ILO_Japan_Friends’s diary

ILO Japan Friends’ diary

国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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インターンの調査報告:社会的連帯経済(SSE:Social Solidarity Economy)(2/4)

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第1回は、SSEとは何か?について取り上げました。

こうしたSSEの定義を踏まえた上で次に、労働の専門機関であるILOがどのようにSSEについて取り組んでいるのか、そしてなぜ取り組んでいるのか、について具体例を交えながら紹介します。

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ILOSSE

ILOと協同組合との歴史は長く、ILOは1919年の創設の翌年である1920年に協同組合ユニットを発足させました。協同組合については、2002年の協同組合の促進勧告(第193号)[1]が存在します。これは1966年に採択された協同組合(発展途上にある国)勧告(第127号)を全世界的に適用するものとして置き換えた勧告です。

この勧告に基づき、ILOは2010年からはSSEアカデミーを開催して世界各地から実務家や政策立案者を招きSSEについての研鑽の機会を設けています。今年は10回目と11回目のアカデミーが開催されました。11回目は10月14日から18日の間スペインで行われ、雇用の創出と経済成長におけるSSEの役割への認識、そして公平な再分配システムを通してSSEが社会的・領域的不平等を緩和するような経済システムの多様化をもたらす可能性について宣言しました。

先に紹介したUNTFSSEでもILOは発足メンバーであり、他の機関と交代で議長及び事務局も務めています。2019年はILOが事務局の年であったため、6月25日・26日の二日間、ジュネーブILO本部にて国際会議が開催されました。そこではILOの協同組合ユニットのマネージャーが難民や移民といった脆弱な人々に対してSSEがどのように貢献するのかについての説明を行いました。ILOの企業局局長のVic van Vurrenは経済・社会・環境のバランスをとるうえでのSSEの重要性を強調し、SSEの認識を高めその影響と規模を拡大することを求めました[2]

ILOは2019年6月のILO総会で採択された100周年記念宣言ⅡのA.(ⅸ)で「特に中小零細企業及び協同組合、社会的連帯経済において、起業や持続可能 な企業を可能にする環境を推進し、全ての人にディーセント・ワーク、生産 的な雇用及び生活水準の改善をもたらす、主要な経済成長や雇用創出源としての民間セクターの役割を支援すること」と、協同組合や社会的連帯経済の推進に尽力することを宣言しています[3]

ではなぜILOは協同組合・SSEについてこれほどまでの取り組みをしているのでしょうか?その答えは協同組合・SSEが「すべての人にディーセント・ワークを」というILOの目標に貢献している・貢献が期待されるからです。協同組合・SSEは生産的な雇用、社会的保護、権利の尊重、そして発言の自由の尊重という面からディーセント・ワークの促進に役割を果たします[4]。特にこれまでは途上国におけるその役割が認識されていたため、勧告の適用範囲も途上国に限定されていましたが、仕事の世界の変容、先進国においてSSEが果たすことが期待される役割の拡大を受けた形で勧告の適用範囲が全世界に及ぶようになりました。現にEUでは10%の企業、そして6%の雇用がSSEに含まれると見積もられています[5]

協同組合・SSEが雇用の創出に貢献した事例としてインドのSEWA、そして日本のワーカーズコープ、ビッグイシュー日本の事例を紹介します。

〈具体的な取り組み〉

-Self-Employed Women’s Association(SEWA

  • SEWAはインド14州のインフォーマル経済で働く女性150万人が所属する労働組合です。1972年に創設され、メンバーの労働者としての利益や権利を守るために活動する一方で、彼女らがより良い収入を得、また食料や金融などのサービス社会的保護へのアクセスを改善できるよう、協同組合の立ち上げ・運営を支援しています[6]
  • SEWAは二つの面で革新的です。一つ目は、組合員がフォーマルな教育や訓練を受けられず、また経済的に貧しい出身の女性であること。二つ目は協同組合を通して促進されたインフォーマル経済の多くは初めてフォーマル化に取り組まれるものであったことです。SEWAが登場する以前からインドには協同組合が存在していたものの、その組合員のほとんどを男性が占めていました。これは農業に必要な土地の所有権や家督が男性に所有されていることが原因です。また、女性が従事することの多い育児や介護、ヘルスケアはこれまでインフォーマルな経済として社会的保護は与えられないものでしたが、SEWAの下で社会的保護が与えられるだけでなく、協同組合を組織することでこうした仕事から所得が得られるようになりました。
  • 例えば、SEWAによって組織された協同組合にShree SEWA Homecare Mahila Sahakari Mandli Limited という家事サービスの協同組合が存在します。協同組合は中流階級の住民協会や女性ビジネス協会と契約することで継続的な仕事の調達を可能にし、労働者、顧客双方のバックグラウンドチェック、職業訓練といった役割を果たします。

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ILO(2018)

