ILO_Japan_Friends’s diary

ILO Japan Friends’ diary

国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ナイジェリアの若者と雇用

今日は、ナイジェリア出身の友人に聞いたナイジェリアの若年雇用の様子を紹介します。ともすると一括りで語ってしまいがちな「アフリカ」。その大陸には50を超える国があり、それだけを見ても状況は様々であることが想像できます。それぞれの若者が仕事の世界をどのように経験しているのか。就職の仕組みはどのようなものなのか、彼らはどのように仕事を見つけ、どうやって職を得るのか。彼らにとって「良い仕事」とはどのようなものか。そのような仕事を得るために何が重要な要因になると考えられているのか。限られた人数ではありますが、具体的な文脈に身を置き生活してきた一人の個人に対する聞き取りから記事を書くことを通して、そんなことが少し垣間見られればと思います。

 

 

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ナイジェリアは、アフリカ大陸最大の経済規模を誇る国。一人当たりGNIは年間25万円程度で、人口の半数が農村部に居住し、農業に従事している。ハウサ族、イボ族、ヨルバ族をはじめ300ほどの民族が存在しており、宗教分布は北部を中心にイスラム教徒が約40%、キリスト教徒が約50%、伝統宗教信者が10%ほどの割合でいる。早婚傾向にある農村部の女性などは依然として低い就学率であるものの、教育水準は上昇している。一方で、多くのアフリカ諸国同様若年雇用について問題を抱えている国でもある。2000年以降、若年層や大学・高校新卒の失業者が多く、若年失業率は19.6%(世界銀行 2018)と極めて高くなっている。

 

【彼が日本に来た理由】

マイケルは36歳。ナイジェリア出身で、現在は日本の大学院生だ。家族とともに、日本で暮らしている。

 

マイケルは、ナイジェリアの大学で公共政策に関する学部を修めた後、高校教師の仕事とジャーナリストの仕事を経験し、もう一度学部課程から日本で学びなおそうと来日した。

 

日本を留学先に決めたのは、ナイジェリアにおける日本のイメージの良さが一つの要因であったようだ。マイケルは来日を決めた理由について、第一に日本製品の品質の良さに基づく信頼感、安全性を挙げた。

 

―どうして留学先に日本を選んだんですか?

―ずっと留学するのが夢で、渡航するなら日本がいいと思っていました。ナイジェリアでは、日本はとても好意的なイメージを持たれています。品質のよい製品は大抵日本から来たものだし、生活するうえで安全面について心配する必要もありません。さらに、日本の学位を持っていれば、ナイジェリアの私立大学に就職できる可能性があるのです。ナイジェリアでは、夏目漱石の『吾輩は猫である』も読みましたよ。

 

【彼の職歴とナイジェリアの就職制度】

マイケルは、日本に留学する以前、ナイジェリアで高校教師とジャーナリストの職を経験している。ジャーナリストは彼の子どもの頃からの夢だったが、最初についた職が高校教師であったことには、ナイジェリアの就職制度が関係している。ナイジェリアでは、大学を卒業したものは、新卒の一年間、公立学校(多くの場合高校)で教師を務める必要がある。

 

―ナイジェリアの就職制度を教えてください。大学を卒業したら、どうやって職に就くのですか?

―ナイジェリアでは、大学卒業後の一年間、National serviceに従事する必要があります。多くの場合、公立高校で教師として働くのです。下から二番目の弟は、今まさに大学を卒業し、一年間高校の教師として働いているところです。フルタイムの賃金を得ることはできません。一か月の給料は、大体三万円くらいでしょうか。その一年を経た後で、職探しをするんです。

 

【ナイジェリアでよい職を得るための条件とは?】

ナイジェリアでの職探しは、新聞やインターネットに掲載される求人を探すことから始まる。良い職を得るために重要なことは、公共セクターと民間セクターで異なると彼はいう。

 

―ナイジェリアでいい仕事を得るために重要な条件って何ですか?

