ILO_Japan_Friends’s diary

ILO Japan Friends’ diary

国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ILO COOP 100 インタビュー企画「耕す、コープを。」:第3回 全国農業協同組合中央会(JA全中) 高塚 明宏さん(1/2)

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本企画の背景

2020年3月23日、ILO協同組合ユニットは創立100周年を迎えました。国や企業のサービスの届かない地域にも、必要なインフラやサービスを提供してきた歴史が協同組合にはあり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献してきました。世界中が新型コロナウィルス感染拡大の危機に直面し、人々の連帯がこれまで以上に必要とされる今、協同組合に注目が集まっています。

この機会に、若者世代の協同組合のイメージ(「古い」「縁遠い」)をより身近なもの/魅力的なものとするべく、日本の協同組合の活動を振り返ります。これからの時代の仕事/生活/消費/生産において、また今回のパンデミックをはじめ危機的状況において、協同組合はどのような役割を果たし、より良い未来を創っていけるのか。各協同組合で活躍される方々へのインタビューを通じて、協同組合の強みや可能性を、若者代表のILO駐日事務所インターンと一緒に耕して(探って)みたいと思います。

第2回は、労働者協同組合(ワーカーズコープ)の玉木信博さんへインタビューしました。

labourstandard1919.hatenablog.com

第3回は全国農業協同組合中央会JA全中)で活躍されている高塚 明宏さんにお話を伺います。こちらのインタビュー(短縮版)はILO駐日事務所のウェブページ にも掲載されています。

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インタビュー実施日:2020年7月28日

聞き手      :ILOインターン 藤田真理

グラフィック   :中尾有里

記録       :ILOインターン 乗上美沙

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農業協同組合」=農業を中心に“ゆりかご”から“墓場”まで

  • 農協が関わっている分野や携わっている業務を教えてください。

JAは、相互扶助の精神のもとに農業者の営農と生活を守り高め、よりよい社会を築くことを目的に組織された協同組合です。この目的のために、JAは営農や生活に関する事業、例えば生産資材・生活資材の共同購入農畜産物の共同販売、貯金の受け入れ、農業生産資金や生活資金の貸し付け、農業生産や生活に必要な共同利用施設の設置、あるいは万一の場合に備える共済等の事業や活動を行っています。その他、出版業や旅行業、介護・医療事業、ガソリンスタンドやスーパー、直売所の運営等にも携わっています。

これらのサービスは正組合員(農家)の利用が前提ですが、正組合員の家族や准組合員(地域に住んでいる方々)も使える仕組みがあります。ただ、組合員の利用が前提なので、利用の割合は規制していたりします。

  • かなり幅広い業務分野なのですね…!それでも、農業振興が中心と考えて良いのでしょうか?

はい、農業が中心ですし、農協法でも農業振興に力を入れるべきと5年前に改正されました。

ただ、私が担当する都市部では、少し位置づけが異なりました。元々、都市部というのは、農業を振興するエリアではないという政策的位置づけがなされていました。高度経済成長期につくられた都市計画法では、下水道などのインフラをまとめて効率的な街づくりを行うための線引きを行うもので、この区画に入った農地については、概ね10年以内に宅地にしていくと規定されました。また、バブル期には、地価が上がる中、都市部にいる農家が土地を抱えていることを批判された歴史もありました。ただ、社会が変化・成熟する中で、農業や農地への評価が高まり、2015年の都市農業振興基本法では、まちづくりと農業振興の観点から、農地の保全と有効活用が謳われ、都市農地の貸借円滑化法や生産緑地法改正によって施策が具体化されました。仕組みが複雑なため、普及にも力を入れています。 

 

法律と現場をつなぐ橋渡し役”から人材育成へ

  • 以前担当されていた、都市農業振興基本法/生産緑地法改正/都市農地の貸借円滑化法の業務は、具体的にはどのような内容だったのでしょうか。 

関係省庁と農業者の方々の間に入って調整をする、中間管理職のような立場と言ったら分かりやすいかもしれません。条文を作るのは省庁ですが、法律の目的や目指すべき方向性のほか、現場で求められている仕組みなどについて、現場の声を届ける役割を担いました

