ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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【まとめシリーズ vol.3】コロナ禍に聞く若者の働き方 :コロナ以前から続く問題意識の「見える化」(働き方&ハラスメント))

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 これまでのまとめシリーズはこちら↓ 

Vol.1

Vol.2

第4章 コロナ以前から続く問題意識の「見える化

これまで、新型コロナウイルスILOインターン経験者を含む若者に与えている影響を見てきました。しかし、座談会参加者が今後のキャリアについての悩みや障壁を語る際には、パンデミック以前から続いている問題について言及する場面が多く見受けられました。ILOの報告書ではコロナパンデミック以前からも、若者は厳しい労働市場に直面していたとの指摘があります*1。そこで、第4章では座談会参加者のエピソードの中に示唆されている、コロナ以前から若者のキャリアに影響を及ぼしている要素を取り上げます。それらの要素に対する座談会参加者の抱く問題意識がどのようなものなのか、データを使いながら、課題を整理していきます。また、各テーマごとに、コロナ禍を経て今後どのような取り組みが出来るのか、私たちなりに考えたアイデアも提示します。

 

働き方

東京一極集中

座談会参加者のうち、実家や出身が関西と九州である2名からは、東京にキャリアの機会が集中しているという声が上がりました。Sさんは、大学院進学時に東京に引越し、インターンセミナーへのアクセス格差が関西/東京間にはあると実感したそうです。また、福岡に実家があるJさんは、仕事や機会が東京に集中しているため、東京で就職をすることにしたけれども、両親や自分の性格を考えると本当は実家の近くで働きたいと話していました。このような参加者の声は、東京一極集中が若い世代のキャリア構築にどのような影響を与えるのかを示す一例と言えます。

東京一極集中とは、東京都または1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に人口や政治・経済などの機能が集中する現象を指します。国立社会保障・人口問題研究所によると、2015年時点で総人口の28.4%が1都3県に集中しており、今後もこの割合は増加すると予測されています*2。また、2045年までの都道府県別人口推移は、他の46道府県は人口減少が予想される中、東京だけは2015年水準の人口が維持される(100.7%)とされています*3。2010年時点の人口を元にした推計では、2040年に東京都も93.5%に減少するとの結果*4が出ていたことから、2010~2015年の5年間で東京への人口集中が加速したことが分かります。

東京への人口集中の原因の1つとして挙げられるのは、若い世代の流入です。総務省統計局によると、2019年、東京圏の転入超過数は20~24歳が最も多く(7万9964人)、次いで25~29歳 (2万8084人)、15~19歳(2万4485人)となっています*5。まさに、座談会参加者と同様に大学/大学院進学、就職のタイミングで東京に引越しをする若者世代が多いことを示しています。

このような若者世代の動きは、大学や企業が東京に集中していることと関係しています。全国の大学に在籍する学生の4分の1は東京都で学んでおり、1都3県では4割を超えます*6。また、上場企業の本社所在地では、東京都が1823社で全国の半分強のシェアを占めており、上場企業本社数の全国に対する構成比については、2004~2015年の間に、首都圏が5%以上増加しています(逆に近畿圏は5%以上減少)*7。このことから、若者の東京流入は大学進学や就職の選択肢の多さと関係していることが想像できます。

このように、東京には若者世代にとって魅力的な学業と就職の選択肢、そして人との出会いが集中しており、地方と首都圏の差は今後も広がる傾向が続くことが予想されています。ただ、今回の新型コロナ感染拡大により、セミナーやインターン、授業のオンライン化が進んだり、いくつかの大企業はテレワークを新しい勤務形態として取り入れたりする動きが見られます。これらの動きを一時的な処置としてのみ捉えるのではなく、コロナ禍で”実験”できた新しい学び/教え方や働き方の良い点・悪い点を整理しながら、コロナ以前から存在していた問題の解決にどう活かしていけるのかを考えることが重要です。