SEWAがこれまで取りこぼされてきた女性という労働者、そしてインフォーマル経済という仕事双方に社会的保護と声を与えたことがこの事例からわかります。

-ワーカーズコープ:日本労働者協同組合

  • ワーカーズコープは、働く人びとや市民がみんなで出資し、経営にみんなで参加し民主的に事業を運営し、責任を分かち合って、人と地域に役立つ仕事を自分たちでつくる協同組合です。その起源は高齢者事業団による失業者・中高年者の仕事づくりを求める運動でした[7]
  • 日本のワーカーズコープは事業活動・社会連帯活動を通して誰もが安心して幸せに暮らせる「持続的な地域」づくりを目指しているとその目的を掲げています。具体的な事業としては共生ケア(高齢者・障害者)、子育て、自立就労、建物総合管理、地域生活産業といった80種を超える幅広い業務を行っています[8]
  • インターンとして9月に訪問させていただいた港区子育て応援プラザPOKKEもワーカーズコープにより運営されている子育て事業で、自治体の委託を受けて行われています。POKKEでは教職を退職された後の女性や障害を持った女性が働いておられ、また単純に子供を預かるだけでなく、保護者同士のネットワークを構築する場としても機能しており、働く人、そして利用する人双方の福利が追及されている印象を持ちました。ワーカーズコープという存在が意外と普段の生活や身近にあるということを感じる経験となりました。

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子育て応援施設POKKE

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福祉事務所ポジティブ

-ビッグイシュー日本:

  • ビッグイシューは市民が市民自身で仕事、「働く場」を作る試みです。上記の2つの事例が共に協同組合に該当するのに対し、ビッグイシューは有限会社という形態をとっています。ここでは社会的企業の一例として紹介します。ビッグイシュー日本は2003年9月、質の高い雑誌をつくりホームレスの人たちの独占販売事業とすることで、ホームレス問題の解決に挑戦し始めました。ホームレスの人たちの救済(チャリティ)ではなく、仕事を提供し自立を応援する事業である[9]ことが特徴です。販売にあたってもセルフヘルプの観点を重視し、販売促進の方法などは販売者個人の判断にゆだねているといいます。
  • 事業自体はホームレスの人たちが170円でビッグイシューが発行する雑誌を仕入れ、350円で売ることで1冊あたり180円の収入をえることができる仕組みになっています。2018年8月末時点で販売者として登録した人の数は1,837人、卒業者は200人を数えます。
  • 有限会社ビッグイシューNPO法人ビッグイシュー基金と協力してホームレスの人たちのサポートを行っています。NPO法人ビッグイシュー基金は有限会社ビッグイシューに比べより総合的なホームレス支援を行っているのが特徴です。有限会社のビッグイシュー自体はその性格から寄付などを受け取ることはしませんが、ビッグイシュー基金の方ではこうした慈善活動を行っています。

日本でも協同組合・社会的企業によって、脆弱な立場にいる人の雇用確保の試みが行われていることがわかります。

 

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[1]勧告は、協同組合を、「共同で所有され、かつ、民主的に管理される企業を通して、共通の経済的、社会的及び文化的ニーズ及び希望を満たすために自発的に結合された自主的な人々の団体」と定義し、雇用創出、資源動員、投資創出、経済寄与における協同組合の重要性、協同組合が人々の経済・社会開発への参加を推進すること、グローバル化が協同組合に新しい圧力、問題、課題、機会をもたらしたことを認識し、協同組合を促進する措置を講じるよう加盟国に呼びかける。労使団体と協同組合団体の役割、相互関係、国際協力に関する規定も含まれる。Normlex(R193-Promotion of Cooperatives Recommendation, 2002 (No.193)) https://www.ilo.org/dyn/normlex/en/f?p=NORMLEXPUB:12100:0::NO::P12100_ILO_CODE:R193

[2]ILO(2019) “ILO co-organizes an international conference on the Social and Solidarity Economy (SSE)” https://www.ilo.org/global/topics/cooperatives/news/WCMS_711795/lang--en/index.htm

[3] 「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」2019年6月21日第108回ILO総会(ジュネーブ)にて採択https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---asia/---ro-bangkok/---ilo-tokyo/documents/publication/wcms_715346.pdf

[4] ILO(2014) “The Social and Solidarity Economy” https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_emp/---emp_ent/---coop/documents/publication/wcms_175515.pdf

[5] 同上

[6] ILO(2018) “Advancing cooperation among women workers in the informal economy: The SEWA way” https://www.ilo.org/global/topics/cooperatives/publications/WCMS_633752/lang--en/index.htm

 

[7] ワーカーズコープHP https://jwcu.coop/about/assoc_cooperative/

[8] 同上

[9] ビッグイシュー日本HP  https://www.bigissue.jp/about/

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次回は、協同組合・SSEが面している困難について取り上げます!ぜひご覧ください。