特に、都市農業政策は、まちづくりの政策と関係があるため、国交省が関わります。ただ、農水省とは違って、農家の方に情報を聞くパイプがほとんどないため、実際に現場を見てもらったり、そこで農家の声を聞いてもらったりすることを集中的に実施しました。結果的に、現場の意見をしっかりと踏まえた法律を整理していただき、現場から喜ばれました。

  • 全国の農業従事者の方々の声を、出来るだけ不平等の無いように取り入れることは難しいことだと思います。どんなことを心がけながらお仕事をされていたのでしょうか?

県ごとに意見が違うこともあるので、全中としてどのような意見をいうかは、なかなか難しいところがありました。関係者の納得感の情勢には、意見の積み上げのプロセスの透明性はもちろんですが、一方で、担当者同士の信頼関係も重要です。お互い組織ですけれども、担当している人間同士がやっているわけですから、「こいつがそう言うのであれば、そういうものか」と納得してもらうですとか。お互いによくコミュニケーションをとって信頼関係を築きながらやらせてもらいました。

また、現場の意見をストレートに主張すればよい時もありますが、そうでない時もあります。時には、法制上の考え方を踏まえて意見を言うことの重要性について、各都道府県中央会やJA、農業者の方々に伝えることを意識していました。

  • 現在のお仕事である、JA営農指導員の人材育成はどのような業務なのでしょうか?

JAの営農指導員は、資格体系として試験制度を導入しているので、営農指導員に必要な基礎知識を整理して、法改正などに伴う教科書/テキストの改訂を執筆者に依頼をしたり、時世をふまえた各種研修会の企画・開催などを行っています。ただ、各都道府県で様々な地域がありますので、必ずしも全国共通という訳ではありません。例えば、営農指導員の試験についても39都道府県は同じテキストと試験を使っていますが、残りの県は自治体と組むなどして独自でやっています。

その他にも、各地にある素晴らしい取組事例を全国各地に共有したり、研修・指導の一環として、全国8ブロックの代表が営農振興の取組みを競う、いわば「M1グランプリ」の営農指導員版とも言える発表大会も企画・運営しています。また、営農指導をする上で農協がとるべき人材育成の考え方や人事ローテーションの考え方を整理して、各都道府県中央会に示したりしています。

東京オリンピックでは、適切に安全に生産されていることを証明する取組である「GAP(ギャップ)」[1]に認められた野菜しか使いませんという決まりがあります。輸出をしていく上でもGAPがあると国際的に安心・安全が担保されるため、GAP取得を進めていく取り組みも実施しており、そのため、全中から専門家を派遣して指導をしています。

業務範囲も広く、関係者が多いため、全国にどんな方がいて、どんな業務や分野に知見をお持ちなのかを知っておくことも、いい業務をしていく上で大事な要素ですね。 

 

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現場から”届くもの、”現場へ”届けるものを大切に

  • 現在、特に高塚さまが注力されているお仕事はどのようなことでしょうか。

現場の営農指導員の業務は、GAPやHACCP(ハサップ)[2]など新たな仕組みへの対応、補助金の申請業務の支援など、従来の業務に加え様々な業務に追われ、現場の営農指導員の負担が非常に増えていると考えています。現場の指導員もスーパーマンばかりではないため、多様な業務に追われる中で、本当に大事な取り組みに手がついていないのではないかという問題意識があります。この状況を改善していくために、全国の立場からどういった支援ができるのか、例えばICTを有効活用した業務の効率化なども含め、頭を捻っているのが現状です。

