インターンの調査報告:社会的連帯経済(SSE:Social Solidarity Economy)(3/4)
第1回でSSEとは何か、第2回でILOにおけるSSEの取り組みについてご紹介しました。
今回は、SSEが直面する困難についてです。
協同組合・SSEは以上みてきたように、ディーセント・ワークの推進に大きく貢献するものですが、それらにはその特徴から生じる様々な困難があります。その障壁が協同組合・SSEのスケールアップを難しくしています。
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SSEにかかる困難
①ガバナンス
これはSSEの中でも主に協同組合が直面している困難です。
・全国組織と地域組織の関係性の在り方
協同組合のスケールアップに関しては制度的な障害もあります。日本の場合、各種協同組合の活動の範囲は基本的に都道府県に限定されています。インドでは協同組合を規律する法律が州ごとに異なっていることから、実質的に活動範囲が州レベルに制限されています。そのため、各協同組合の連携を図るうえで全国規模の連合組織が設立されるのが一般的です。日本のこくみん共済連合会には47都道府県の共済組織が加盟していますし、前述のSEWAにも連邦組織が存在しています。Gujarat State Women’s SEWA Cooperative Federation Limitedは115の協同組合をメンバーに持つ連邦組織です。メンバーの協同組合の利益を国レベル/国際レベルで代弁したり、協同組合の能力向上、協同組合相互の連携を行います。地域のニーズに即しコミュニティの人々のディーセント・ワークを達成するという役割が協同組合に期待されていると考えると、協同組合が地域ごとに分かれていることには合理性も感じますが、デジタル化の進展に伴うメンバーシップの多様化や金融など規模の拡大が持つ効果が強い分野ではこうした協同組合の在り方が適切かどうかには疑問が残ります。
また、仮に協同組合が上記の課題を克服しスケールアップできたとしても、協同組合の特徴である1人1票原則や組合員の連帯感が希薄化するという問題が挙げられます。UNTFSSE[1]もこの問題を認識しており、大規模な協同組合は階層的なガバナンス構造を持ち、平等よりも効率を重視するようになり、営利企業のCSRとの違いが見えにくくなると指摘しています。
2019年9月に行われた協同組合セミナーでも大学生協の方からその旨の懸念の声が挙げられました。協同組合を一から自分たちの手で作り上げるのとは異なり、すでにある協同組合のサービスを受ける場合、自らが構成員であり、意思決定に関わることができるという感覚を持つのは確かに難しいと感じます。協同組合の性質とその利点があまり周知されていないというのも原因の一つではないかと思われます。
②財政
協同組合・SSEにとって資金調達はもう一つの課題です。規模を拡大すること・市場の変動に耐え事業を継続することにおいて、安定的な資金の調達は必要不可欠な要素です。
SSEにとって資金調達の手段は内部資源の活用、慈善や寄付、ローンや株式による調達が主です。以下の図でもわかるように、SSEの資金調達源・手段は営利企業と共通の部分もあればSSE特有のものもあります。例として挙げられるのが、スペインのモンドラゴン協同組合グループ(労働者協同組合の全国組織)です。モンドラゴン協同組合グループは内部に協同組合だけでなく子会社も保有しており、その数は266に上ります。そこでは2008年の世界金融危機のあおりを受け、グループのうち住宅向け家電を製造する協同組合が倒産しています[2]。モンドラゴン協同組合グループは危機に瀕したグループ協同組合に対して内部資金を注入するほか、労働者組合員の共済組織からの救援も受け、立て直しを図りましたが、最終的には内部資金の継続が中止され[3]破綻をもたらすことになりました。
こうした資金調達を行う上で課題となるのがSSEの資金需要を正確に見積もることの困難さとSSEが持つ社会的価値やリスクの適正な評価をすることの困難さが挙げられます。それゆえSSEへの資金提供者は営利企業に対するものと変わりませんが、SSE組織を対象とした保証スキームを構築することが推奨されます。保証スキームは公的資金によるもの、中小企業・協同組合等の相互扶助に基づき形成されるコンソーシアム等の形をとるものがあります[4]。保証者は保証積立金のような形でSSEの信用を金融機関に対し保証します。
[1] 前掲注5
[2] 坂内久(2014)「スペイン・モンドラゴン協同組合グループの動向―『FAGORの破綻』の実態と対応―」『農林金融』7月号
[3] 前掲注10
[4] 前掲注1
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次回は第4回、困難に対するアプローチと今後SSEが担う役割についてです!ぜひご覧ください!