ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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インターンの調査報告:社会的連帯経済(SSE:Social Solidarity Economy)(4/4)

 

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第1回はSSEとは何か第2回はILOにおけるSSEの取り組み第3回はSSEにかかる困難についてご紹介しました。

今回は、SSEが直面する困難へのアプローチと今後のSSEの役割についてです。

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前回見た通り、SSEにとって資金調達は民間企業とは異なる特殊なプロセスを必要とします。このうち、保証や安定的な収入源という点において役割を果たすのが公的資金または政府の関与です。以下で見るケベックの事例は地方政府・地域金融がSSEの発展に大きく役割を果たしたものです。一方のインドのSEWAのケースは地方政府への財政依存が大きい場合の危険性を示す例となっています。

 

-ケベック

  • ケベックではSSEについての強力かつ制度化された生態系が形成されています。その理由としてILO(2019)[1]は長きにわたる協同組合・共同体の活動の強い伝統、SSEを政治的・財政的に支える地域政府の積極的な関与、セクター横断的な協力関係の構築を挙げています。
  • 特にSSEを巻き込んで公共政策を形成するという地域政府の開放性はケベックにおけるSSEの成功を特徴づけるものです。そのかいもあってか今、SSEは400億カナダドル以上の売り上げを持ち21万人以上の雇用を担っています。
  • なお、ケベックではSSEの定義をするうえで非営利であることと集団による所有を重視しており、自主設定した社会的目標を掲げる私企業は政府の提供するSSE組織向けの金融商品の多くにアクセスできません。
  • ですが、SSEを財政的に支える仕組みは他にもあり、例えば「連帯ファイナンス」は集団により所有される事業体への投資を指しますが、ベンチャー投資を含む「開発資本」は社会的目標を掲げる事業体であれば社会的経済にかかわらず投資を行います。

ケベックの事例は地域政府と金融機関、SSEが対話を重ねながら政策作りを行っていることで、SSEが活躍しやすい土壌を形成していることを示しています。

一方で、地域政府に依存することでSSEが窮地に陥る危険性も指摘されています。例えば地域政府の公共調達にその生産と売り上げを大きく依存するSSEは政府の政策変更や政党間の対立の影響を大きく受けます。

 

-インド:Shree Saundarya Safai Utkarsh Mahila SEWA Sahakari Mandli Limited.

  • Shree Saundarya Safai Utkarsh Mahila SEWA Sahakari Mandli Limitedは清掃サービスを提供する女性の協同組合で、先に述べたSEWAの全国組織の支援を受けながら設立されました。
  • この協同組合は設立時から公的機関の施設における清掃サービスの提供を業務として請け負ってきました。しかし、契約は1年ごとの更新であったこと、他の事業者に契約を取られてしまったことなどから定期的な仕事を得るのが難しくなりました。
  • そこで取られた方策が全国組織のSEWAによるマーケティング調査と、それに基づき特定された潜在市場への定期的な訪問でした。

 

この事例は公共調達が確かに安定的な雇用をもたらすという点で重要であるものの、それへの過度な依存がSSEの存立すら危うくする可能性があることを示しています。こうした課題に対して、専門的な知識による支援やSSE自身の積極的な市場開拓が有効であることがわかります。ILOもこうしたSSEの能力の向上に対して技術支援を行っています。 

公共資金の他にSSEが資金を得る手段としては民間資金に頼る方法があります。

民間資金のうちSSEとの関わりで期待されるのが:

・協同組合型の金融(共済)

・通常金融による社会的パフォーマンスに対する金融サービス

の2つです。

共済は協同組合が提供する組合員に対する金融サービスを指します。営利を目的としない点で民間の保険と区別されます。純粋な営利団体に比べて財政的リスクを負いやすいSSEにとって、こうした共同的な財政確保の取り組みは安定的な資金調達に繋がることが考えられます。

