芸及び関連業種である。
  • 労働時間や収入の減少は、多くの若者をかつてない労働リスクにさらしている。その多くは、教育から労働への移行期にある若者である。
  • 労働時間が増加した若者は、長時間労働及び仕事から離れることに難しさを見出している。
  • 回答者の約3分の1の若者が、部分的/完全なリモートワークに切り替えた。
  • 雇用における影響に関するジェンダーギャップは、若い女性と男性の間の職業の違いやその他の社会経済的要因に大きく左右されている。
  • 若い女性は、家事労働の増加など、仕事とは直接的に関係のない労働の増加により、仕事の生産性が下がったと自らの状況を評価している。
  • 政府による労働政策について、その多くが雇用状態を保っている若者を対象にする傾向にある。

 

このような甚大な影響は、若者から雇用の見通しを長期的に奪う可能性もあります。報告書は、全世代の若者を守るためには、緊急の大規模かつ的を絞った雇用政策への対応が必要であると呼びかけています。

「教育及び訓練」の分野では、教育機関でのフォーマル教育だけではなく、インフォーマル教育も分析の対象となっています。アンケート結果から、報告書は以下の影響があったと述べています:

 

  • 回答者の約79%が、学校閉鎖等の措置によって、教育及び訓練の中断が生じたと回答した。
  • オンライン教育の導入より、「デジタル格差」が見られるようになった。
  • 学びを継続している若者も、65%の回答者がパンデミック前より学ぶ量が減少した。
  • スムーズなオンライン授業には、インターネットアクセスの欠如、リモートで学び教えるためのデジタルスキルがない、自宅にIT機器が完備されていない、リモート指導のための教材がない、グループワークと社会連関がない、という解決すべき問題がある。
  • キャリアの見通しを立てられないため、多くの若者が不確実性と不安を感じている。
  • しかし、このような危機の中でも、半数以上の若者は新しいスキルや知識を身につけるために自ら機会を作っている。

 

若者の進む道や人生は、教育によって大きく左右されます。教育の軌道修正を怠ったり、遅れてしまった場合、若者が学校から職場に移行する際に、移行そのものの遅れや失敗につながりかねません。報告書は、デジタルソリューションに焦点を当てることや、キャリア相談やカウンセリングを増やすことなどが重要な施策になると指摘しています。

「精神的ウェルビーイング」の分野では、回答者の約半数が不安や抑うつもしくは鬱の影響を受けている可能性があることが明らかになっています。将来に対する願望や希望は、ディーセント・ワークへの移行にあたって重要な役割を果たしていますが、約54%の若者が、パンデミックの影響で将来に不安を感じるようになっています。

「権利」の分野では、教育への権利、住居への権利、宗教や信教に対する自由などに焦点が当てられています。例えば、仕事を失った若者の約32%が住居に対する権利に影響があったと感じています。

 

以上にみてきたように、新型コロナウイルスによる影響は多岐に渡ります。しかし、回答者の約4人に1人がボランティア活動や寄付に従事したとの結果も明らかになりました。また、自宅での自粛期間中も、友人や家族とつながるための工夫が行われていることも明らかになりました。このように、若者はSNSやプラットフォームを通じて、地域社会、友人、家族らとデジタル上でのつながりを保っているのです。

 

================================

ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回vol.2は、第3章で座談会から得られたエピソードにも見られるコロナの影響を見ていきます。ぜひご覧ください!

*1:この報告書が基づいているILOアンケート調査は、18-34歳の若者計12,605人を対象としたものです。報告書は、18-29歳を若者と定義し、30-34歳の調査結果を比較対象として分析しています。回答者の若者は主に高等教育を受けた若年労働者です。計112カ国の若者からアンケート回答を得られてますが、インターネットで実施したアンケートであるため、低所得国の若者の声が十分に反映されていないことは留意されるべき点です。

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol. 3

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828120432p:plain

 

新型コロナウイルスの影響が及ぶ社会の中で、実際の若者はキャリアについて何を思い、何を感じているのか?

本企画では、この問いを中心に、ILOに関わる若者の中で、それぞれのキャリアの歩み、今後のキャリアの目標、そしてコロナの感染拡大が続いている今の状況について話しました。

Vol.1はこちらから

Vol.2はこちらから

vol.3では、昨年ILOインターンをした卒業生2名を招き、そこで集めたリアルな声の一部をご紹介します。

 

<聞き手>

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainf:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain現役インターン

<話し手>

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain金融機関勤務、新卒1年目。法学部を卒業後、労働政策、労働法、政策の定量分析を勉強したいと考え、公共政策大学院に進学。現在は金融機関に勤務し、幅広い視野を持って金融関連の業務ができることに魅力を感じている。オンラインでの新人研修真っ最中。

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plain弁護士。労働法が好きで、大学院で団体交渉義務違反を研究しながら、所属する弁護士事務所では弁護士として使用者側から新型コロナウイルス関連の相談やその他株式やM&Aなど金融関連の業務も担当。自らを発信していくことの大切さを感じ、最近ではSNSを通して積極的に発信中。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184703p:plain

座談会の様子

 

 
今のキャリアに至るまで

f:id:ILO_Japan_Friends:20200910120244p:plain 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今のキャリアに至るまで、どのような歩みがありましたか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain大学卒業後は、公共政策大学院に進学し、今は金融機関に勤務しています。学部時代は関西におり、法学部に在籍していました。学部当時から、法律が社会に与える影響を捉えるためには、経済的・計量的な分析ができる必要があると考えていました。当時は国際公務員に憧れを持っており、そのためには国際性と学位が必要であるということも知りました。そのため、キャリアの裾野を広げ、明確にするため、また、実務に役立つスキル(分析)を身につけるためにも、東京にある公共政策大学院に進学しました。東京ではやりたかったインターンにも応募でき、色々な機会を得ることができたと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plain現在は、弁護士として働きながら、大学院にも在籍しています。私は、今まで感覚的にやりたいことを選んで突き進んできました。法律の勉強をし始めた一番最初のきっかけも、弁護士を準備している兄に負けたくないという競争心からです(笑)競争心と興味で入学した法学部ではあったものの、実際に授業で弁護士の先生方の話を聞いて、一緒に社会を変えていく、人を動かしていく力を魅力的に感じ、そこから弁護士をより一層目指すようになりました。学問的なところは職についた後から、仕事で感じた面白みを学術的な部分につなげました。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200910120324p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今の仕事を選択した動機はどのようなものでしたか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain金融業界に進んだ理由としては、学問の動機の延長線上で、社会に与える影響を数字で読めるようになれると良いなと思いました。コンサルタントも候補にありましたが、長期的なキャリアが自分では思い描けませんでした。また、今の会社は自分の担当を持って主体性を発揮できるという点に魅力を感じました。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plain今の事務所を選んだきっかけは何よりも人の繋がりです。それは会社に知人がいるという意味での繋がりではなく、事務所の先生方と会話を交わした時に感じた繋がりです。この感覚を大事にし、その中で一番自分を大切にしてくれそうなところを選びました。特に、今の事務所は、私が司法試験や予備試験に合格する前、自分を証明できるものがない時にでも、一人の人として自分の魅力を感じてもらい、パーソナリティを大切にしてくださったと感じました。今も会社ではすごくのびのびとさせてもらっています。

現在、コロナ禍の働き方は?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200910120352p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainコロナ禍、今はどのような働き方でお仕事をされているのでしょうか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain現在は会社の寮で過ごしながらオンラインでの新人研修中です。まだ出社したことがないので、これから出社となった時に少し心配ですね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plain私の会社は2月からリモートで、緊急事態宣言解除後は週2程度でオフィスに行っています。基本的にはラッシュの時間を避けて出勤をしており、10時に行って16-17時前には帰宅し、それ以外は自宅で仕事をしていますね。今回、仕事は家でもできるという気づきが大きかったです。家族と過ごす時間、趣味などを犠牲にしてまで職場で働くことに固執する必要はないかと。コロナ禍での働き方のメリット・デメリットを整理して今後はメリットを残していく働き方改革を行っていけば良いと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plainオンラインでの業務方法はとても気になる点ですよね。研修期間中など、ある程度形が決まっているものであれば構わないのですが、企業によっては機密事項がたくさんあり在宅できない環境にいる会社も多くあると思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainそうですね。今のアルバイト先でも資料持ち出し禁止事項があり、在宅に切り替わった当初は大変でした。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plainうすると、上の人は在宅で仕事ができ、下の人は出勤をせざるを得ない状況になってしまったり、ある意味不公平な状況が生じかねないですね。機密情報関連であれば、データ化してセキュリティを強化するなどの対策が取れるかもしれません。私も、紙媒体だと危ないので、モニターを二台買うなどして対処しました。会社から購入費用を支援してもらい環境を整えることができ、とてもありがたいと思っています。

 