また、実は、都市農業振興の取り組みも併せて担当しています。生産緑地法の区切りが2022年に迫っていまして、「規制を受けた上で農業を続ける」のか、「農業をやめる」のかを選ぶタイミングになっています。そこに向けて一人でも多くの方に農業継続を選んでもらうためのJAグループの取組みのすすめ方を示していくというのも、もう1つ大事な業務としてやっています。関係する全自治体・JAにアンケートを配布中しており、このアンケート結果を踏まえて、今後の課題や取組みの方針をこの秋くらいに示していければと思っています。都市部の1万ヘクタールが農地として残るか否かが決まるので、高齢の農家の方も自分では出来なくても、都市農地の貸借円滑化法を使って周囲のやる気のある方に任せられるということを周知するなど、様々な法律を含む継続のための支援が揃っているので、それらを現場の方にパンフレットや農協職員向けのFAQ作成を通して情報提供をしています。

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  • 基盤(政策)をつくるところから、それを拡散・浸透させる活動すべて担っているのですね。 

そうですね。これまで全中は政策をつくる方に力を入れていて、現場に浸透させることは各県中や各J Aに任せる部分が多かったのですが、現場で使われないと意味がないので、最近は現場への拡散や浸透にも全中としてより力を入れています。また、農業関係の自治体の職員数の減少は顕著で、その中で様々な業務を自治体の方もやってらっしゃるので、現場の意見を取り入れて作り上げた政策も流れに任せていると現場に届かない場合もあるという点を意識して取り組んでいます。

  • 常に幅広い業務を担当されている印象ですが、仕事のやりがいは、どういう時/ことに感じられますか。

取り組んでいた都市農業の法律に、現場の意見が取り入れられ、使いやすい仕組みになったことは嬉しかったです。また、実際に現場で農業者が新たな法律を使っていることを知り、農地が残った、新たな農業経営ができたなどの喜びの声と聞くと、とても嬉しいです。

  • 現場の声がやりがいにつながっているのですね。現場との接点は現在の業務でもありますか?

こちらが主催する研究会に来ていただくこともありますし、業務によっては現場を訪問して話を聞くこともあります。自分でも意識的に現場にいくようにしていますし、機会は少なくはありません。全中の業務は、県中央会の意見を聞くことが基本ですが、どのような組織でも組織を通すと一定のバイアスがかかるので、県中央会とともにJAや農業者から直接意見を聞くことや、実際に現場に行き、自分の五感で感じることも重要だと考えています。

 

組織的で、現場に負担をかけない震災支援体制

J Aグループの緊急時対応の特徴としては、組織的に現場のニーズを整理し、県中央会や全中に情報集約しているところです。混乱時に無秩序に人・モノなどを送っても、むしろ現場の負担になることがあります。情報を整理・統合して物的な支援(飲料水や食べ物、毛布など)と人的な支援(ボランティア隊)のニーズを把握することで、適切に資源を配分することができます。例えば、直近ですと、令和2年7月の九州豪雨では、泥が入ってしまうなどしたハウスや農産物の集荷場等の復旧のため、人やスコップ等を送り込むなどの支援を行いました。

私自身が関わった例だと、台風19号の支援があります。房総半島ではハウスの8割近くが潰れるという大きな被害がありましたが、その際も、その地域のJAから話を聞き、ボランティアのグループやリーダー、取り組み内容などを整理して訪問をしました。また、現場に負担をかけない取り組みも心がけました。例えば、農家ごとに班をつくり訪問する際のバスや宿泊施設の手配は、グループの農協観光に支援をしてもらいました。

  • 組織的な対応が特徴ということですが、その中でJA全中の役割はどのようなものですか?

全中は情報の集約など、ある種「司令塔」の役割を担っています。ボランティアのグループ編成や宿泊施設や移動手段の手配を振ったり、各県中ごとに支援したいというニーズが上がってきた際は、その情報を元に他の県中と繋いだりしています。個別に各県中同士でやると被害県中は多くの県中とやり取りが必要で大変ですが、全中が間に入って整理することで、被害県中の負担を軽くして支援をできているのだと思います。東日本大震災の場合は、福島県中央会等と連携して、個別の県だけでは対応が難しい東電の補償交渉の窓口を行っており、この取組みは実は今でも続いています。

  • そのような組織的な対応体制は、どのようにつくられてきたのですか?