社会的パフォーマンスに基づく金融サービスの提供とは、一般的に財政的パフォーマンスをもとに企業・団体に資金提供を行うのとは異なり、社会的パフォーマンスも資金提供をする上での判断基準の一つとして機能することを指します。ソーシャルインパクトボンドやソーシャルインパクトインベストメント、ソーシャルインパクトインシュアランスと様々な金融スキームで用いられます。中でもソーシャルインパクトボンドはその運用が進んでおり、官民連携における民間資金の提供に社会的パフォーマンスへの考慮が盛りこまれることとなっています。G8諸国により設立された社会的インパクトタスクフォースはその報告書の中でインパクトについての計測可能な目標の設定、受託者責任の明確化、政府による積極的な環境整備の必要等を提言としてまとめています。

ILOにもソーシャルファイナンスセクターがあり、中小企業や個人への金融サービスを通してディーセント・ワークを達成することを目標として金融セクターの能力開発に携わっています。この取り組みにおいても企業の財政的パフォーマンスだけでなくディーセント・ワークへの貢献という社会的パフォーマンスをもとにした金融サービスの提供が行われています。

 

  1. 今後SSEが担う役割

SSEがディーセント・ワークの創出にあたって大きな役割を果たしていること、またSSEの発展には政府や金融機関といった様々なアクターの関与が必要であることを紹介することができたように思います。その上でSSEを政策上どのように位置づけるべきか、どのような役割を今後SSEが担うべきか、という点について私見を述べたいと思います。

第1章でSSEを政策的手段として扱うか、軸として捉えるかでSSEの性質が異なる可能性があることを指摘しました。SSEの基本的特徴である社会的目標・協力/連帯関係・民主主義を確保しつつディーセント・ワークの創出を含む政策目標を達成するにはまずSSEの制度化が必要であり、その前提としての実態把握が必要であると考えます。現状では協同組合については分野ごとの個別協同組合法による制度化、NPOや社団法人・財団法人については法人格ごとに規定されています。法人格・分野にかかわらずSSEの基本的価値を定義したうえで政府、営利企業、SSEが協力して互いの役割を果たすことがSSEの価値を毀損せず政策目標を達成する上で重要なのではないかと思います。仮にSSEとは何か、どういった団体がSSEに該当するのか、の定義なしにSSEを政策目的に利用することは営利企業/SSE双方の役割の境目を希薄化させてしまうことが考えられ、結果としてSSEの価値が損なわれてしまうのではないでしょうか。もちろんSSEは万能薬ではなく、営利企業が果たす重要な役割を見過ごすこともできません。営利企業・SSE双方の良さを引き出すためにもそれぞれの得意分野・役割を把握することが必要です。

 

これまでSSE、主に協同組合が労働の分野で担ってきた役割は

・インフォーマルな雇用のフォーマル化

・金融包摂

・脆弱な労働者(若者、女性、障碍者)に対する社会的保護・訓練・雇用の機会の提供

といった最低限のセーフティーネットの提供という役割が大きかったと考えられます。

 上記に加えて今後SSEとして担うことが期待されている役割は

 ・労働の生産性、持続性を確保することによるディーセント・ワークの創出

と言えるのではないかと思います。

そのためにはSSEとしても積極的に営利企業とのかかわり、イノベーションへの取り組みをしていかなくてはなりません。

具体的には

サプライチェーンにおける労働者の保護の提供

・プラットフォーム型SSE

がカギとなると考えられます。SSEが営利企業と関わる機会が増えれば増えるほど、サプライチェーンの中にSSEが組み込まれることも多くなり、そこでの労働者の保護がSSEにとっての重要な役割となります。プラットフォーム型SSEは今現在プラットフォーマーと呼ばれる企業が行っている仲介機能をSSEが担うものです。欧米ではすでに移民労働者向けの家事労働サービス仲介SSEや自治体による宿泊施設の管理をするプラットフォームが存在します。日本においても地理的な制限を超えた新たな繋がりの形を生み出すことが人口減少社会において期待されます。

 

[1] 同上

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SSEの調査報告は以上となります!ご覧いただき、ありがとうございました。