―公共セクター(政府関係の仕事)につくために重要なのはNepotism、コネですね。次いで、お金、民族の出自です。学歴は、運の次。あまり重要に機能しません。

―へえ、民族が影響するというのは、具体的にどういうことですか。

―公共部門の仕事では、多くの場合Quota Systemが導入されています。ナイジェリアには300を超える民族集団がいますが、その民族の出自ごとにポストの募集人数を決めるんです。10人の募集に対して、イボ族出身者は4人、ヨルバ族出身者は3人、ハウサ族出身者は2人…という感じです。ナイジェリアでは、公教育がすべての民族言語で提供されているわけではありません。また、宗教の別によってはそもそも公教育ではなく伝統的な教育設備を教育手段として選択することもあり(ここでは、マドラサを選択するムスリムの存在が例に挙がった)、教育達成の度合いが、民族の出自とある程度相関関係を持ってしまいます。結果的に学歴で評価すると民族バランスに不均衡が生じてしまう。それゆえに、民族の出自を基準にして意図的に席数を設定するんです。どんなに頭がよく優秀であっても、出自の民族が異なるために採用されないというようなことが起こります。

 

公共部門については能力が重視されていないと感じられるのに対し、民間部門においてはある程度個人の能力によって就職が決まるという。

 

―先ほどは公共部門に就職する際の話を聞きましたが、民間企業に就職するときに重要なものも同じでしょうか。

―違います。民間企業は競争する必要がありますから、より厳密に人を選びます。民間企業に就職する際に最も重要になる要因は、学位や資格の有無ではないでしょうか。

 

研究者としてのキャリアを積んだのち、自身のテレビ番組を立ち上げるのが彼の夢だ。

 

【ナイジェリアのある職業訓練の形】

マイケルには農家から仕入れたヤム芋を路上で売る母親と荷物引きの父親のもと、5人の兄妹がいる。そのうちナイジェリアの職業訓練の形を垣間見ることができるのが、彼の一番下の妹と三番目の弟である。

 

―一番下の妹さんは、今何をしているんですか。

―女性向けの洋服屋さんをしています。ナイジェリアでは、若者が何かの事業を始めるとき、既にお店を持っている人に弟子入りして技を学ぶという手段がとられることがよくあります。少しお金を払って、インフォーマルな職業訓練を受けるんです。

 

また、彼の兄妹のうちで唯一高校を卒業していない三番目の弟は、現在農業機器を扱う個人事業を経営している。彼は、数年間他人が経営する企業で働いて事業を始めるための資金を用意したという。

 

―弟さんは、高校を辞めた後、どうやって事業を始めるに至ったんですか。

―いわゆるApprenticeship(徒弟制)という制度です。数年間他人のビジネスを無給で手伝います。その後、お金をもらって自分の事業を始めるんです。もともとは農家によくみられるシステムでした。無給で働く代わりに、6年ほどたつと土地がもらえるんです。それからは自分の土地で農業に携わります。弟は、そのビジネス版で起業したといえます。

 

このように、マイケルの二人の兄妹は、それぞれの方法で仕事の方法を身に着け、自分のビジネスを開始したのである。

 

 

ここで書かれた話は、あくまでマイケルが感じている、マイケルにとってのナイジェリア若年雇用の現実である。しかし、一人のナイジェリア出身者が、自国の就職事情をどのように捉えているのか、仕事の世界に生じている様々な現象をどのように理解しているのかということを垣間見ることはできるかもしれない。

 

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ナイジェリアの就職事情、いかがでしたか。

ILO駐日事務所では、TICADにて「アフリカの若者と仕事」をテーマにしたサイドイベントを開催します。若年雇用は、アフリカ各国で最優先課題となっている重要なテーマです。ILO事務局長やガンビア雇用大臣、女性若年起業家など様々な立場の登壇者が、それぞれの経験をもとに「アフリカの若者と雇用」について考えます。

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