阪神淡路大震災東日本大震災を経てより効率的な体制をつくっていったのではないかと思います。また、元々、協同組合のため、助け合いの精神が根付いているというのはあるかと思います。令和2年7月豪雨でも、2016年の熊本地震で支援を受けた農業者が、今回被害の大きかった地域の農業者を支援することに積極的に取り組まれていると聞いています。

 

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コロナ禍、正確な情報伝達と労働力マッチング

  • 今回の新型コロナウイルス危機では、既存の幅広いネットワークを活かした支援や連携が評価されていますが、具体的にはどのような連携がなされているのでしょうか?

農産物の物流に関し、仮に農産物の集出荷場の職員や農業者の感染が確認された際は、農産物を出荷しないほうが良いのでは、という議論が現場から提起された事がありましたが、農水省とも連携し、食品からの感染は認められていないという情報を確認の上各県中央会・JAと共有して、過剰な対応を控えるように伝えるなどして、緊急事態でも農産物の安定的な供給を維持しました。

また、技能実習生が来日出来なくなったことによる労働力不足を解決するために、労働力マッチングを支援しました。例えば、群馬の嬬恋村の高原レタスの生産には、技能実習生の方々の力もかなり大きいのですが、近隣の旅館業や飲食業とのマッチングを支援しました。今回難しかったのは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、県をまたいだ支援ができなかった点です。今回は、技能実習生に頼っていてこの時期に人手が必要な地域は限られていたものの、東京から人を送るということが出来ない訳です。地域内でどのような支援ができるかという取り組みに注力しました。

  • 今後の取り組みとしては、どのようなことが重要になってきますか?

インバウンドや輸出への影響から、高級食材を中心に販売促進が課題になっています。クラウドファンディングや通販の送料支援などを行っている農協もありますが、これらを継続的にやっていくことが大事かなと。一方で、ウィズコロナ、アフターコロナの消費行動の変化に伴い、支援方法もどこまで合わせていけるのか、今まで以上に試行錯誤する必要が出てくると思っています。

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“動かない土地“と共にあるからこその、持続可能性への取り組み

  • SDGsなどの社会課題とされている事柄の中でも、最も気になっている/働きかけていきたい分野はありますか。

JAグループとしての取り組みの全国方針は今年の5月に整理しました。農協の取り組みはどれもSDGsのどれかしらには当てはまるため、SDGsに向けて新たな取り組みを行うというよりは、これまでJAグループがやってきたことをSDGsに合わせて再整理し、取り組むことが重要かなと。農協としては、持続可能な食料の生産と農業の振興に取り組むことが掲げられていますが、これをSDGsに置き換えると飢餓の問題や耕作放棄地を最小限にすること、土壌劣化等を防ぐ肥料の適正使用などが当てはまるかなと思います。農業の多面的な機能を生かしていく活動も、住み続けるまちづくりや気候変動対策などにつながっていきます。

JAは、地域に住んでいる農業者の組織ですので、その地域から逃げられないという特質があります。生産には土地が必要ですし、土地は動かないもの、まさに「不動産」ですので、地域のものを使い潰して、別の土地に移りましょうとは出来ない訳です。そのため、元々、持続可能性への関心も高く、既存の取り組みがそのままSDGsにつながっている要素が強い組織と理解しています。

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次回 は、JA全中で働き始めた理由や都市農業の可能性、JAグループのこれからについて聞いていきます!お楽しみに! 

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[1] GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことです。(出典:農林水産省H P https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/g_summary/

[2] HACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。この手法は 国連の国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格 (コーデックス) 委員会から発表され,各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。(出典:厚生労働省H P https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html