ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ILO職員インタビュー第3回(2/2):川上剛 労働安全衛生・労働監督上級専門家

前回は、川上労働監督上級専門家の業務内容や、日本の労働安全衛生について伺いました。

国としての労働安全衛生に関する制度作りや技術協力に関わる一方、労働者・使用者に対して直接の安全衛生トレーニンを実施することもあるそう。そして、「トレーニングの結果として労使が協力して安全衛生を改善した事例に出会ったときが一番嬉しい!」と熱く語ってくださいました。

今回は、そんな川上労働監督上級専門家のキャリアパスについて聞いていきます!

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ILOで働くまで

ILOで働かれる前は産業医学総合研究所、労働科学研究所でお仕事をされていたと伺っております。どのような業務をされていたのでしょうか。

研究所ですから、私も研究を中心にやっていました。産業医学総合研究所はどちらかというと基礎的な研究が多くて、例えば化学物質の有毒性についての動物実験です。労働科学研究所は、いろんな企業・職場から依頼を受けてその現場に入って実際の労働条件の調査をして、それで何が問題になっているかを調べて改善のアドバイスをするという実践的な研究をしていました。政府・経営者・労働者どこからも調査・研究の依頼があったので、ILO的な三者協力について学ぶことができました。ILOから委託を受けて短期のコンサルタントとしていくつかのプロジェクトに関わったりということもありました。

 

―研究だけではなくてかなり実践的なことも前職ではされていたんですね。その中で、今ILOコンサルタントという言葉も出ましたけれど、国際機関へのキャリアチェンジというのはどういう理由があってのことなのでしょうか。

私の頭の中ではキャリアチェンジという感じは全くありませんでした。というのは、私は働く人たちの安全と健康の向上、特にアジアにおけるそれを医師としてライフワークとしてやろうと学生の頃からずっと思っていたんです。働く場は日本の研究所からILOに変わったけど、やってることは自分の頭の中では同じ延長線上にありました。労働科学研究所で日本国内と国外の仕事をいろいろやっているうちに、次のステップとしてアジアの特に現場で働いている人たちの健康改善について現地に根差してじっくりと取り組みたいと思っていました。ILOで労働条件環境局長をしていた小木和孝さんがILOを定年退職された後に労働科学研究所の所長になられたこともあって、私もILOのプロジェクトに関わらせていただく機会があった。そのことで自然とILOとの距離が近くなりました。そんな時ちょうどILOバンコクの安全衛生専門家ポストの空席情報が出て、よい機会だったので応募しました。

 

―今後日本に戻られようというお考えもあるのでしょうか?

私も定年したらまた日本に戻ろうとは思います。ただ今のアジアの仕事はやりがいもあるし様々なニーズがあるので、できるだけ長くいて少しでも解決に向けてがんばれればと思います。

 

読者に向けたアドバイス

ILOを目指す学生や保健医療専攻の方への情報収集に関してアドバイスはありますか?

今はインターネットの時代だから基本的な情報収集はすぐできると思います。まずは、ILOで自分が何をやりたいかを自分ではっきりすることが大事ですよね。ILOに入るというのはそれ自体が目標ではなくて手段だと思います。私の場合、世界の働く人々の健康と安全をよくしたいというライフワークがあって、その中でILOが見えてきたという感じがします。

 

―専門家として働くならこういう資格があった方がよいなど、ありますか?

ILOの場合は、何かの資格がないと職員になれないということはないと思います。求められているのは、専門分野における国内外における豊富な実践経験だと思います。そういう実践の機会を見つけて積極的に参加していく事が大切です。あと労働の現場と政策・国のシステムの双方を見て、結び付けていく視点が大事です。現場で活動していると満足感もあるんだけど、その点や面をどうやって政労使のネットワークと協力してさらに適用範囲を広げていくかという政策視点は大事です。逆に政策だけ紙の上で作ってもそれがうまく実施されるかはわからないので、現場労使主体のボトムアップと両方を組み合わせていく視点が私の場合にはすごく大事だったと思っています。

国連に入るというとまずJPOを通してという方が多いと思うけど、私は40歳になる直前に個別の空席情報に応募して採用されました。それまでは専門家として経験を積みました。私のILOの同僚には同様な経歴の人が多くてJPOからずっといた人はむしろ少ないくらいです。JPOはぜひ目指したらいいと思うんですが、別のアプローチとして30歳半ばくらいまで専門家として国際経験を含めていろんなことをやって、それから P4あるいはP5の空席情報に応募するというのもあると思います。それまでに、何かILOの仕事に、インターン、短期コンサルタント、あるいILOの委員会とか会議に参加するとか、自分の専門の立場からILOの仕事に関わり理解する機会があるとさらによいと思います。

 

ILOの人事担当から空席公募は公募している段階で内部のコネクションですでに決まっていると聞いたのですが。

私の経験ではポストが内部コネクションで決まるというような事は全くなく、選考は公正に行われます。すでにILOの仕事をした経験があって即戦力になると目される人がいる場合はあるかもしれません。そういう場合であってもそれまで知られていなかったILO外部からの優秀な応募者が採用選考でよい評価を得てポストを得るということはよくあります。逆にILOの仕事をした経験があっても成果を出せずにマイナスの印象を持たれて、その後ポストに応募しても難しくなる場合もあるかもしれません。ILOの委員会に関わるとかインターンコンサルタントをやるとかは広い意味での採用テストになっているのかもしれません。ですから機会があったら一生懸命やって、そこですでに評価されていると考えてみるとよいかもしれません。

 

―労働安全衛生の分野には医療系の資格保有者の方以外も関わっていらっしゃるのですか?

工学系の同僚もたくさんいますし、社会科学系でビジネスマネジメントの一環として労働安全衛生の実践経験を持っている同僚もいます。法律家の同僚で労働安全衛生法を専門にしてきたり、あるいは自国の政府で労働基準監督官として労働安全衛生のコンプライアンスを実践したきた同僚もいます。共通しているのは、ILOの労働安全衛生の条約・勧告類の内容と実践応用に精通し、また現場や政策における労働安全衛生活動の実際的な経験です。

 

―保健医療を専攻されている学生は、保健分野ではWHOが最初に思い浮かぶと思うのですが、ILOはどれほど認知度があるのでしょうか?

国際分野で医師・保健専門職として仕事をしたいと思う人はたくさんいます。保健分野の中で、感染症対策とか医療政策・システム作り全般とかはWHO、労働安全衛生はILOに入り広く認知されています。私も労働安全衛生分野でよい先輩たちに出会い導かれて、働く人たちの健康を自分のテーマにしていました。ILO自体を目指すというよりは、労働安全衛生ならILOだなっていうことで来たと思いますね。実際に労働者・経営者と一緒に仕事が出来てすごく現場的にやれることが、私がILOに来てすごくよかったなと思うところですね。

 

―お話ありがとうございました! 

 

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次回は、三宅伸吾 労働法国際労働基準専門家にお話しを伺います!お楽しみに!