これからのキャリアにおける障壁

 f:id:ILO_Japan_Friends:20200910120420p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今後のキャリアで思い描いていることはありますか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain現在のキャリアの目標としては、今の会社で自分のできることをやりたいと思っています。国際公務員のキャリアにも興味があるのですが、日本にも社会から取り残されている人々がたくさんいるということ、まだまだ課題があり、これらの解決のために今のポジションでどう活動していけば良いのかを考えると、今すぐ国際機関のキャリアに挑戦することは考えていないです。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plain本社がアメリカということもあり、日本について説明する時に、アメリカと比較しながら説明できるようになりたいと思っています。そのため、アメリカ留学をしたいのですが、新型コロナウイルスで留学が容易にできない現状に対して、少し心配な面はあります。でも留学もキャリアにおける一手段に過ぎないので、留学以外の方法も模索しながら自分を発信できる方法を試して、自分に相談すれば何とかなる、「頼ってもらえる存在」になれれば良いなと思っています。

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200910120450p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainこれからキャリアを深めていく上で障壁になると思われるものはありますか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain個人的な能力と経済的な面が問題になってくると考えています。金融機関に入るまで勉強したことのない分野があり、身につけることがたくさんあります。また、能力を伸ばそうとして教育を受けようと思った時に、経済的な障壁は必ずあると思っています。会社の留学補助制度は競争率も高く、業務に直接関係しない分野で学びたいことがあれば補助の対象外でしょうし、自費で行くしかないと思います。副業も、申請をして異議がなければ認められますが、大々的には行えないかなと思います。また本業が忙しく、やれる環境にあるかも定かではないです。 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plainキャリアの積み始めの段階では、キャリアの先を行く方々の知識量、経験値と比べるとどうしてもギャップがあり、悩むポイントだと思います。コミュニケーションスキルや学術的な面も案件に触れれば触れるほど伸びていく面があるので、ギャップがあることは自覚して、上から学べるものは学び、身につけられるように試行錯誤していくことが大切と思います。あと時間が足りないって言う悩みはありますね、気がついたら夜になっていることが(笑)

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今までのお二人のお話で共通するポイントは、能力やスキルアップといった「学び」が必要である点、また、どれほどその「学び」を主体性を持って積み重ねられるのかという点かと思います。ILOでは時間主権を持つと言う概念がありますが、そのような意味で自分の時間を自分が計画して使えるか否かも重要な点かと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain主体性という点では、自分から提案できるかどうかはかなり大きな問題だと思います。新卒3年目までを念頭におくと、与えられた一部の仕事をこなしてフィードバックをもらうという繰り返しでも成長はできると思いますが、自分で何かを成し遂げたとは言いづらいですね。「このような点が問題で、このような部分が必要だから提案をしました」と自らを発信できることは自分の主体性を維持できるので、大切だと思います。

 

日本の「仕事の世界」の見え方

f:id:ILO_Japan_Friends:20200910120520p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain個人的な悩みや障壁だけでなく、日本の制度的な面で障壁と考えている点はありますか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain日本の長時間労働はやはり課題だと感じています。仕事に労働者が拘束されすぎており、労働者のキャリアチェンジや学ぶ機会を得にくいという点は、労働者個人からしても社会全体にしてもマイナスと感じています。もちろんその中でもエネルギッシュに自己研鑽をし、キャリアチェンジを図る方々もおられますが、皆がみんなそのような力を持っていたり、そのような環境にあるわけではありません。

 もう一つはファーストキャリアの縛りの問題です。新卒カードを切ってしまった後はファーストキャリアの影響がとても大きいと思います。非正規でスタートしたらなかなか正規に変わることも難しく、業種を超えることもなかなか難しいです。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plainその通りだと思います。最近ではまだ緩やかになっているとは思いますが、最初選んだキャリアが縛りとなってその後のキャリアに影響してくるということは、未だに多くあるように思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain友人らがよく転職したいと言っていますが、まだできていない方が多いです。長時間業務、忙しさ、ファーストキャリアの影響が大きいのではないかと考えますね。

 f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain転職がベストというわけではないですが、その選択肢が気軽に選べないというのは課題かもしれないですね。いわゆる文系の就職だと学部卒ではやりたいことが見つからず、総合職で一般企業に入り、その後配属で自分の軸を得ていくことが多くあるかと思います。弁護士業界ではどうでしょうか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plain日本の弁護士業界でも、縛りとまではいかなくても、やはり最初のキャリアに重きを置く傾向は強いと思います。それと比べて、アメリカの弁護士のキャリアを聞くと、転職を重ねて、学べることは学んだから次のところへ移っていくようなスタンスを持っている人は多いです。最初のスタートがゴールかのようにしがみついたり、潰しが効くからここと安易に決めてしまったりするのは、勿体無いかなと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainまた、職探しという点で都市と地域の情報格差は、障壁になりうるかと思いますが、どう思われますか? 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain私は、大学院進学の際に東京にきましたが、東京以外では現場にアクセスするための労力のギャップが大きくあると思います。東京では少しの労力で会える人々やインターンなども、関西にいた大学生時代は、そこへたどり着くまでかなりの労力が必要でした。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain確かに次のキャリアへの準備のために東京へ来られる方々が多くいますが、移動費や滞在費がすごく負担になりますよね。経済的余裕がないとできない部分が多いと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain興味があるセミナーに参加したいとなっても、東京にいる人は授業の間に行けたりするのですが、地方にいる人は新幹線に乗って移動しなければならないですね。その点、最近ではズームという方法が活用され始め、そういう意味ではアクセスの格差が少しは無くなったのではと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plain採用されようとしてる側だけではなくて、採用しようとしている側も対策を講じて手を伸ばさなければならないですよね。

 

ILO施策へ一言

f:id:ILO_Japan_Friends:20200910120553p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain最後にILOのユース施策についての意見をお伺いしたいです。ILOのユース施策は途上国向けの施策が多いのではというイメージがありますが、その点も含めぜひ日本の若者からILOユース施策に対する意見をお聞きしたいです。 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plainILOが出している新型コロナのユース施策の提言を見ると、途上国、先進国関係なく当てはまるのかなと思います。特に、事業者の支援の内訳に職業訓練の支援とかシステムを補助するという点がありましたが、国が直接的な支援より、事業者と通してやるというのは大事かなと思いました。やはり必要な訓練をよりよく知っているのは企業なので、そのコストの一部を国が肩代わりするというのは大事だと思っています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plainILOの提言は抽象度が高い方なので、行動に落とし込むにはどうしたら良いのかを掴みづらい点があるのではと思っています。ベストプラクティスなど、より具体例を添えて発信できれば、よりわかりやすく、行動にも移しやすいのではと考えますね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plainILOサプライチェーンにおける企業の取り組み事例などはとてもわかりやすいです。抽象的な議論より、こんなことをやっているという具体例をまとめてくれると理解度が上がると思います。

 

仕事の意味と仕事における理想の状態 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain色々お話いただき、ありがとうございます。最後に、座談会の締め括りとして、皆さまにとって仕事とはどういうものか、今後キャリアを積んでいく中で仕事における理想的な状態とはどういうものか、ぜひお聞かせください。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184624p:plain仕事は、自身と社会をつなぐものと考えています。仕事をすることで、社会を捉えるための新たな視点を得ることができますし、仕事を通じてこれまで出会ったことのないような人に会うことができます。仕事を通じて自分の意見や行動が認められるということも、社会とつながりを持つ上で重要だと感じます。また、仕事における理想的な状態は、円滑なコミュニケーションと向上心のある職場、でしょうか。受動的なキャリアではなく主体的なキャリアを描いていくためには、自分のやりたいことをフランクに内外に発信できるような環境が必要ですし、そうした主体的なキャリアを描く上で良い影響を与えてくれる同僚の存在も重要だと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901184634p:plain私にとって仕事とは、自分をレベルアップさせてくれるもの。誰でもできる仕事を毎日こなすのではなく、自分にしかできない仕事に日々没頭する状態が、理想な状態です!

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainf:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainありがとうございました!

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol.2

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828120432p:plain

新型コロナウイルスの影響が及ぶ社会の中で、実際の若者はキャリアについて何を思い、何を感じているのか?

本企画では、この問いを中心に、ILOに関わる若者の中で、それぞれのキャリアの歩み、今後のキャリアの目標、そしてコロナの感染拡大が続いている今の状況について話しました。

Vol.1はこちらから

Vol.2では、昨年ILOインターンをした卒業生3名を招いた座談会でのリアルな声の一部をご紹介します。

 

<聞き手>

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainf:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain現役インターン

<話し手>

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174523p:plain国際協力実務家。大学卒業後、民間会社で勤務。その後、協力隊員としてマダガスカルで2年過ごし、イギリスの大学院にて国際開発学の修士号を取得。帰国後、ILOインターンを経て、現在は有期雇用職員としてコートジボワールで勤務。第一次産業と民間企業の連携に関するプロジェクトを担当し、プロジェクトの軌道修正やモニタリングなどに従事。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174530p:plain大学を卒業後、一旦就職し、その後イギリスの大学院にて修士号を取得。帰国後は、自分の専門分野である移民労働者支援などの事業を行っている会社や団体をメインに求職活動中。その傍ら、国際開発業務関連のアルバイトにも従事。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plain大学院在学中。モロッコをフィールドに、格差、貧困、不平等、それらの再生産について、特に教育の場に重心を置きながら研究。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174606p:plain