東京一極集中による問題は、首都圏と地方の機会の差以外にも、首都圏の満員電車や待機児童問題、高い生活費による家計の圧迫などが挙げられます。現段階では、テレワークによって場所に縛られない個人の働き方が注目されていますが、今後はオフィス移転や地方オフィスの機能拡大なども含め、より組織的に人/雇用の分散をどのように実現できるのか検討していくことが必要でしょう。個人の学ぶ/働く/暮らす場所の選択肢が広がることで、自らが望む暮らしを実現しやすくなることをポジティブに捉える若者が多いため、このような議論は今後も活発になっていくことが期待されます。

 

長時間労働

キャリア構築の障壁について座談会参加者に聞いたところ、日本の長時間労働が課題として挙げられました。Sさんは、仕事に労働者が拘束されすぎており、労働者のキャリアチェンジや学ぶ機会を得にくいと感じており、労働者個人と社会全体の双方にとって良くないのではないかと意見を述べていました。

長時間労働の問題は以前より議論され、取り組まれてきました。労働政策研究・研修機構(JILPT)によると、2018年、週49時間以上の就業者の割合は19%と、2000年の28.3%から改善しているものの、欧州諸国に比べ、いまだに高水準であることが示されています*8。このような長時間労働への対策を強化するため、働き方改革関連法が2019年より施行されました。この法律では、残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情に対しても上限が設定されています*9。特に、罰則も規定された点が改正前と大きく異なる点です。

長時間労働の削減に向けた法整備と統計上での労働時間の減少の一方で、日本の職場における長時間労働に対する評価はそれほどネガティブではないようです。内閣府によると、労働時間が長い人は、「上司や同僚が残業をしている人にポジティブなイメージを持っている」と感じており、「残業や休日出勤をほとんどせず、時間内に仕事を終えて帰宅すること」は、人事評価では考慮されていない企業が最も多いという調査結果が報告されています*10。これは、残業をしない人が評価されにくく、むしろ残業をした方が評価されるという職場環境が存在していることを意味しています。

職場においてはネガティブに評価されにくい傾向のある長時間労働ですが、健康への影響も看過できません。長時間労働メンタルヘルスを毀損する要因となりうることが実証的に認められた他、サービス残業が長くなると、メンタルヘルスを毀損する危険性が高くなることも明らかになっています*11。また、興味深いことに、属性別にみると、男性・40 歳未満・大卒といったグループではサービス残業メンタルヘルス悪化の要因として挙げられる一方、女性や大卒以外の層では金銭対価の有無にかかわらず時間的な拘束が長くなるほどメンタルヘルスが悪化する要因となることも示唆される結果が報告されています。つまり、属性によって長時間労働によってもたらされる精神的なストレスが異なる可能性が提示されています。

長時間労働は若者の離職理由にもなっています。JILPTの調査(対象は調査時点で20~33歳)によると初めての正社員勤務先を離職した理由として、男女双方の2割以上の人が挙げた理由は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」「賃金の条件がよくなかったため」「肉体的・精神的に健康を損ねたため」「人間関係がよくなかったため」であり*12、労働条件や心身の健康が保たれない職場環境が影響していることが分かります。また、現在(離職者は離職直前、勤続者は調査時点)の週あたり実労働時間の平均値は、離職者(男性50.5時間、女性47.2時間)は勤続者(男性45.9時間、女性42.8時間)より約5時間長くなっており、週60時間以上働く人の割合も、離職者(男性24.4%、女性16.8%)は勤続者(男性11.1%、女性6.9%)の約2倍にのぼっています*13。これは、長時間労働が離職と関係していることを示しています。

では、若者が理想とする働き方とはどのようなものなのでしょうか。社会人1年目から3年目までの若者300人を対象にした調査では、若者の9割が理想とする「睡眠」「通勤」「食事」「趣味や自己啓発」の時間を実現するには、勤務時間を実働5.5時間以内に収める必要があるという結果が出ています*14。この結果は極端ですが、生活を重視する姿勢は他の調査でも明らかになっています。ある人材サービス会社の調査によると、20~30代の正社員の約8割が「自分にとって『働く』とは、主に生計を維持するための営利的な活動である」「仕事以外の生活を充実させたいので、仕事はほどほどにしたい」「労働時間ではなく、成果で評価してほしい」と回答しています*15

