ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第2回 労働者協同組合 玉木信博さん(2/2)

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前回は、玉木さんの現在のお仕事内容や労働者協同組合の日本初の法律でどのような変化があるのか、また、コロナ禍の今思っていることなどを伺いました。今回は、玉木さんがワーカーズコープで働き始めたきっかけや、2030年のビジョンに迫ります!

 

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ワーカーズとの出会い=社会に対する印象を共有できる人との出会い

  • ここからは玉木さんご自身のキャリアをお聞きしたいと思います。なぜ、ワーカーズコープで働こうと思われたのですか?

 

学生のときは農業をやりたくてしょうがなくて、有機農業をやっているような人たちのところを転々と回ったり、大学の時も農作業ばっかりやってたんです。大学を卒業して、河川の調査をしている環境保護団体で働いたり、子どもたちや養護学校の生徒に農業体験をしてもらう世田谷区の事業に関わったりしました。農業をしようと思って移住先を探している中で、東京で生まれ東京で育ったのに、「東京が嫌だから自然の中で生きていきたい」っていうのもどうなのかなと思ったこともあって、しばらく東京で地域に役立てるような仕事を探すことにしました。その時に、ちょうど地域のコミュニティセンターをワーカーズが委託を受けて運営しますという新聞求人が出ていて、話を聞きにいきました。

 

  • ワーカーズコープに入られる前から、協同組合についてはご存知でしたか?

 

私が子どもの頃から母が生活クラブ生協の組合員だったんです。共同購入といって、例えば豚肉の部位を皆で分けるっていうことをやっていました。そういうことを身近で母がやっていたので、協同組合は知っていたんですが、働く人の協同組合(ワーカーズコープ)は知りませんでしたね。説明会に行った後に、母に聞いたら、ワーカーズコレクティブと言って、生活クラブがワーカーズコープと同じような取組みをしていること教えてもらいました。今、法律の運動もワーカーズコレクティブとやっています。ただ、当時は働く前にお金を出資をするって考えられなかったですよね…だってお金がないから働くのに、なんでって(笑)でも、ワーカーズコープの説明会では、組織の歴史から現状から丁寧に説明は受けました。しかも、3回ぐらい面接受けて…びっくりしましたね。最後に「うちはこういう組織だけれども、いいですか?」って逆に問われたのも印象的でしたね。

 

  • 「ワーカーズコープにしよう!」と思った決め手は何でしたか?

 

面接してくださった人たちがみんな魅力的な人たちで、世間話とかも含めて面白かったんですよ。もちろん、組織のミッションとかも大事なんですけど、日常的に考えていることを共有してくれる仲間がいるってすごく大事だと思っていて。面接を受けたときに、キューバ有機農業に関心がある方がいて、「こんな風に都市が有機農業に変わっていったらいいね」っていう話もしたり。コミュニティセンターの仕事とは全然関係ないけれども。

 

  • 社会に対して思っていることに共感できる部分があったのだと思うのですが、ワーカーズコープに入った後はどうでしたか?

 

入った後もこの共感の部分は続いていますね。大変なこととか、個人的に苦しいこと、なかなか上手くいかないこととか、いっぱいありますけど、結局そういうところ(社会に対しての思い)でつながっていますね。ワーカーズコープは1つの業種じゃないので、事業も働く人たちの経歴も本当に多種多様なんです。有名な大学を出てキャリアを積んでいる人もいるし、高校に行かなかった人もいるしずっと不登校で30代ぐらいでやっと働けるようになったという方も。本当に色んな人がいるので、それが1番の魅力なんだと思います。

 

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ワーカーズは、衝突も含めて人と向き合う力を鍛えてくれる「民主主義の学校」

  • 国内や足元にも多様性があることは、見落とされがちですよね。多様性があるからこそ、何かを決めたり実行するのが難しい部分もあるのではないですか?

