ILO_Japan_Friends’s diary

ILO Japan Friends’ diary

国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第3回 全国農業協同組合中央会(JA全中) 高塚 明宏さん(2/2)

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前回は、高塚さんの現在のお仕事内容やJA全中での法制度整備について、また、緊急事態に対するJAの組織的な対応について伺いました。今回は、高塚さんがJA全中で働き始めた理由や、農業に対する思いに迫ります!

 

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農家が報われる仕組みづくりを目指し、JA全中

  • マイナビにて、JA全中にて働くきっかけを拝読しました。農業に自らが従事するという選択肢もあった中で、なぜJA全中を選ばれたのでしょうか。

理由は2つあります。

1つ目は、農業者を取り巻く仕組みを考えていきたいという思いです。そのため、法律とか制度に携わりたいと考えました。農林水産省も考えましたが、全中は少人数(200人弱)で幅広い業務に携われ、個人の裁量が大きいことが、決め手の1つになりました。

2つ目は、就職した後に農業に転職するハードルの高さです。農業者をしてからJA全中等の組織に転職するのは難しいですが、その逆は比較的ハードルが低いのではと。

JAグループを悪く言う声やもよく聞きましたが、本当にそのような組織だったらやめればいい、なくせばいいかなと思い入会しました。結果的に、今も継続して仕事を続けています(笑)。

  • JA全中に入られてからのギャップはありましたか?

入会前後のずれはあまり無かったです。少人数なので裁量が大きい、またざっくばらんな組織であるとは聞いていたのですが、その通りでした。逆に、若いうちから色々任されるので、なかなか大変なこともありました。例えば、都市農業の法制度に携わった際は、当時6~7年目くらいでしたが、かなり任されていましたので、一人で農水省国交省と交渉することもありました。自分がしっかりしないと方向性に影響を及ぼすため、現場の人とうまくつながりながら、組織的な発言をするよう常に心がけていました。

  • ご自身のやりたいことは実現・実行できていますか?

祖父母が汗水たらして農業に従事する姿を小さいころから見聞きしてきた中で、「真面目に取組む農業者が報われる農業でなければならない」という思いが原点にあります。農業者が報いられるというと、適切な対価を得るという点が重要ですが、最近の日本の農業政策の傾向としては、経済効率の重視の側面が強い政策が打たれてきました。そのため、大規模化・効率化が優先して進められてきました。それを否定するわけではないのですが、効率性だけで言うと諸外国のマーケットには勝てないので、日本で農産物を作ること、日本の農業の価値を国民に理解いただくことが大切と思っています。

今の日本は、都市部に概ね7割の人が住んでおり、特に昔と違って都市生まれ都市育ちの方が増えていますので、農業に関する原体験は大事だと思っています。その意味で、都市農業の農業産出額は全体の1割もいかないくらいですが、都市部で農業を見て、触れて、体験する機会をより増やすことで、日本の農業理解を進めることができるのではないかと思っています。

私は島根出身で幼少期から農業を身近に見てきましたが、今の日本は、都市部に概ね7割の人が住んでおり、特に昔と違って都市生まれ都市育ちの方が増えていますので、農業に関する原体験は大事だと思っています。担当したばかりの頃は、都市農業は必要なのかなと思ったのですが、色々な方の話を聞いていくうちに、大切さに気づき、今は思いを持って取り組んでいます。

  • 私は都市生まれ都市育ちですが、中学校3年の時に自然体験教室で北海道の農家に1週間ホームステイし、農作物に対する考え方がとても変わった記憶があります。体験のインパクトの大きさを身をもって経験しました。

その通りで、現場を経験すると、見え方が変わってきますよね。いくらインターネットで動画等を作ったところで、原体験がない人には中々響かないです。原体験があれば、関心を持って農作物を見てもらえるのではないかと思っています。最近、都市部では、何をどう作るかを農業者が教えてくれる、農業体験農園と言われる取り組みもやっています。「百見は一体験にしかず」と考えていますので、体験の機会を増やすことが農業の応援団を増やすことになり、結果的に農業者が報われる1つのベースになると思っています。

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都市農業が農業の応援団づくり”の要(かなめ)

  • 今までのご経験も踏まえ、都市農業にどのような可能性を感じていますか?

私は、都市農業が農業理解の最前線になりうると思っています。あまり知られていませんが、東京でも大根や小松菜、ウド、意外なところではパッションフルーツ等の農作物や牧場もあり、様々な農業を見ることが出来ます。高齢の農業者は、自分の農地に人が入ることを敬遠する方も多かったですが、今まで以上に、周囲の住民の理解が必要と思う農業者の方も増えているため、都市農業に触れる機会をもっと作っていけるのではないかと。農業の応援団を作っていく上ではこのような取り組みが重要な役割を果たしていると思います。

地域ごとに濃淡があるので、もっと広げていきたいです。その取り組みの一環として、順天堂大学の医学部と連携して調査を行い、体験農園で作業することが一定のストレス軽減、幸福度の増加に寄与することを明らかにしました。農業に興味がない人たちにも農業理解を広げていくために、従業員の健康経営という切り口も含めて発信しています。また、関心を持った方々がアクセスできる方法を増やしていくことも、今後取り組んでいきたいです。農業生産でいえば、田舎の土地で生産量を増やせばいいのかもしれませんが、都市部だからこそできる取り組みはたくさんあると思っています。 

  • 都市農業の教育的な意義を考えると、学校や養護施設との連携の可能性も感じました。

実際に、農福連携は最近増えています。私が住む練馬区でも、昨年ある農業者がアスパラの収穫と選別を養護施設等に行ってもらう取り組みをはじめました。

学校や養護施設は都市部に多くありますので、都市農業にはまだまだ農福連携を増やす可能性があります。農作業は、障がい者の心身状況の改善にも寄与する取り組みですので、その点も都市農業の価値であり可能性と感じます。

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これからのテーマは、脱内製化と外部連携

  • 今後、日本の農業や地域社会にJAグループがより貢献できるとしたら、どのような点だと思われますか?

