ILO_Japan_Friends’s diary

ILO Japan Friends’ diary

国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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インターンの調査報告:社会的連帯経済(SSE:Social Solidarity Economy)(1/4)

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今回はインターンによる調査報告という形で
「社会的連帯経済」について取り上げたいと思います!

社会的連帯経済とは何か、それを国際労働機関のILOが取り上げる意義、社会的連帯経済にかかる困難について具体例を交えつつご紹介します!最後に今後の社会的連帯経済が担う役割についてインターン個人の分析と見解を述べたいと思います。

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その前にごく簡単に今回の調査ブログ作成に至る経緯を紹介します。私はインターンとしてILOで勤務する中で初めて協同組合、社会的連帯経済というアイディアについて学ぶ機会を得ました。もちろんそれ以前にも地元の農協や大学の生協などで社会的連帯経済に触れてはいたものの、一般企業との差異に注意や関心を払うことはなかったのです。そうした中で社会的連帯経済について掘り下げた調査がしてみたいと考えたことがブログ執筆の背景です。併せて今年2020年はILOの協同組合ユニットが創設100周年を迎えることもあり、一度ここで社会的連帯経済について見直すことがこれからの「仕事の未来」についての議論を支えていく上で重要なのではないかと思います。

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社会的連帯経済(SSE: Social Solidarity Economy)

社会的連帯経済についてはILOの公式な定義はまだないものの、社会的経済とアフリカの国際危機への対応についてのILO地域会議で提起された暫定的なものが存在します。ILO(2019)[1] によれば「財やサービス、知識の生産を通して経済的な目標と社会的な目標の双方を追及しながら連帯を強める企業体や組織のことで、特に協同組合[2]や共済組合、協会、財団、社会的企業[3]を含む概念のことです。

 

社会的連帯経済という言葉は比較的歴史の浅い言葉です。もしかしたら「社会的経済」、「連帯経済」という言葉のほうが聞き覚えのある方は多いのではないでしょうか。もともと別々に発展していた「社会的経済」と「連帯経済」が一緒になったものが「社会的連帯経済」です。そのきっかけはSDGs作成の一環として2013年にSSEについての国連の機関横断タスクフォース(UNTFSSE:United Nations Inter-Agency Task Force on Social and Solidarity Economy)が組織されたことです。これによって政策の場において「社会的連帯経済」が注目されるようになりました(Mendell & Alain, 2015; Utting, 2015)。

 

UNTFSSE[4]によると、SSEは明確な社会的目標(環境的目標をしばしば含む)を持ち、協力・連帯・倫理・民主的な自己管理といった主義とその実践に基づく様々な種類の組織・企業により提供される製品やサービスを指します。SSEには協同組合の他、社会的企業、自助団体、地域共同体に基づく組織、インフォーマル経済の労働者の連合、サービスを提供するNGO、連帯金融スキーム等が含まれます。

 

このように、SSEは政策論議の場から生まれた言葉であると解釈できます。しかし、SSEを政策の場において主要な議題として扱うにあたって注意すべきことがUNTFSSEのレポートに述べられています[5]。政策にSSEを取り入れるにあたっては二つの留意すべき段階が存在しており、第一段階を「手段化(instrumentalization)」第二段階を「制度的同形化(institutional isomorphism)」と呼びます。

 

-「手段化(instrumentalization):政策的・社会的イノベーションが優勢な政策レジームや発展経路に取り込まれたり、強力な組織・アクターが特定の目的に沿って政策を改変することを指す。

  • SSEはしばしば政府によって特定の政策目標を達成するために用いられることがある。

 

重要なのは、SSEの概念は開発の世界で通用しつつあるのに対し、SSEを支援する政策の性質は既存の政策レジームと開発戦略の影響を大いに受けるということです。また、異なる利益や価値観を持つアクター同士ではSSEという言葉を用いる方向が違うこともあります。

 

-「制度的同形化(institutional isomorphism):ある組織が関わりを有する制度・組織の特性である一定の特徴や慣行を引き受けることを指す。

  • 手段化がさらに進んだ段階ではSSEの性質が大きく変容し主流の制度・組織の特徴を引き受けるようになる。

 

こうしてSSEをあくまで既存の制度に協調させる形で政策に用いることが社会的・環境的目標を財政・経済的目標の下部に位置付けることにつながるのではないかという懸念が上がっています。

 

SSEをあくまで政策手段の一つとして捉えるのか、SSEを軸として政策を形成するかでSSEの在り方は変わっていくように思われます。

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[1] ILO(2019) “Financial Mechanisms for Innovative Social and Solidarity Economy Ecosystems” Samuel Barco Serrano, Riccrdo Bodini, Michael Roy, Gianluca Salvatori

https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_emp/---emp_ent/---coop/documents/publication/wcms_728367.pdf

[2] 協同組合とは、ILO協同組合の促進勧告(第193号)および国際協同組合同盟「協同組合のアイデンティティに関するICA声明」において、「共同で所有され民主的に運営される企業体を通じて共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に決同した人々の自発的な組織」と定義される。https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-recommendations/WCMS_238803/lang--ja/index.htm

[3] 社会的企業は、2015年内閣府委託「我が国における社会的企業の活動規模に関する調査」において、①ビジネスを通じた社会的課題の解決・改善に取り組んでいること②事業の主目的は利益の追求ではなく社会的課題の解決であること③利益は出資や株主への配当ではなく主として事業に再投資すること④利潤のうち出資者・株主に配当される割合が50%以下であること⑤事業収益の合計は収益全体の50%以上であること⑥事業収益のうち公的保険からの収益が50%以下であること⑦事業収益のうち行政からの委託事業割合が50%以下であることを満たす法人、と定義されている。この定義に基づく推計では、営利法人のうち26.4%が、一般社団法人のうち22.8%が、一般財団法人のうち24.5%が、公益社団法人のうち40.5%が、公益財団法人のうち18.8%が、その他非営利法人のうち25.0%が社会的企業に当たるとされている。https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/kigyou-chousa-houkoku.pdf

[4] UNTFSSE (2014) A Position Paper by the United Nations Inter-Agency Task Force on Social and Solidarity Economy (TFSSE) http://unsse.org/wp-content/uploads/2014/08/Position-Paper_TFSSE_Eng1.pdf

[5] UNTFSSE(2018) Knowledge hub working paper “Achieving the Sustainable Development Goals through Social and Solidarity Economy: Incremental versus Transformative Change ”

http://unsse.org/wp-content/uploads/2018/04/WorkingPaper1_PeterUtting.pdf

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次回は、SSEに関するILOの取り組みについて取り上げます!ぜひご覧ください!