 

これは、個人的な感覚なんですけど、僕はそういうこと自体が面白さだと思っています。言っていることが通じない人たちも、もちろん時々います。ですけど、自分が全然出来ないことや考えもしないことを他の人は出来たりするじゃないですか。それはとっても大事かなと。それでも私が所長をしていて、どうしても折り合いがつかず離れていってしまう人たちもいましたし、最終的に分かり合えないっていうこともあります。でも、そういう対話をトレーニングしていかないといけないかなとは思ってるんですよね。僕らの世代とか、衝突したりするの嫌じゃないですか。嫌なんだけれど、衝突も含めて向き合う力をもう少しつけていかないと社会的な包摂って程遠いような気がするんですよね。

SNSとの付き合い方も考えなければいけないし、直接的な関わり合いの中で対話したり、ぶつかったり、議論したり、ということは日常の中でのすごいトレーニングが必要だと思っているんですよ。今僕が住んでいる中川村の前村長さんにワーカーズコープを知ってもらいたいと思い、ワーカーズコープの研究所にも関わってもらっているんですが、「ワーカーズコープは民主主義の学校かもしれない」と言ってくれたことがとても嬉しくて。いまの日本社会では民主主義ということに対して、選挙の時以外は、生活の中で直接触れることは多くはないんじゃないかなと。ワーカーズコープは、そんな日常の中で、自分自身の民主主義のトレーニングが出来るところだという印象を、僕自身も持っています。

 

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  • ワーカーズコープで民主主義のトレーニングをやってこられて、いかがですか?

 

いやぁ、疲れますよね(笑)みんなとよく言っているんですが、終わりがないんですよね。「こうしたら成功だ」というものがワーカーズの中ではなくって。離れてしまった人がまた戻ってきて「やっぱり一緒に働きたい」っていうこともあるし。労働者協同組合法成立は大きな目標なんですが、むしろ法律が始まってから「自分たちの今までやってきたことってなんだろうか」って考えたり、その中で見えてきたものを伝える仕事だったりが、また始まるんですよね。常に終わりのようで始まりのようで、別れがあって出会いがあってって感じなんですよ。だから、そのプロセス自体を楽しむというか、価値あるものとしてしっかり捉えないと。今やっていることとか、向き合っていること自体に価値があるって思った方がいいのかなと思います。そのような意味では、一次産業はぴったりなのかもしれないですよね。終わりがないですからね。林業で関わっている若い仲間と話しても、自分が切った木は80年前に植えられていたり、自分が植えた木がもしかしたら300年後に切られるかもしれないっていう感じなんですよね。そういう長期的なスパンでなかなか色々な事を見られない社会にあって、林業のようにしていった方が人も生きやすいのかもしれないなと思います。

 

2030年・・・地域の中でFEC(Food, Energy, Care)の自給圏づくりへ

  • 玉木さんが描く2030年のビジョンはどのようなものですか?

 

ワーカーズコープ連合会としては気候危機に対応するために、まさに今、コロナ後の社会の中長期的なプランを作っています。グリーン・エコノミー といわれる分野にワーカーズコープ自体が大きく前進していくことになるだろうなと。そうでなければ、社会の必要に応えられないんじゃないかと。グリーンニューディールといっても、大きくグローバルな形で進めていくというよりは、地域の中でFEC(Food、Energy、Care)の自給圏づくりを進めていくイメージです。これまでも、ずっとこの10年ぐらいそれは目指してきたんですけれど、コロナ以降はかなり重点を置くことになっていくだろうなと。そのための組織整備も重要になってくると思います。

 

  • 具体的に「こういう組織づくりができたらいいな」はありますか?

 

今までは、全国の本部が東京にあって、事業所ごとに経営の基準を設けて、事業所と本部で役割を決めて運営してきました。これからは、もっともっと事業所に判断を委ねていくということがこれから必要になってくるだろうなと思っています。今までは、大きな事業への投資だとか、資金繰りのこと、人のこと、労務の関係などは本部が結構やってきました。これからは事業所ベースで全国をネットワークでつないでいくような、ダイナミックな組織づくりができたらいいなと思います。

 

  • 玉木さんご自身のビジョンはありますか?

 

僕自身は、仲間と中川村で1つ法人をつくりました。ソーシャルファームというだれもが働ける場をつくりたくって10名程の仲間で立ち上げたんです。もともと薬用養命酒が中川村で生まれたっていうのもあって、今、地域の薬草の研究会をしています。昨年からは、薬草、薬木などを近隣の会社とか農家とか、信州大学の研究者とかと一緒に栽培研究を始めています。それを、地域の障害のある人たちが生産/加工/販売したりする仕事にならないかなって考えています。要は、地域にあるもので、社会に役立つものをどんどんつくっていって、持続可能な産業にしていくっていうのが一般社団法人ソーシャルファームなかがわの一つの大きな目標ですかね。