農協の特徴は、地域の農業の未来を真面目に語れる組織であるという点だと思っています。素晴らしい農業生産法人も多くありますが、どうしても自分やそのグループの経営を中心に考える必要があります。一方、農協の構成員は地域の農業者でもあるので、地域農業をどうしていくのかを、自治体等とも連携し、全体最適を考えながら描いていくことができます。 

昔は農作物をすべて農協に出荷して市場に出すことが最も有利販売につながるため、そうすべきだとの考え方が強く、自分で売りたい農家の方と対立することもありました。高齢の農家(農協へ)vs若手の農家(自分で)という対立軸もよくみられたようです。

現在は積極的なコミュニケーションとすり合わせがすすみ、多様な関わり方が許容され、農協の事業方式も変わりつつあります。引き続きコミュニケーションをすすめ、多様な主体が連携することで、よりよい方向に地域農業が進んでいけるのではないかと思います。 

  • 上記を進める上で、J Aグループが変わるべき点はありますか?

以前は、JAグループ内で全てを解決しようとする傾向(内製化)が強かったかと思います。名の知れた大企業をはじめ様々な株式会社が農業参入する中、地域から逃れられない農協等の農業界は、経済合理性を優先した事業展開を行う株式会社等の取組み姿勢に疑念やアレルギーがあったのではないかと思います。しかし、技術進歩が激しい中、内製化のみの対応では難しくなり、外との連携も進んでいます。例えば、最近ではJAグループ全国連が連携して「アグベンチャーラボ」を立ち上げ、様々なスタートアップと連携し、その活動を後押しする取り組みもすすめています。

  • 若者世代にJAをより身近に感じてもらうためには、どのような変化や取り組みが必要だと思われますか。

生活に根付いている組織なので、なかなか存在に気付かないことはあると思います。あるいは身近な組織だからこそ不満が出ることもあります。

最近ですと、SNSの活用に加え、ECサイトを開設したり、クラウドファンディグを実施したりと様々な取組みがありますが、デジタル上の接点をどう意識的に作っていくかについては、農業体験や都市農業のリアルな体験を絡める必要があると思っています。その意味で、内製化した情報発信ですと、なかなか絡めていけません。

先ほども言及した、農作業によるストレス軽減に関する調査は、マイナビにも取り上げていただき、外の組織も巻き込んでうまく進めて行けたので、このような取り組みを通して、農協がやっていることを少しずつ理解していただければと思います。

とはいえ、JAグループの一員である全農のSNSが、鶏モモステーキやラッシーの作り方などの投稿が人気で、最近バズっています。食はすべての人の関心対象なので、そこに絡めた発信が大切だと思います。

  • 2030年までのビジョンはありますか?あれば、どのようなものか教えてください。

JAグループとして統一的なビジョンはなく、地域ごとのビジョンを描いていただいています。JAの理念はJA綱領として、大切にしています。

個人でいうと、近江商人は「三方よし」とよく言いますが、自分としても業務をしっかりやりたいので、個人、職場、農家及びJA、家庭という「四方よし」を掲げて取り組んでいきたいです。 

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  • 最後に、協同組合を一言で表すと?

良くも悪くも「人の組織」だと考えます。全中は、一部報道でJAグループのピラミッドの点にあると描かれましたが、実態は異なります。もしそうであれば、どんなに仕事が楽か(笑)。地形も天候も文化も多様な日本各地の関係者の理解を得て業務に取り組む必要がありますので、合意形成が複雑で時間がかかります。各農協も同様で、管内には様々な考えを持つ人がいますし、品目や地域ごとに利害も異なります。

この合意形成に必要な要素として、以下の3つがあると私は考えています。

①理:論理、ロジック
②情:思いやり、人間関係
③意:意志や想い、信念

株式会社は少数の大株主で合意形成ができますので、「理」が大きく影響しますが、農協を含む協同組合は一人一票ですので、合意形成を図るうえで「情」や「意」の部分の重みが強いと感じています。変えていくことはとても大変ですし、時間がかかりますが、時間をかけてしっかりやっていくことが大切だと思います。

また、変化が早すぎることはリスクを孕んでいますので、一定の人がきちんと合意して変わっていくという協同組合の特性は、社会の多様性の一翼を担い、持続性を高めている側面があると感じます。今回のコロナ禍でも、海外からの輸入に大きな影響がでて、日本での農業生産や食料の安全保障への関心が高まり、経済合理性に傾いていた農業政策にも変化の兆しが見られだしました。

また合意形成に時間がかかるからこそ、決まったことは地に足をつけてすすめていくことができるのではないでしょうか。

 

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  • お忙しい中、ありがとうございました! 

 

こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページ にも掲載されています。