ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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【*新コーナー*報告書紹介】ジェンダー平等に向けて大跳躍(1/2)

本企画はILOの活動や労働問題に関心のある方に、ILOの取り組み内容をより知っていただくことを目的としています。ILOがこれまで刊行してきた報告書をご紹介することで、報告書がテーマとしている分野の実情やILOの条約・勧告を皆様にご紹介していきます!

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第1回目は「ジェンダー平等に向けて大跳躍:より良い仕事の未来をすべての人に」をご紹介します!内容が盛りだくさんのため、2回に分けてお届けします。

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ジェンダー平等の現状

先日公表された国連広報センターの広報誌「Dateline UN」Vol.99(2020年4月号)にて、UN Womenは、ジェンダー平等に向けて世界は未だに「スピードも達成度も不十分」であり、場合によっては「停滞、さらには逆行している」ところも見られる、と指摘しました。

 

仕事の世界におけるジェンダー平等も、「スピードも達成度も不十分」である分野の一つです。これまで世界各国で様々な措置がとられてきましたが、未だにジェンダー不平等は解消されていません。

では、一体何が仕事の世界におけるジェンダー平等を妨げる要因となっているのでしょうか?

今日のブログでは、この問いへの視座を提供してくれる、ILOが2019年に発表した報告書「ジェンダー平等に向けて大跳躍:より良い仕事の未来をすべての人に」の内容をご紹介します。

なお、この報告書は内容が盛りだくさんなので、今回の記事ではジェンダー平等の要因に注目した第1章のみを取り上げたいと思います。

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ジェンダー平等の障害:ケアの負担と雇用上の格差

さて、皆さんは何がジェンダー平等の障害となっていると思いますか?

本報告書の第1章ではいくつかの点が指摘されていますが、日本社会にも大きく関わってくる2つのポイントをピックアップします。

 

ー「女性は伝統的にケアを提供する人と想定されてきた。…無償のケア労働は、女性から働く機会を奪っている最大の要因なのである。」

 

まず取り上げたいのは、ケアの負担の問題です。

ケアとは、育児、介護、家事などを含む配偶者や家族への介護・援助を指します。

ケア労働には、有償ケアと無償ケアがあります。有償ケアは、ケア労働に対して適当な賃金が支払われている場合を指し、例えば介護士や保育士は有償ケアに従事する人たちと言えます。これに対し無償ケアは、賃金の支払いがないケア労働を指します。

配偶者や家族へのケアは、人々の幸福に不可欠である一方で、その負担の多くは女性にのしかかっています。しかも、その負担の多くは無償ケア。

報告書は、いくつか重要な統計も示しています。例えば、フルタイムで無償のケア労働に従事している人口比率は、全世界で男性が4100万人(1.5%)であるのに対し、生産年齢の女性は6億600万人(21.7%)にものぼります。

また、有給・無償あわせた労働時間では、女性の1日当たりの労働時間は7時間28分で、男性の6時間44分より長いとされていますが、女性は労働時間の7割以上を無償ケア労働に使い、1日当たり平均4時間25分を無償ケア労働に充てているのに対し、男性の平均は1時間23分と示されています。

なぜ無償ケアの負担がこれだけ女性にのしかかっているのでしょうか?

報告書は、女性がケアの提供者であるとする伝統的な考え方があると指摘します。例えば、今は各国で推奨されているワークライフバランスですが、それに伴い採用されている措置の多くも、女性にケア負担が乗ることを前提に設計されています。しかし、職場と家庭のどちらでも働く女性は、睡眠不足や不安の問題が生じやすく、女性の健康と幸福に影響を及ぼしています

 

ー「就業女性に占める賃金労働者の割合は男性よりも速く拡大しているのに、男女の平均賃金の間の格差はさほど縮まっていない。」

 

次に取り上げたいのは、雇用上の格差の問題です。

報告書は、ジェンダー間の賃金格差も平等の障害であると述べています。

2019年当時、世界平均のジェンダー賃金格差は依然として18.8%でした。ILO第100号条約で男女同一価値労働同一賃金を規定していますが、この規定を実施する国内法を有する締約国は未だに少ない現状にあります。

格差の要因はどこにあるのでしょうか?報告書は、格差の要因となりうるいくつかの事柄(伝統や慣習、労働組合の結成や交渉が盛んでない分野での就業など)を挙げていますが、ジェンダー賃金格差の大部分は依然として説明できない、と分析しています。

報告書は、女性の中でも、母親である女性は、子どもがいない女性よりも所得が少ない傾向にあるとし、この格差を「母親であることに対する賃金ペナルティ」と呼んでいます。そして、興味深いことに、このペナルティは父親にはなく、男性は父親の方が賃金が高い傾向にあると指摘しています。また、賃金だけでなく、母親が指導的立場につけないことも、母親であることのペナルティだと述べています。

ペナルティの要因については、キャリアの中断、労働時間の短縮、企業の採用・昇進決定へのジェンダーバイアスの影響など、複数の要因があります。管理職等リーダーシップから母親を遠ざける要因については、男性中心の企業文化による影響もあると指摘しています。

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次回は、日本におけるケアの負担と雇用上の格差の状況を見ていきます!

ぜひご覧ください!

 

次回記事はこちらから↓

【報告書紹介】ジェンダー平等に向けて大跳躍(2/2) - ILO Japan Friends’ diary