地域にあるものっていうと、空き家もそうなんですけどね。全国どの地域も空き家は15パーセント近くあって、高齢化と過疎化の中で、空き家の管理をしていく仕事も重要になるかなと思っています。空き家を貸すという決心がつくまで数年ぐらいかかると思ってて、その間に床が抜けて天井が落ちて倒壊するんですよね。家主の決心がつくまで、状態のいい空き家で残していくというのはこれから重要になると思います。若い世代も含めて、移住者でも状態のいい空き家を探している人が沢山います。なので、そういう地域の資源を地域の高齢者や障がい者が仕事として担っていく仕組みと関係性を3年ぐらいかけてつくっていきたいですね。

 

  • 地域の資源と地域の人々をつなげて、より持続可能な循環を地域の中でつくっていくということですよね?

 

そうですね。そもそも、僕自身は、ワーカーズコープというあり方が農山層にぴったりあうんじゃないかと思っているんです。自分たちでお金を出し合って、山や道の管理を今でもやっているので、みんなでお金を出し合って自分たちの地域の仕事を起こすことに違和感がないんです。都会だったら、色々なところに住んでいる人たちがこの指止まれで人が集まるけれど、村であれば、ここの地域にはこういう野菜や薬草があるんだけど、みんなでこれを残していかないかっていう話になれば、関心の度合いというよりは住んでいる地域自体での協同組合活動っていうのが可能かと思うんです。

 

何もかも個人でやらなくて良い・・・色々な共同体に関わる中の一選択肢としての協同組合

  • 若い人たちに協同組合を広げるにはどうしたらいいでしょうか?

 

わたしの年代も含めて若い人たちは色々な活動も個人ベースで進んでいて、それがすごくもったいないと思う。人と何かをやるってことが辛いとか面倒臭いっていうことはあると思うんですよ。でも、本当は、何もかも個人でやらなくていいんですよね。家直して貰うんだったら例えば友達の大工とかにやってもらうし。協同組合を1つつくって、家そのもの自体を共有する、借りたいという人がいたら斡旋するという形でもいいと思いますし。もっと協同組合的に、1人が1つのワーカーズで働くっていうことだけではなく、自分の仕事も持ちながらもワーカーズコープを作ったりとか、地元で生協を作ったりとか、そういう風に色んなチャンネルを自分で持ちながら暮らしていくっていうことは1つの選択肢としてあるのかなと。

田舎に引っ越してきて思ったことなんですけど、特に今の80代ぐらいの人たちって、仕事を複数掛け持ちしていた方が多い。転職もすごいし。1つの仕事が、色んな社会の流れの中でブームが終わったりすると、別の仕事に就いたりすることも一般的に行われてきています。僕は東京で生まれ、東京育ちなので分からないけれど、もっと1人が色んな仕事とか役割とか、転職をすることはもう少し抵抗なくあってもいいのかなと思います。1つの会社に勤められたからこそ安定してきた人もいるし、それしか出来ない人もいるので、コロナ後の社会では、社会の根底で支えられるような社会保障の変化は必要だと思うけれど、もうちょっと生き方は自由であっても良いっていう社会の風潮になったらいいですよね。

 

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  • 最後に、協同組合を一言で表すと?

 

この機会に初めて考えましたが、「人間らしい組織」って言うことだと思います。株式会社にも良い企業もたくさんあると思いますが、やはり仕組みとしては資本が中心にあると思います。人間を中心に考えている組織は協同組合かなと思います。人間らしく働いたり、人間らしく生きるってことを大事にする組織のあり方。

人間らしさも時代と共に色んな変化があって、終わりが無いというか、ずっと考え続けるものだと思います。協同組合が出来た100年前の人間らしさと今とでは、良くなっている部分もあるだろうし、失った部分もあるだろうし。そういう意味ではこれから、またその人間らしさは変化するけれど、協同組合に関わっている人たちはずっと考え続けるんでしょうね。

1回決めて、進むんですけど、間違えたら見直すってぐらいが人間らしいかなと。一生懸命前に進むことも良いなと思うんですけど、途中で間違えるじゃないですか。その間違いを間違いとして認めてまた方向転換をしようというのが、協同組合であり、人間らしい組織だと思います。

 

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  • お忙しい中、ありがとうございました!

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こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページにも掲載されています。