座談会の様子

 今のキャリアに至るまで

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今までのキャリアの歩みを教えてください。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174523p:plain学生時代、もともとそんなに裕福ではないこともあり、途上国の格差や不平等に取り組みたいと考えていました。当時は、卒業後すぐの大学院進学も考えたのですが、ゼミの先生から、「一度きちんと働いて、それでも熱が覚めなかったら、その方向に戻れ」とのアドバイスをいただき、発電機を扱う民間会社で働きました。

でも、仕事中に涙が止まらなくなったり、吐きそうになったりして、体力的に限界がきました。その時に、大学生時代の貧困問題に携わりたいと考えていたことを思い出し、現場での経験を通してその理由を確かめるために協力隊に応募しました。

協力隊では、農業関連の仕事に従事していました。この経験から、開発の現場では現地の人々に仕事を提供する民間企業の活性化が大事だと学び、その後大学院を経て、国際開発の現場で官民連携をサポートする仕事に就きました。いろいろ紆余曲折していますが、根本のところはずっと変わらずやってきています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174530p:plain大学を卒業後、一度は働きましたが、その後イギリスの大学院で移民について勉強しました。日本にいる外国人の方々を支援したいと思い、帰国後は移民労働者支援に従事できるよう求職を続けています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plain私は大学に入学してから現在に至るまで、インターンなどを経験させて頂きつつも学生を続けています。大学時代は社会階層論や教育・労働社会学に重心を置くゼミで勉強しました。その後モロッコへ留学し、義務教育段階の途中で学校を去った人々を対象とするノンフォーマル教育施設での調査をもとに修士論文を執筆、現在に至っています。

 

日本の「仕事の世界」の見え方

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174858p:plain

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain私は来年から働く予定ですが、就活の時「遅かったね」と言われました(笑)新卒一括採用が主流の日本では、新卒は22歳前後の方ばかりなので仕方ないですが。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plain労働市場で弱い立場に置かれやすい若年層の雇用を確保するという意味で意義のある制度ですが、新卒採用の流れやタイミングから外れると就職の足がかりが掴みづらくなってしまう傾向もあるように思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174523p:plain確かに、日本の新卒一括採用は、会社が求める人材を育成することができる制度ですよね。外資系企業などは、この制度を積極的に使っていないようですが、新卒一括採用の制度ではない採用も、なかなか難しい面があるのかなと。例えば、アメリカの学生は、インターンやアルバイトを経験しないと、行きたい会社に入れない可能性があるそうです。インターンは、無給あるいは低賃金が多く、学生の殆どは自腹を切ったり、親に支援してもらったりして、生活をしなければなりません。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plainそうすると、結局裕福な家庭の人のみが出世できるという仕組みになっていると感じます。しかも、最近では学位を持っていることが求められる場合が多くなっています。借金に頼らないで学位を取れている人たちが、結局出世できる仕組みになっているのでは?アルバイトやインターンの名目で職業トレーニングを受けている若者が多くなるので、結果として若者の失業率は減るかもしれませんが、格差が広がってしまうと感じます。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain日本の転職事情はどうでしょうか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174530p:plain私は転職活動を行っている最中ですが、うまくいっていません。書類の段階で落とされることがほとんどです。仕事の経験はありますが、今後働きたい分野との関連性も相まって、大学院が「ブランク」として捉えられている側面も影響しているのかと思います。 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plainブ、ブランク・・・。就職活動に関して、私自身は未だ経験がありませんが、就職活動を行っていたILOの同期インターンの方からは、これからつきたい仕事とこれまでの勉強や研究、職務経験を一貫性のあるものにし、ストーリーとして組み立てることが大事だと聞きました。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174523p:plainキャリアストーリーを作り上げる上で、先見の目を持っておくことはポイントの一つだと思います。例えば、自分がしてきた経験の点と点を繋げる線として、資格を持っておいて、その線を証明できるようにする、とか。私が働いている領域では、工学系の修士号や、コンサルタント経験など、先を見据えて必要なスキルを蓄えてからくる人達がたくさんいます。その場の気持ちを大事にすることもいいですが、自分が目指すところには何が必要なのかを事前に調べることも大事だと思います。

また、新卒採用ではストーリーは大事ですが、転職では即戦力がより求められているので、能力と経験が求められます。もちろん、ストーリーは自分にとって大事ですが、転職だと、例えば募集要項に合わせた経歴の見せ方や用語の使い方が大事だと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plainなるほど。先輩に経歴の書き方も含めて就活のコツを聞いたり、OBOG訪問などで希望する職場について聞いたりといった人づてに情報を集める機会の重要性を改めて感じます。人づてに情報を集める機会については、COVID-19の感染が問題となった今年は特に困難な状況があったのではないでしょうか。情報収集において重要な人とのつながりや履歴書に記載できる留学などの経験の寡多、スーツや靴などの道具立てなどは、各自の置かれた環境によって異なる様々な資本の量にも影響を受けるのではないかと思います。

 

キャリアにおける障壁

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174928p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今後のキャリアの目標はありますか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plain研究はまだまだ様々な課題を抱えていますが、今後も続けたいと思っています。その上で、専門を生かしながら教育や社会開発などの分野で実務に携わることが出来るようになることが目標です。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174523p:plain今の仕事のあとは、JPOへのチャレンジを考えています。JPOが難しそうだったら日本で開発コンサルタントの道に進むかもしれません。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain今後キャリアを積み重ねていく上で、障壁となりそうなものはありますか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174523p:plainプライベートでは結婚を考えているのですが、パートナーは国外で生活したいと思っていないので、単身赴任になるのかなと。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174530p:plain昨年結婚しましたが、求職活動をしていると、プライベートとキャリアの両立が現実的に考えられていないと感じます。やはり、出産前に育休などの制度が整備されている仕事につかないと、出産後改めて仕事に就くことは難しそうだなと感じます。

今はパートナーの収入で二人の生活ができていますが、このままだと自分がやりたいことを仕事にすることはできなさそうです。とりあえずお金のために働く、というところからスタートすることになってくる気がします。少なくとも3年間は絶対に安定して働けるところに就職しないと、子供は産めないと思いました。

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901175005p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plain以前アフリカの某国からきた留学生の友人に「日本は再チャレンジが難しい社会だと思う」と言われたことがあります。確かに私個人も、一度何らかの理由から制度の枠外に出ると、再びメインストリームに戻るのはなかなか難しいのかもしれないと感じ、就職をせず文系の大学院に進む選択に不安を感じたことがありました。若年層の雇用機会をある程度まで制度化して保障することと、制度から一度離れても再び接続できること、難しいかもしれませんがどちらもある社会の方が生きやすいのではないかと感じます。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174530p:plain若者に限らない問題ですよね。別の分野で再チャレンジしたいと思う人に、もう一度教育に戻る機会も増やしていくべきだと思います。私も、一旦大学院に行きましたが、再就職の機会がなかなか見つけられていません。このまま行くと、労働市場のレールから外れた人間になってしまいそうです。

 

コロナ時代における仕事の未来

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901175033p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainまだコロナの影響が続いていますが、皆さんはどのような影響を受けましたか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174523p:plain仕事の契約では、2019年12月から2021年12月までコートジボワール駐在の予定だったのですが、コロナのため一時帰国中です。プロジェクトの現場にいけないことで様々な支障が出ていますね。また、給与にも影響が出ています。コートジボワール駐在中は現地手当が出るのですが、日本にいる間は当然ながら出ません。そのため、その分給料が相当下がってしまい、コロナ前の約三分の一になってしまいました。私は、奨学金という借金で教育を受けていたので、その借金を抱えている身としては、余波を受けていると感じますね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174530p:plain今年の2月から業務委託で2ヶ月働く予定でしたが、期間が1ヶ月に短縮されてしまいました。また、転職活動中にコロナに突入したため、色々難しさを感じています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plain夏に予定していた短期調査は出来なくなってしまいましたが、もともと個室での研究が生活の中心だったので、いまのところ生活上大きな影響は受けていません。ただし、自分が行おうとしていた研究をする上では現地調査が重要な位置を占めているため、向こう数年間の計画は大きく変更しなければいけないと考えています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainILOのモニタリングでも、教育と訓練の中断は影響が大きく、ロックダウン世代を生みかねないと指摘されていますね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plain

ロックダウン世代と名付けられ括られてしまうことには危機感があります。「この世代は運が悪かった」というだけで十分な支援がないままどんどん上にコマ送りにするのではなく、将来的にそのような括りが不要になるよう具体的な支援が必要なのではないでしょうか。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174530p:plain今仕事を失った人たちに一時的な支給だけではなく、コロナでキャリアの「レール」から外れた人たちの再就職など、長期的な政策が必要になってきますね。

 

仕事の意味と仕事における理想の状態

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain色々お話いただき、ありがとうございます。最後に、座談会の締め括りとして、皆さまにとって仕事とはどういうものか、今後キャリアを積んでいく中で仕事における理想的な状態とはどういうものか、ぜひお聞かせください。

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174523p:plain私にとって仕事とは、社会に貢献するために自らの価値を提供すること。社会が求めるものに対して、同じ志をもつ人たちと、停滞することなく、常に変化を求め、より良い結果を追求していける状態が、理想的な状態ですね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174530p:plain私にとって仕事とは、自分と社会の接点、社会に貢献できる場所、自己実現の場所です。この考え方で人生の他の部分を顧みない人になりたくはないですが、今現在は自己実現と仕事がほぼ同化しています。また、同じ目標に向かえる仲間と、わくわくしながら向上心を持って変化を恐れずに取組み、成果を出し続け、プライベートの家族や個人の時間も大切にできる状態が、理想的な状態です

f:id:ILO_Japan_Friends:20200901174536p:plain私にとって仕事とは、生活を営むために不可欠のもの。またより広く、個人や組織、社会にとって意味のある目標や目的を達成するためにする努力。専門性を培い、何らかの意味ある形でその知識や経験を社会に返せる状態が理想です。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainf:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainありがとうございました!

