ILO_Japan_Friends’s diary

ILO Japan Friends’ diary

国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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【働く女性のエンパワーメント】サプライチェーンにおけるジェンダー平等の取り組み

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前回の記事では、労働組合ジェンダー平等を実現する取り組みをご紹介しました。

今回は、サプライチェーンにおけるジェンダー平等の取り組みをご紹介します。

 

日本でのサプライチェーンにおけるサスティナビリティの取組み

経済産業省は、2021年7月12日、繊維産業についての人権侵害の回避や環境問題への対応強化の指針策定などの提言を盛り込んだサスティナビリティに関する報告書を公表しました*1

報告書は、繊維産業のサスティナビリティに係る現状と今後の取組を、「環境配慮」、「責任あるサプライチェーン管理」、「ジェンダー平等」、「供給構造」、「デジタル化の促進」の5つに分類しました。報告書では、「ジェンダー平等」について、⽣産⼯場に従事している⼥性割合は58.5%、アパレル・⼩売に従事している⼥性割合は72.6%となっており(全就業者における⼥性割合が44.5%)、繊維産業における⼥性就業者割合は全業種よりも⾼い反面、繊維関連企業の⼥性役員割合は4.3%であり(東証⼀部上場企業全体は6.0%)、全体平均よりも低いことが指摘されています。

その背景として、報告書では、「ロールモデルがいない、キャリアアップの仕組みが構築されてない、パタンナーやデザイナー等の専⾨職は⼥性で、経営者や商品開発から販売戦略までを⾏うマーチャンダイザーは男性がするべきといったアンコンシャス・バイアスの存在、⼥性に家事・育児・介護の負担が偏っている等があると考えられる。また、⼥性はマネジメントの経験が乏しく、昇進に対する不安があるとの指摘がある。」と記載されています。

報告書は、「世界的にジェンダー平等が求められている中、繊維産業においては、⼥性が働きやすい環境整備や⼥性のキャリア⽀援といった課題があり、官⺠で連携して取り組んでいくことが重要である。」と指摘しました。

ILOと産業界の連携によるサプライチェーンガイドラインの策定

報告書は、「企業がデュー・ディリジェンスを実施し、責任あるサプライチェーン管理を進めることにより、労働者の権利が保障され、⼗分な収⼊を⽣み出し、適切な社会的保護が与えられる⽣産的な仕事(ディーセント・ワーク)へとつながり得る。」としました。そして、「業界団体において、幅広い労働問題に取り組む国際労働機関(ILO)を始めとした国際機関とも連携しつつ、 企業がよりデュー・ディリジェンスに取り組みやすくするためのガイドライン策定などを促していくべきではないか」として、日本の繊維産業とILOとの連携が提案されました*2

報告書を受けて、繊維産業の横断的な団体である繊維産業連盟は、ILO駐日事務所と連携して、2022年までに企業がサプライチェーンデューデリジェンスに取り組む上でのガイドラインの策定を目指しています*3 

ILO駐日事務所は、電子情報技術産業協会JEITA)の「責任ある企業行動ガイドライン」(2020年3月発刊)の策定にあたっても技術協力を行っているところ、今後、繊維産業に限らず、産業界から支援要請があれば、その意向を十分確認した上で、協力していく考えが示されました。

ILO駐日事務所は、ILO多国籍企業宣言などを踏まえて、「人権デュー・ディリジェンスとステークホルダーエンゲージメントを相互補完的に実施することが、重要であり、サプライチェーン全体を通じたディーセント・ワークの促進にとって不可欠と認識しています。」としています。

ILO「サプライチェーン(供給網)における男女平等のための政策/ポリシー及び実際の活動」について

企業は、今後、女性活躍推進に向けてどのような取組みをすればよいのでしょうか。ILO(国際労働機関)などによる「G7諸国における責任ある企業行動を通じた働く女性の経済的エンパワーメントの促進」(2017年9月1日~2020年12月31日)プロジェクトが参考になります。このプロジェクトでは、女性はイノベーション(革新的取り組み)、成長、雇用のカギを握る推進要素であり、女性がより有意義に経済に参加できる環境形成において民間セクターが決定的に重要な役割を演じているとの理解のもと、女性が仕事の世界で直面しているジェンダー不平等の解消に関して、民間セクターの関与の促進を目標の一つとしています*4

今回は、サプライチェーンにおける男女平等の好事例集である「Policies and practices for gender equality in supply chains(サプライチェーン(供給網)における男女平等のための政策/ポリシー及び実際の活動)」で紹介された日本企業の取組みをご紹介致します。

セイコーエプソン株式会社の取組み

 好事例集によれば、セイコーエプソン株式会社(以下「エプソン社」といいます。)は、UNGC(国連グローバル・コンパクト)に署名し、SDGsに取り組んでおり、女性に対する暴力の排除(SDGs5.2)についての行動原則を制定し、行動原則には非人道的な取扱いや差別の防止の規定が含まれるとのことです。

また、エプソン社では、取引先のコンプライアンスリスクについて、ローリスク、ミドルリスク、ハイリスクの3つにランクで評価しており、ハイリスクの企業は、改善措置を取らなければならないと記載されています。2016年、直接または一次サプライヤーの8%がハイリスクとされましたが、2018年には5%までに減少したと記載されています。また、経営層、管理職を対象とするパワーハラスメント防止研修の実施に加えて、全社員を対象とするハラスメント基礎教育を行っていることが記載されています。パワーハラスメント防止研修への出席を要請されたすべての管理職は、2015年、関連する訓練研修を受講したほか、海外の管理職は2018年にオンライン研修に参加したと記載されています。さらに、2016年の初開催から4500人を超えるエプソン社の労働者がアンガーマネジメント研修を受講したことが記載されています。

サプライチェーンにおけるジェンダー平等の推進

 このように、サプライチェーンにおけるジェンダー平等の推進に先んじて取り組んでいた日本企業が存在します。好事例集で紹介されている日本企業はほんの一例であり、他にも素晴らしい取組みを行っている企業は少なくありません。また、好事例集には、素晴らしい取組みを行っている世界各国の企業が多数紹介されています。

 好事例集を参照していただき、あなたの会社のサプライチェーンでもジェンダー平等の推進を進めてみませんか?

*1:「繊維産業のサステナビリティに関する検討会 報告書」経済産業省・製造産業局⽣活製品課(2021年7月)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/textile_industry/20210712_report.html

*2:経済産業省、日本の繊維産業に関する政策提言においてILOとの連携を提案」(ILO駐日事務所、2021年7月14日) 2021/07/1https://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_814022/lang--ja/index.htm

*3:「繊維産業の「人権」調査指針 官民、ウイグル問題念頭に」(日本経済新聞 2021年7月11日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA099C30Z00C21A7000000/?unlock=1

*4:G7諸国における責任ある企業行動を通じた働く女性の経済的エンパワーメントの促進」https://www.ilo.org/tokyo/ilo-japan/partnerships-with-japan/WCMS_773304/lang--ja/index.htm (2021年7月6日)