==============================================================

次回は、2名のアラムナイをご紹介します。ぜひご覧ください! 



 

ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第3回 全国農業協同組合中央会(JA全中) 高塚 明宏さん(2/2)

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831145320p:plain

前回は、高塚さんの現在のお仕事内容やJA全中での法制度整備について、また、緊急事態に対するJAの組織的な対応について伺いました。今回は、高塚さんがJA全中で働き始めた理由や、農業に対する思いに迫ります!

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831151801j:plain

農家が報われる仕組みづくりを目指し、JA全中

  • マイナビにて、JA全中にて働くきっかけを拝読しました。農業に自らが従事するという選択肢もあった中で、なぜJA全中を選ばれたのでしょうか。

理由は2つあります。

1つ目は、農業者を取り巻く仕組みを考えていきたいという思いです。そのため、法律とか制度に携わりたいと考えました。農林水産省も考えましたが、全中は少人数(200人弱)で幅広い業務に携われ、個人の裁量が大きいことが、決め手の1つになりました。

2つ目は、就職した後に農業に転職するハードルの高さです。農業者をしてからJA全中等の組織に転職するのは難しいですが、その逆は比較的ハードルが低いのではと。

JAグループを悪く言う声やもよく聞きましたが、本当にそのような組織だったらやめればいい、なくせばいいかなと思い入会しました。結果的に、今も継続して仕事を続けています(笑)。

  • JA全中に入られてからのギャップはありましたか?

入会前後のずれはあまり無かったです。少人数なので裁量が大きい、またざっくばらんな組織であるとは聞いていたのですが、その通りでした。逆に、若いうちから色々任されるので、なかなか大変なこともありました。例えば、都市農業の法制度に携わった際は、当時6~7年目くらいでしたが、かなり任されていましたので、一人で農水省国交省と交渉することもありました。自分がしっかりしないと方向性に影響を及ぼすため、現場の人とうまくつながりながら、組織的な発言をするよう常に心がけていました。

  • ご自身のやりたいことは実現・実行できていますか?

祖父母が汗水たらして農業に従事する姿を小さいころから見聞きしてきた中で、「真面目に取組む農業者が報われる農業でなければならない」という思いが原点にあります。農業者が報いられるというと、適切な対価を得るという点が重要ですが、最近の日本の農業政策の傾向としては、経済効率の重視の側面が強い政策が打たれてきました。そのため、大規模化・効率化が優先して進められてきました。それを否定するわけではないのですが、効率性だけで言うと諸外国のマーケットには勝てないので、日本で農産物を作ること、日本の農業の価値を国民に理解いただくことが大切と思っています。

今の日本は、都市部に概ね7割の人が住んでおり、特に昔と違って都市生まれ都市育ちの方が増えていますので、農業に関する原体験は大事だと思っています。その意味で、都市農業の農業産出額は全体の1割もいかないくらいですが、都市部で農業を見て、触れて、体験する機会をより増やすことで、日本の農業理解を進めることができるのではないかと思っています。

私は島根出身で幼少期から農業を身近に見てきましたが、今の日本は、都市部に概ね7割の人が住んでおり、特に昔と違って都市生まれ都市育ちの方が増えていますので、農業に関する原体験は大事だと思っています。担当したばかりの頃は、都市農業は必要なのかなと思ったのですが、色々な方の話を聞いていくうちに、大切さに気づき、今は思いを持って取り組んでいます。

  • 私は都市生まれ都市育ちですが、中学校3年の時に自然体験教室で北海道の農家に1週間ホームステイし、農作物に対する考え方がとても変わった記憶があります。体験のインパクトの大きさを身をもって経験しました。

その通りで、現場を経験すると、見え方が変わってきますよね。いくらインターネットで動画等を作ったところで、原体験がない人には中々響かないです。原体験があれば、関心を持って農作物を見てもらえるのではないかと思っています。最近、都市部では、何をどう作るかを農業者が教えてくれる、農業体験農園と言われる取り組みもやっています。「百見は一体験にしかず」と考えていますので、体験の機会を増やすことが農業の応援団を増やすことになり、結果的に農業者が報われる1つのベースになると思っています。

     f:id:ILO_Japan_Friends:20200831150700j:plain



都市農業が農業の応援団づくり”の要(かなめ)

  • 今までのご経験も踏まえ、都市農業にどのような可能性を感じていますか?

私は、都市農業が農業理解の最前線になりうると思っています。あまり知られていませんが、東京でも大根や小松菜、ウド、意外なところではパッションフルーツ等の農作物や牧場もあり、様々な農業を見ることが出来ます。高齢の農業者は、自分の農地に人が入ることを敬遠する方も多かったですが、今まで以上に、周囲の住民の理解が必要と思う農業者の方も増えているため、都市農業に触れる機会をもっと作っていけるのではないかと。農業の応援団を作っていく上ではこのような取り組みが重要な役割を果たしていると思います。

地域ごとに濃淡があるので、もっと広げていきたいです。その取り組みの一環として、順天堂大学の医学部と連携して調査を行い、体験農園で作業することが一定のストレス軽減、幸福度の増加に寄与することを明らかにしました。農業に興味がない人たちにも農業理解を広げていくために、従業員の健康経営という切り口も含めて発信しています。また、関心を持った方々がアクセスできる方法を増やしていくことも、今後取り組んでいきたいです。農業生産でいえば、田舎の土地で生産量を増やせばいいのかもしれませんが、都市部だからこそできる取り組みはたくさんあると思っています。 

  • 都市農業の教育的な意義を考えると、学校や養護施設との連携の可能性も感じました。

実際に、農福連携は最近増えています。私が住む練馬区でも、昨年ある農業者がアスパラの収穫と選別を養護施設等に行ってもらう取り組みをはじめました。

学校や養護施設は都市部に多くありますので、都市農業にはまだまだ農福連携を増やす可能性があります。農作業は、障がい者の心身状況の改善にも寄与する取り組みですので、その点も都市農業の価値であり可能性と感じます。

     f:id:ILO_Japan_Friends:20200831150819j:plain



これからのテーマは、脱内製化と外部連携

  • 今後、日本の農業や地域社会にJAグループがより貢献できるとしたら、どのような点だと思われますか?

農協の特徴は、地域の農業の未来を真面目に語れる組織であるという点だと思っています。素晴らしい農業生産法人も多くありますが、どうしても自分やそのグループの経営を中心に考える必要があります。一方、農協の構成員は地域の農業者でもあるので、地域農業をどうしていくのかを、自治体等とも連携し、全体最適を考えながら描いていくことができます。 

昔は農作物をすべて農協に出荷して市場に出すことが最も有利販売につながるため、そうすべきだとの考え方が強く、自分で売りたい農家の方と対立することもありました。高齢の農家(農協へ)vs若手の農家(自分で)という対立軸もよくみられたようです。

現在は積極的なコミュニケーションとすり合わせがすすみ、多様な関わり方が許容され、農協の事業方式も変わりつつあります。引き続きコミュニケーションをすすめ、多様な主体が連携することで、よりよい方向に地域農業が進んでいけるのではないかと思います。 

  • 上記を進める上で、J Aグループが変わるべき点はありますか?

以前は、JAグループ内で全てを解決しようとする傾向(内製化)が強かったかと思います。名の知れた大企業をはじめ様々な株式会社が農業参入する中、地域から逃れられない農協等の農業界は、経済合理性を優先した事業展開を行う株式会社等の取組み姿勢に疑念やアレルギーがあったのではないかと思います。しかし、技術進歩が激しい中、内製化のみの対応では難しくなり、外との連携も進んでいます。例えば、最近ではJAグループ全国連が連携して「アグベンチャーラボ」を立ち上げ、様々なスタートアップと連携し、その活動を後押しする取り組みもすすめています。

  • 若者世代にJAをより身近に感じてもらうためには、どのような変化や取り組みが必要だと思われますか。

生活に根付いている組織なので、なかなか存在に気付かないことはあると思います。あるいは身近な組織だからこそ不満が出ることもあります。

最近ですと、SNSの活用に加え、ECサイトを開設したり、クラウドファンディグを実施したりと様々な取組みがありますが、デジタル上の接点をどう意識的に作っていくかについては、農業体験や都市農業のリアルな体験を絡める必要があると思っています。その意味で、内製化した情報発信ですと、なかなか絡めていけません。

先ほども言及した、農作業によるストレス軽減に関する調査は、マイナビにも取り上げていただき、外の組織も巻き込んでうまく進めて行けたので、このような取り組みを通して、農協がやっていることを少しずつ理解していただければと思います。

とはいえ、JAグループの一員である全農のSNSが、鶏モモステーキやラッシーの作り方などの投稿が人気で、最近バズっています。食はすべての人の関心対象なので、そこに絡めた発信が大切だと思います。

  • 2030年までのビジョンはありますか?あれば、どのようなものか教えてください。

JAグループとして統一的なビジョンはなく、地域ごとのビジョンを描いていただいています。JAの理念はJA綱領として、大切にしています。

個人でいうと、近江商人は「三方よし」とよく言いますが、自分としても業務をしっかりやりたいので、個人、職場、農家及びJA、家庭という「四方よし」を掲げて取り組んでいきたいです。 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831151925j:plain

 

  • 最後に、協同組合を一言で表すと?

良くも悪くも「人の組織」だと考えます。全中は、一部報道でJAグループのピラミッドの点にあると描かれましたが、実態は異なります。もしそうであれば、どんなに仕事が楽か(笑)。地形も天候も文化も多様な日本各地の関係者の理解を得て業務に取り組む必要がありますので、合意形成が複雑で時間がかかります。各農協も同様で、管内には様々な考えを持つ人がいますし、品目や地域ごとに利害も異なります。

この合意形成に必要な要素として、以下の3つがあると私は考えています。

①理:論理、ロジック
②情:思いやり、人間関係
③意:意志や想い、信念

株式会社は少数の大株主で合意形成ができますので、「理」が大きく影響しますが、農協を含む協同組合は一人一票ですので、合意形成を図るうえで「情」や「意」の部分の重みが強いと感じています。変えていくことはとても大変ですし、時間がかかりますが、時間をかけてしっかりやっていくことが大切だと思います。

また、変化が早すぎることはリスクを孕んでいますので、一定の人がきちんと合意して変わっていくという協同組合の特性は、社会の多様性の一翼を担い、持続性を高めている側面があると感じます。今回のコロナ禍でも、海外からの輸入に大きな影響がでて、日本での農業生産や食料の安全保障への関心が高まり、経済合理性に傾いていた農業政策にも変化の兆しが見られだしました。

また合意形成に時間がかかるからこそ、決まったことは地に足をつけてすすめていくことができるのではないでしょうか。

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831151109j:plain


 

  • お忙しい中、ありがとうございました! 

 

こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページ にも掲載されています。

ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第3回 全国農業協同組合中央会(JA全中) 高塚 明宏さん(1/2)

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831135810p:plain

本企画の背景

2020年3月23日、ILO協同組合ユニットは創立100周年を迎えました。国や企業のサービスの届かない地域にも、必要なインフラやサービスを提供してきた歴史が協同組合にはあり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献してきました。世界中が新型コロナウィルス感染拡大の危機に直面し、人々の連帯がこれまで以上に必要とされる今、協同組合に注目が集まっています。

この機会に、若者世代の協同組合のイメージ(「古い」「縁遠い」)をより身近なもの/魅力的なものとするべく、日本の協同組合の活動を振り返ります。これからの時代の仕事/生活/消費/生産において、また今回のパンデミックをはじめ危機的状況において、協同組合はどのような役割を果たし、より良い未来を創っていけるのか。各協同組合で活躍される方々へのインタビューを通じて、協同組合の強みや可能性を、若者代表のILO駐日事務所インターンと一緒に耕して(探って)みたいと思います。

第2回は、労働者協同組合(ワーカーズコープ)の玉木信博さんへインタビューしました。

labourstandard1919.hatenablog.com

第3回は全国農業協同組合中央会JA全中)で活躍されている高塚 明宏さんにお話を伺います。こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページ にも掲載されています。

 ===========================================================

インタビュー実施日:2020年7月28日

聞き手      :ILOインターン 藤田真理

グラフィック   :中尾有里

記録       :ILOインターン 乗上美沙

 ===========================================================

 

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831135950j:plain

 

農業協同組合」=農業を中心に“ゆりかご”から“墓場”まで

  • 農協が関わっている分野や携わっている業務を教えてください。

JAは、相互扶助の精神のもとに農業者の営農と生活を守り高め、よりよい社会を築くことを目的に組織された協同組合です。この目的のために、JAは営農や生活に関する事業、例えば生産資材・生活資材の共同購入農畜産物の共同販売、貯金の受け入れ、農業生産資金や生活資金の貸し付け、農業生産や生活に必要な共同利用施設の設置、あるいは万一の場合に備える共済等の事業や活動を行っています。その他、出版業や旅行業、介護・医療事業、ガソリンスタンドやスーパー、直売所の運営等にも携わっています。

これらのサービスは正組合員(農家)の利用が前提ですが、正組合員の家族や准組合員(地域に住んでいる方々)も使える仕組みがあります。ただ、組合員の利用が前提なので、利用の割合は規制していたりします。

  • かなり幅広い業務分野なのですね…!それでも、農業振興が中心と考えて良いのでしょうか?

はい、農業が中心ですし、農協法でも農業振興に力を入れるべきと5年前に改正されました。

ただ、私が担当する都市部では、少し位置づけが異なりました。元々、都市部というのは、農業を振興するエリアではないという政策的位置づけがなされていました。高度経済成長期につくられた都市計画法では、下水道などのインフラをまとめて効率的な街づくりを行うための線引きを行うもので、この区画に入った農地については、概ね10年以内に宅地にしていくと規定されました。また、バブル期には、地価が上がる中、都市部にいる農家が土地を抱えていることを批判された歴史もありました。ただ、社会が変化・成熟する中で、農業や農地への評価が高まり、2015年の都市農業振興基本法では、まちづくりと農業振興の観点から、農地の保全と有効活用が謳われ、都市農地の貸借円滑化法や生産緑地法改正によって施策が具体化されました。仕組みが複雑なため、普及にも力を入れています。 

 

法律と現場をつなぐ橋渡し役”から人材育成へ

  • 以前担当されていた、都市農業振興基本法/生産緑地法改正/都市農地の貸借円滑化法の業務は、具体的にはどのような内容だったのでしょうか。 

関係省庁と農業者の方々の間に入って調整をする、中間管理職のような立場と言ったら分かりやすいかもしれません。条文を作るのは省庁ですが、法律の目的や目指すべき方向性のほか、現場で求められている仕組みなどについて、現場の声を届ける役割を担いました

特に、都市農業政策は、まちづくりの政策と関係があるため、国交省が関わります。ただ、農水省とは違って、農家の方に情報を聞くパイプがほとんどないため、実際に現場を見てもらったり、そこで農家の声を聞いてもらったりすることを集中的に実施しました。結果的に、現場の意見をしっかりと踏まえた法律を整理していただき、現場から喜ばれました。

  • 全国の農業従事者の方々の声を、出来るだけ不平等の無いように取り入れることは難しいことだと思います。どんなことを心がけながらお仕事をされていたのでしょうか?

県ごとに意見が違うこともあるので、全中としてどのような意見をいうかは、なかなか難しいところがありました。関係者の納得感の情勢には、意見の積み上げのプロセスの透明性はもちろんですが、一方で、担当者同士の信頼関係も重要です。お互い組織ですけれども、担当している人間同士がやっているわけですから、「こいつがそう言うのであれば、そういうものか」と納得してもらうですとか。お互いによくコミュニケーションをとって信頼関係を築きながらやらせてもらいました。

また、現場の意見をストレートに主張すればよい時もありますが、そうでない時もあります。時には、法制上の考え方を踏まえて意見を言うことの重要性について、各都道府県中央会やJA、農業者の方々に伝えることを意識していました。

  • 現在のお仕事である、JA営農指導員の人材育成はどのような業務なのでしょうか?

JAの営農指導員は、資格体系として試験制度を導入しているので、営農指導員に必要な基礎知識を整理して、法改正などに伴う教科書/テキストの改訂を執筆者に依頼をしたり、時世をふまえた各種研修会の企画・開催などを行っています。ただ、各都道府県で様々な地域がありますので、必ずしも全国共通という訳ではありません。例えば、営農指導員の試験についても39都道府県は同じテキストと試験を使っていますが、残りの県は自治体と組むなどして独自でやっています。

その他にも、各地にある素晴らしい取組事例を全国各地に共有したり、研修・指導の一環として、全国8ブロックの代表が営農振興の取組みを競う、いわば「M1グランプリ」の営農指導員版とも言える発表大会も企画・運営しています。また、営農指導をする上で農協がとるべき人材育成の考え方や人事ローテーションの考え方を整理して、各都道府県中央会に示したりしています。

東京オリンピックでは、適切に安全に生産されていることを証明する取組である「GAP(ギャップ)」[1]に認められた野菜しか使いませんという決まりがあります。輸出をしていく上でもGAPがあると国際的に安心・安全が担保されるため、GAP取得を進めていく取り組みも実施しており、そのため、全中から専門家を派遣して指導をしています。

業務範囲も広く、関係者が多いため、全国にどんな方がいて、どんな業務や分野に知見をお持ちなのかを知っておくことも、いい業務をしていく上で大事な要素ですね。 

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831145015j:plain

現場から”届くもの、”現場へ”届けるものを大切に

  • 現在、特に高塚さまが注力されているお仕事はどのようなことでしょうか。

現場の営農指導員の業務は、GAPやHACCP(ハサップ)[2]など新たな仕組みへの対応、補助金の申請業務の支援など、従来の業務に加え様々な業務に追われ、現場の営農指導員の負担が非常に増えていると考えています。現場の指導員もスーパーマンばかりではないため、多様な業務に追われる中で、本当に大事な取り組みに手がついていないのではないかという問題意識があります。この状況を改善していくために、全国の立場からどういった支援ができるのか、例えばICTを有効活用した業務の効率化なども含め、頭を捻っているのが現状です。

また、実は、都市農業振興の取り組みも併せて担当しています。生産緑地法の区切りが2022年に迫っていまして、「規制を受けた上で農業を続ける」のか、「農業をやめる」のかを選ぶタイミングになっています。そこに向けて一人でも多くの方に農業継続を選んでもらうためのJAグループの取組みのすすめ方を示していくというのも、もう1つ大事な業務としてやっています。関係する全自治体・JAにアンケートを配布中しており、このアンケート結果を踏まえて、今後の課題や取組みの方針をこの秋くらいに示していければと思っています。都市部の1万ヘクタールが農地として残るか否かが決まるので、高齢の農家の方も自分では出来なくても、都市農地の貸借円滑化法を使って周囲のやる気のある方に任せられるということを周知するなど、様々な法律を含む継続のための支援が揃っているので、それらを現場の方にパンフレットや農協職員向けのFAQ作成を通して情報提供をしています。

     f:id:ILO_Japan_Friends:20200831141101j:plain

  • 基盤(政策)をつくるところから、それを拡散・浸透させる活動すべて担っているのですね。 

そうですね。これまで全中は政策をつくる方に力を入れていて、現場に浸透させることは各県中や各J Aに任せる部分が多かったのですが、現場で使われないと意味がないので、最近は現場への拡散や浸透にも全中としてより力を入れています。また、農業関係の自治体の職員数の減少は顕著で、その中で様々な業務を自治体の方もやってらっしゃるので、現場の意見を取り入れて作り上げた政策も流れに任せていると現場に届かない場合もあるという点を意識して取り組んでいます。

  • 常に幅広い業務を担当されている印象ですが、仕事のやりがいは、どういう時/ことに感じられますか。

取り組んでいた都市農業の法律に、現場の意見が取り入れられ、使いやすい仕組みになったことは嬉しかったです。また、実際に現場で農業者が新たな法律を使っていることを知り、農地が残った、新たな農業経営ができたなどの喜びの声と聞くと、とても嬉しいです。

  • 現場の声がやりがいにつながっているのですね。現場との接点は現在の業務でもありますか?

こちらが主催する研究会に来ていただくこともありますし、業務によっては現場を訪問して話を聞くこともあります。自分でも意識的に現場にいくようにしていますし、機会は少なくはありません。全中の業務は、県中央会の意見を聞くことが基本ですが、どのような組織でも組織を通すと一定のバイアスがかかるので、県中央会とともにJAや農業者から直接意見を聞くことや、実際に現場に行き、自分の五感で感じることも重要だと考えています。

 

組織的で、現場に負担をかけない震災支援体制

J Aグループの緊急時対応の特徴としては、組織的に現場のニーズを整理し、県中央会や全中に情報集約しているところです。混乱時に無秩序に人・モノなどを送っても、むしろ現場の負担になることがあります。情報を整理・統合して物的な支援(飲料水や食べ物、毛布など)と人的な支援(ボランティア隊)のニーズを把握することで、適切に資源を配分することができます。例えば、直近ですと、令和2年7月の九州豪雨では、泥が入ってしまうなどしたハウスや農産物の集荷場等の復旧のため、人やスコップ等を送り込むなどの支援を行いました。

私自身が関わった例だと、台風19号の支援があります。房総半島ではハウスの8割近くが潰れるという大きな被害がありましたが、その際も、その地域のJAから話を聞き、ボランティアのグループやリーダー、取り組み内容などを整理して訪問をしました。また、現場に負担をかけない取り組みも心がけました。例えば、農家ごとに班をつくり訪問する際のバスや宿泊施設の手配は、グループの農協観光に支援をしてもらいました。

  • 組織的な対応が特徴ということですが、その中でJA全中の役割はどのようなものですか?

全中は情報の集約など、ある種「司令塔」の役割を担っています。ボランティアのグループ編成や宿泊施設や移動手段の手配を振ったり、各県中ごとに支援したいというニーズが上がってきた際は、その情報を元に他の県中と繋いだりしています。個別に各県中同士でやると被害県中は多くの県中とやり取りが必要で大変ですが、全中が間に入って整理することで、被害県中の負担を軽くして支援をできているのだと思います。東日本大震災の場合は、福島県中央会等と連携して、個別の県だけでは対応が難しい東電の補償交渉の窓口を行っており、この取組みは実は今でも続いています。

  • そのような組織的な対応体制は、どのようにつくられてきたのですか?

阪神淡路大震災東日本大震災を経てより効率的な体制をつくっていったのではないかと思います。また、元々、協同組合のため、助け合いの精神が根付いているというのはあるかと思います。令和2年7月豪雨でも、2016年の熊本地震で支援を受けた農業者が、今回被害の大きかった地域の農業者を支援することに積極的に取り組まれていると聞いています。

 

     f:id:ILO_Japan_Friends:20200831141240j:plain 

 

コロナ禍、正確な情報伝達と労働力マッチング

  • 今回の新型コロナウイルス危機では、既存の幅広いネットワークを活かした支援や連携が評価されていますが、具体的にはどのような連携がなされているのでしょうか?

農産物の物流に関し、仮に農産物の集出荷場の職員や農業者の感染が確認された際は、農産物を出荷しないほうが良いのでは、という議論が現場から提起された事がありましたが、農水省とも連携し、食品からの感染は認められていないという情報を確認の上各県中央会・JAと共有して、過剰な対応を控えるように伝えるなどして、緊急事態でも農産物の安定的な供給を維持しました。

また、技能実習生が来日出来なくなったことによる労働力不足を解決するために、労働力マッチングを支援しました。例えば、群馬の嬬恋村の高原レタスの生産には、技能実習生の方々の力もかなり大きいのですが、近隣の旅館業や飲食業とのマッチングを支援しました。今回難しかったのは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、県をまたいだ支援ができなかった点です。今回は、技能実習生に頼っていてこの時期に人手が必要な地域は限られていたものの、東京から人を送るということが出来ない訳です。地域内でどのような支援ができるかという取り組みに注力しました。

  • 今後の取り組みとしては、どのようなことが重要になってきますか?

インバウンドや輸出への影響から、高級食材を中心に販売促進が課題になっています。クラウドファンディングや通販の送料支援などを行っている農協もありますが、これらを継続的にやっていくことが大事かなと。一方で、ウィズコロナ、アフターコロナの消費行動の変化に伴い、支援方法もどこまで合わせていけるのか、今まで以上に試行錯誤する必要が出てくると思っています。

     f:id:ILO_Japan_Friends:20200831141404j:plain

“動かない土地“と共にあるからこその、持続可能性への取り組み

  • SDGsなどの社会課題とされている事柄の中でも、最も気になっている/働きかけていきたい分野はありますか。

JAグループとしての取り組みの全国方針は今年の5月に整理しました。農協の取り組みはどれもSDGsのどれかしらには当てはまるため、SDGsに向けて新たな取り組みを行うというよりは、これまでJAグループがやってきたことをSDGsに合わせて再整理し、取り組むことが重要かなと。農協としては、持続可能な食料の生産と農業の振興に取り組むことが掲げられていますが、これをSDGsに置き換えると飢餓の問題や耕作放棄地を最小限にすること、土壌劣化等を防ぐ肥料の適正使用などが当てはまるかなと思います。農業の多面的な機能を生かしていく活動も、住み続けるまちづくりや気候変動対策などにつながっていきます。

JAは、地域に住んでいる農業者の組織ですので、その地域から逃げられないという特質があります。生産には土地が必要ですし、土地は動かないもの、まさに「不動産」ですので、地域のものを使い潰して、別の土地に移りましょうとは出来ない訳です。そのため、元々、持続可能性への関心も高く、既存の取り組みがそのままSDGsにつながっている要素が強い組織と理解しています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831145909j:plain



次回 は、JA全中で働き始めた理由や都市農業の可能性、JAグループのこれからについて聞いていきます!お楽しみに! 

-------------------------------------------------------------------

[1] GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことです。(出典:農林水産省H P https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/g_summary/

[2] HACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。この手法は 国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格 (コーデックス) 委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。(出典:厚生労働省H P https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html

 

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol.1

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828120432p:plain

新型コロナウイルスは、これまでの私たちの生活を一変させ、世界中の人々に様々な影響を及ぼしました。ILOは、新型コロナウイルス労働市場に与えた影響を分析する「ILOモニタリング資料:新型コロナウイルスと仕事の世界」をこれまで5回にわたって発表しており、その中で、移民労働者、女性など、それぞれのグループが直面している課題を露わにしています。その中でも、「ILOモニタリング資料:新型コロナウイルスと仕事の世界 第4版」は、新型コロナウイルス若者に与えた三重のショックを指摘しています:

パンデミック発生後、働かなくなった若者は6人に1人を上回り、就労中である若者も労働時間が23%減少

②雇用に止まらず、教育や訓練も中断された

③雇用、教育、訓練の中断の結果、若者の就職活動や転職に大きな障害が発生。

モニタリング資料を受け、私たちILOインターンの中で、こんな問いが浮かんできました:新型コロナウイルスの影響が及ぶ社会の中で、実際の若者はキャリアについて何を思い、何を感じているのか?

パンデミックの影響は人によって様々です。ILOモニタリングのようなマクロの視点に基づいた分析やデータと同じように重要であるのは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」と誓った持続可能な開発目標(SDGs)を体現する観点です。つまり、一人一人のリアルな声を拾っていくことが、この問いへの答えを提供し、パンデミックの影響の実態をよりよく知ることができるのです。

本企画では、この問いを中心に、若者のリアルな声をお届けします。

第1回では、現役インターンの3名による、それぞれのキャリアの歩み、今後のキャリアの目標、そしてコロナの感染拡大が続いている今の状況についての座談会内容の一部をご紹介します。

<話し手>

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain大学院在学中、専門は国際人権法。大学卒業後から、研究者を目指すために大学院にて研究を継続。日本生まれ・日本育ちの外国籍であることから、日本の外国人問題にも関心を寄せる。今年から留学予定。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828123422p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain大学院在学中、専門は人間の安全保障。韓国生まれだが、幼少期から日本で過ごす。宣教師である父の影響を受け、幼い頃から国際協力に関心を寄せる。来年からコンサルティング会社で就職予定。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828123419p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain大学卒業後、イギリスの大学院にて開発教育・グローバル学習の修士号を取得。その後、人材育成/エグゼクティブコーチングを扱う企業を経て、現在、ILOインターンとして労働問題を勉強中。今年からパートナーの駐在先である南米に合流予定。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828123416p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828123602p:plain

座談会の様子

 
これまでのキャリアの歩み

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain最初の質問は今のキャリアに至るまでの歩みですが、お二人に聞く前に私の話を少しだけ。これまで研究と同時に様々なインターンをしてきました。キャリアを構築する上では、国際人権法をずっと自分の中核においてきました。大学入学までは中国の学校にいたのですが、安全保障等国家間の難しい問題を肌で感じた一方で、人権という普遍的な価値を国際社会で共有しようとしていることに感銘を受けました。日本はもちろん、国際レベルの人権規範の最前線にも携わりたいと思い、研究者を目指すべく研究を続けています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain幼少期から保育園の先生や教師に憧れていましたが、中高時代を経て日本の教育に対して疑問を持つようになりました。日本の教育を変えるためには、国際的な視点が必要だと思ったことから、大学、大学院は国際X教育について学び、様々な活動に参加しました。「教育」を年齢や機関にとらわれない「学び」として捉えるようになったことから、帰国後は企業での人材育成に関われる企業に就職しました。ただ、職場での人間関係の問題が起こり、「学び」の環境整備にはソフト面だけでなく、ハード面(人事制度や労働基準法など)の理解が必要だと思ったことから、現在のILOインターンに応募するに至りました。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain私は大学・大学院で開発協力を学んできたのですが、自分のキャリアの「キーワード」がないと思い、ILOインターンで自分の軸を見つけようとしているところです。大学での研究の専門はPKOで、いつかPKOに関する職にありたいとは思うのですが、現地のためにより良い提案ができるようになりたいと思うようになったので、来年からは民間のコンサルティング会社に就職予定です。

日本の「仕事の世界」の見え方

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831123213p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainこれまでキャリアを歩んでいく中で、困難だと思った点はありますか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainキャリアにおける軸を探している、と言いましたが、開発協力という分野の中で、自分が若干ブレていると感じることがあります。確かに、「これは私のキーワードだ」と言えるものがあることは一般的には望ましいと思われています。ただ、全員がそれをすぐに見つけれるわけではないという点は、自分のキャリアを考える上で大事だと感じますね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain自分のキャリアを表す「キーワード」または「軸」が決まっている・見つけていることが良しとされているのも、固定観念の一つであるように思います。例えば特定の分野の専門家でも、アウトリーチを通して様々な能力を伸ばす環境を得ている人はたくさんいます。世の中には様々な側面があるので、色々経験をすることは、遠回りに見えても自分につながっていくと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain私も、ジェネラリストになるか、スペシャリストになるか、という問いをよく考えていましたね。今こそ分野を絞っていますが、専門性に対するこだわりがあったように思います。一つの分野に絞ることが、自分の能力を最大限に発揮できると信じていたので、今の分野に辿り着くまでは大変でした。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain今の仕事の世界では、ジェネラリストが重宝されていますよね。でも、そもそも人間の能力と知識は断続的であることが多いですし、ジェネラリスト/スペシャリストという二項対立の考え方自体も、分業化が進んでいる現代だからこそある考え方だと思います。昔の人たちは、スペシャリストであっても、もっと色々なことをやっていますよね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainこういった固定観念は、私たちのキャリア観に大きな影響を与えていますよね。今年就活をした時には、新卒一括採用の制度が与える影響を強く感じました。就活生は、常に「今年受からなかったらどうしよう」という思いを持っていました。それって、結局「空白」が生じることへの恐怖感から来てるのだと思います。日本では、人生のステージが決まっているような印象を受けました。どの段階だと、だいたいどの層に属していかなければいけない、というように、直線的なキャリアが前提になっている気がしますよね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain直線的なキャリアが前提だと、例えばキャリアアップとして教育機関に戻るといった選択肢が難しくなってきますよね。私がイギリスの大学院にいた際、クラスメートは全員社会人で、キャリアップの為に大学院に来ていました。労働者は学んだことを次の職場で活かせることができますし、仕事の現場で色々な経験をした人たちと議論すると、大学院の授業の内容もとても深くなります。さらに、その経験は間接的であれ直接的であれ、企業活動にも還元されていくと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainそのような効果を期待するには、教育機関労働市場の接続をもっと有効にしていく必要があると思います。分野にもよると思いますが、今の日本の大学で学ぶ内容がどれほど実地と関連性があるのか、私は疑問に思います。例えば、新卒枠で就職活動をする際、教育で学んだことが評価されることはほとんど無いように思います。これは、私が研究者を志すきっかけの一つでもあるのですが(笑)もちろん、関連性が無いからこそ、キャリアチェンジという意味では適切なのかもしれませんが。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain同じ会社・組織の中にいたいけど、でもスキルアップもしたい、という方々には、その手段として教育機関に戻ることを選択するのは現在はハードルが高いかもしれません。スキルの習得には、同じ分野で「縦に」スキルを積み上げていくことと、様々な分野に及ぶ「横に」スキルを学んでいくという2種類がありますが、どのようなスキルや経験がプラスになるのか、を企業が改めて考えることで、スキル習得の選択肢全体が広がっていくことが望ましいと思います。

今後のキャリアプラン

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今後のキャリアについても教えてください。私は、冒頭で日本の研究者を目指していると言いましたが、実は少しだけ予定が変更になり、パートナーとの生活と折り合いをつけるために、海外で研究者を目指すことになりました。留学もそのためです。日本の問題の最前線にはいられないかもしれませんが、世界の様々な人権問題を見聞きし、そこに取り組んでいける研究者を引き続き目指します。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain私は成人教育やライフロングラーニングを軸に手に職をつけたいと思っています。今後、パートナーの仕事の都合で海外で生活することも想定されることから、どこに行っても働けるようになりたいですね。それが、どのような職業なのかはまだわからないのですが、コーチングは資格を取りたいと思っていますし、現地のNGOや国際機関などでも経験を積めたらいいなと思っています。

 f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain短期的には、入社予定の会社でしっかり勉強し、願わくばこれまで研究してきたことと親和性のある仕事に従事できたらと思っています。長期的には、例えば10年後に国際機関で実務家になりたいなと。また、来年以降も大学院に所属したままなので、博士論文を書き上げることを人生の目標に設定しています。

キャリアにおける障壁

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831123253p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain皆さんそれぞれのプランがありますが、実現にあたって障壁となっているものはありますか?私の場合は、パートナーなどとの家族生活とキャリアの両立の問題はいずれ生じてくるのかなと思います。女性の研究者の中では、例えば博論を書いている間に妊娠・出産のライフイベントがあり、とても苦労された話も聞くことはあります。ILO報告書ジェンダー平等に向けて大跳躍:より良い仕事の未来をすべての人に」では、ジェンダーに根付くキャリアの中断、労働時間の短縮は「母親であることに対する賃金ペナルティ」の格差をもたらすと指摘していますが、まさにその問題が現実として生じ得ると感じています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain私もキャリアプランとライフプランの両立は絶賛悩み中です。今後、出産・育児などのライフイベントを考えると、一箇所で3~5年働いてからの方がいいのかなと考えたりもしています。また、日本の職場は、新人へのパワハラ・セクハラへの認識が不十分であるところが多いと、周りの友人の話を聞いていても感じます。より問題なのは、パワハラ・セクハラへの耐久性が、多くの場合、精神力など個人の能力に結びつけて考えられている点にあると思います。ILOでは第190号・暴力とハラスメント条約が昨年採択され、日本では今年6月からパワハラ防止法が施行されたので、ハラスメントへの対応がより改善していくことを願っています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain私は実家が福岡なのですが、両親が気になります。できれば両親の近くにいたいのですが、仕事や機会は東京に集中してしまっているので、福岡に帰る決断はまだできそうにないです。元々田舎が大好きで、東京にずっと住むことは自分の性格に合っていないのですが、やりたいことが東京にあるため、仕方がないです。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainコロナによってリモートワークが推進され、最近は政府がワーケーションを推進するようになったので、ワーケーションの導入に伴い、リモートワークの環境の整備が進んでいくことで、それが結果的に東京一極集中の解消につながっていけばいいのですが。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain今の状況でリモートワークの導入が進んでいますが、それでも原則は出社で、今が例外の状態と捉えられている気がします。また、仕事内容によっては毎日出社しなければいけない人もいます。さらに、例えば本社が東京とかだと、仕事や機会が九州までに分散することはないのかなと。分散しても、やはり関東に近いエリア内になると思います。

コロナ時代における仕事の未来

f:id:ILO_Japan_Friends:20200831123335p:plain

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainコロナの話がありました。皆さんはどの影響を受けていますか?私は留学予定でしたが、渡航の目処が立たず、オンラインでのスタートとなります。留学先で仕事を見つけることが目標で、そのために現地の労働市場の観察も兼ねての留学だったのですが、最後までオンラインだと、そのあとの職探しに大きな影響が出そうで、とても不安です。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain私も南米にいるパートナーとの合流がいつになるかわからず、宙ぶらりんの状態です。もしも海外にいるパートナーが緊急帰国したら、日本で職探しをするのか…見通しが立ちません。現地でインターンをしたいのですが、先行き不透明で、なかなかアクションに移せません。また、駐在員のパートナーも、いつ帰国指示が出るかわからない中、どこまで現地の仕事を展開していったらいいかわからず、大変そうです。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain私も見通しが立たない中、アクションへの躊躇が増えた気がします。また、私の場合はアルバイトができなくなったので、家賃の収入源が丸々なくなっている状態が続いていました。大学からの援助も、他の奨学金を受けていることで受給資格がないとされてしまい、元々はアルバイトで家賃、奨学金で生活費を賄っていたのですが、とにかく家賃分が大変でした。また、ILOインターンを最初から最後までリモートでやることになっているのですが、当初は顔も知らない職員さんとお仕事をするにあたって、とても気を使ったりしました。さらに、新しい人々との繋がりなど本来インターンから得られる機会が全く享受できていないことは、仕方がないですが残念に感じます。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain私も最初はリモートワーク自体が初めてだったので、色々戸惑いはありました。もはやリモートの方が長いので、結果的に慣れてきましたが(笑)また、当初は仕事があまりなくて、時間を持て余していましたが、今は仕事量も増えてあまり気にしなくなりました。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain一方で、働きすぎてしまうことはやはりありますよね。プライベート時間との切り分けが難しいと感じます。ですが、リモートワークのいいポイントとしては、私は逆に密にオンラインコミュニケーションをとるようになったので、上司とより親しく慣れたと思います。会えなくなるからこそ、ちゃんと機会を設けることがより重要になっていると感じます。

 ILOインターンからみた若者の働き方

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今日の議論の中で仕事の世界に関する様々な論点が出てきましたね。

・キャリアの軸

スペシャリスト/ジェネラリストという二項対立

・所属していないこと/「空白」への恐怖感、新卒一括採用、直線的なキャリアの前提

生涯学習、大学での学びの価値、労働市場教育機関の接続

・プライベートとキャリアの両立

・暴力とハラスメント

・東京一極集中、リモートワーク

・コロナの影響とこれから

お二人は話してていかがでしたか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plainコロナによって起きた問題も多いですが、やはり元からある課題が多いように思いますね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainこの企画では、次回から2回にわたってILOインターンの卒業生をお呼びし、これらの点について話していきますので、先輩方からどのようなお話が聞けるのか、とても楽しみです。

==============================================================次回は、若手キャリア座談会の拡張版として、ILOインターン卒業生を交えた「リアルな声」をご紹介します。ぜひご覧ください!

 

【報告書紹介 vol.2】現代奴隷制の世界推計:強制労働と強制結婚(2/2)

f:id:ILO_Japan_Friends:20200527213501j:plain


前回の記事では、報告書に沿って、現代奴隷制の定義や、世界の状況、強制労働に焦点を当ててご紹介しました。

今回は、ILO駐日事務所の取り組みと、現状に対処するためのツールをご紹介します。

 

 

--ILO駐日事務所の取り組み①---

「公正な人材募集・斡旋に関する一般原則及び実務指針ならびに募集・斡旋手数料及び関連費用の定義」の日本語版発表

公正な人材募集と斡旋を促進するため、移民労働者を含め、すべての労働者を対象とし、人材派遣会社を通じた募集・斡旋にも適用される一般原則と実務指針がまとめられています。前回もご紹介したように、強制労働の被害者の多くは移民というデータがあり、代表的な搾取方法は、

・斡旋手数料の徴収

・給与や労働条件/職務の性質に関する虚偽の約束

・標準以下の労働条件での労働

・国内の基準や同僚を下回る賃金

などが挙げられます。このような事態を防ぐためにも、送り出し国と受入国募集・採用制度を改革する必要があり、そんな時、このツールが役に立ちます!

 

以下が、資料内に記載されている”公正な人材募集・斡旋に関する一般原則”13項目です。この原則を元に、政府や事業者及び公共職業安定所に求められる責任が具体的に記載されています。より詳しくこの資料について知りたい方はこちらをご覧ください。

 

f:id:ILO_Japan_Friends:20200715124957p:plainf:id:ILO_Japan_Friends:20200715125006p:plain

出典:ILO公正な人材募集・斡旋に関する一般原則及び実務指針ならびに募集・斡旋手数料及び関連費用の定義」、2019年

 

 

--ILO駐日事務所の取り組み---

社会保険労務士制度の世界的普及を目指し、全国社会保険労務士会連合会との覚書締結

ILOと全国社会保険労務士会連合会は2020年3月23日に社会保険労務士制度の導入に向けた技術協力などを内容とする覚書を締結しました。連合会とILO本部(スイス・ジュネーブ)とをテレビ電話システムでつないだ締結式の様子はこちら 

 

この覚書において予定されている活動には、

他国(特に新興国及び開発途上国)における社会保険労務士制度の導入に向けた技術協力の実施

労働・社会保障関連法令等の遵守向上を通じて企業の発展と労働者の福祉に寄与する社会保険労務士の役割に関する意見交換、調査研究等

が含まれています。インドネシアに続き、マレーシアやベトナムにおける社会保険労務士制度導入における協力活動の可能性も示されました。世界的に移民労働者が厳しい環境に置かれやすい傾向の中、ディーセント・ワークと持続可能な開発目標の実現に大きく寄与することが期待されます!

 

全国社会保険労務士会連合会”についてもっと知りたい方はこちらをご覧ください。

 

 

--ILO駐日事務所の取り組み---

ILOバックグラウンドペーパー「ビジネスと人権行動計画(NAP)策定に向けた関連文書の分析~主要テーマごとの参照事項の集約」の作成

グローバルサプライチェーンの拡大に伴って、注目されているテーマ「ビジネスと人権」。現在、日本でも政府が中心となり、「ビジネスと人権に関する行動計画(National Action Plan : NAP)」の策定に取り組んでいます。ILO駐日事務所は、NAP策定プロセスにおいて複数のステークホルダーから重要性が指摘された特定のテーマごとに、国際社会からの視点をまとめた日本語資料を出版。NAPを議論する際に参考となる国内的/国際的な6つの関連文書

 

 

を5つの分野(ディーセント・ワーク、情報開示、外国人労働者、人権デュー・ディリジェンス&サプライチェーン、公共調達)ごとにまとめ、各テーマで参照すべき事項を整理しています。

 

これと国内の議論を合わせて俯瞰することで、日本NAPのあるべき姿を追求する努力に貢献することがこの資料作成の大きな目的です。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200715125232p:plain出典:ILO駐日事務所「ビジネスと人権行動計画(NAP)策定に向けた関連文書の分析」、2020年

 

--ILO駐日事務所の取り組み④---

多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)第5版(2017年)-解説掲載

グローバルサプライチェーンつながりで、もう一つ、ILO多国籍企業宣言をご紹介します。この宣言は、社会政策と包摂的で責任ある持続可能なビジネス慣行に関して、企業(多国籍企業及び国内企業)に直接の指針を示したILOの唯一の文書です。多国籍及び国内企業、本国と受入国の政府、労使団体に対して、一般方針、雇用、訓練、労働条件・生活条件、労使関係の5つの分野に関する指針を示しています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200715125318p:plain

 

本日ご紹介した資料は、日本を含む世界中の国々において、国境を超えて働く人々の労働問題に対処できるツールになりますので、ご興味がある方は、ぜひ資料そのもののを読んでみてください。

 

==============================================================

以上、報告書「現代奴隷制の世界推計 強制労働と強制結婚」(2017)の要点と、ILO駐日事務所の取り組み&役立つツールについて2回にわたりご紹介しました。また、現代奴隷制に対し、ILOが提示している全般的な解決策にご関心のある方は、是非、報告書をご覧ください。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました!次回の報告書紹介も是非、お楽しみに!