長時間労働は恋愛や結婚生活にも影響を与えています。長時間労働により、職場以外の人と新しく出会う時間を捻出しにくいため、新しい恋愛を始めにくいという声は座談会参加者からも上がっていました。また、交際を始められたとしても長時間労働の影響は顕著で、1ヶ月の平均残業時間が40時間を超える男女のうち、72%が交際相手とうまくいかなくなった経験があり、69%が結婚相手とうまくいかなかった経験があると答えました*16。これは、恋愛や結婚をしたい若者にとり、長時間労働が障壁の1つとなりうることを示唆しています。

長時間労働は働き手のメンタルヘルス、離職、生活の質、恋愛/結婚にまで影響するにも関わらず、職場の評価環境や労働者自身の意識はその危険性を十分に認識できていない現状があります。また、長時間労働の背景となる業務量の多さや人手不足、マネジメント不足、企業風土をそのままに業務時間のみを削減しようとしても、根本的な解決には結びつかないでしょう。むしろ、サービス残業や、制度と現実のギャップ、残業代カットによる生活苦など新しい問題が増えかねません。コロナ禍での在宅勤務では、「終電」を気にする必要がなくなったため、際限なく残業をしてしまうという新しい課題も出てきているようです。

既に法的規制は新しくなったため、今後は現場での取り組みが重要になってきます。ある研究では、職場リーダーの自発的な長時間残業は部下のワーク・ライフ・バランス満足度にマイナスの影響があることが明らかになっています*17。どうしても残業が必要な時以外は上司が率先して定時に帰るようにすることは、職場全体の残業削減の雰囲気づくりにも有効でしょう。また、テレワークや兼業/副業など働き方が多様化し、お互いが見えないところで働く状況が増えている中、今まで以上に上司と部下、チームメンバー間でのコミュニケーションは重要になってきています。チーム内の仕事状況が把握しやすいよう、個々人の予定や資料、顧客情報を共有したりすることは、チーム内での業務量の分担やサポートにも役立つでしょう。さらに、定期的に個人の業務を全般的を振り返る(評価ではなく)機会を設定することは、特に、業務量の多さなどの悩み事を自分からは言い出しにくい若手にとり、役に立つのではないでしょうか。


出産・育児とキャリアの両立

キャリアを構築する上で、キャリアと出産・育児をどのように両立すれば良いのか、不安の声がいくつか上がっていました。現在、求職活動中のCさんは、出産・育児とキャリアの両立が現実的に考えられている職場は少ないと感じ、産後復帰するためには、出産前から育休制度が整備されている仕事に就かなければいけないと考えていました。研究者を目指すJさんは、先輩女性研究者が妊娠・出産と研究の両立で苦労した話を聞いており、自分にもいずれ生じる問題なのだと話していました。

若者のこのような考えは、現在の働く世代が抱えている問題から反映されています。例えば、内閣府男女共同参画局によると、女性の就業希望者(231万人)のうち、非求職の理由の中では「出産・育児のため」が31.1%で最多となっており、出産・育児が女性のキャリアに大きく影響していることがわかります。更に、正社員でフルタイム勤務を希望する女性は、末子が未就園児の時は約1割、中学生以降は4~5割です。しかし、実際は末子が中学生以降でも正社員フルタイム勤務は2割弱、保育園・幼稚園段階でいったん上昇するも、小学生段階で未就園段階と同等まで落ち込み「非正社員で短時間勤務」が増加することが報告されています*18。子どもの年齢が上がれば、育児と仕事の両立がしやすくなるとは言えない状況が示唆されています。

育児と仕事の両立の難しさには、無償労働(家事・育児)が女性に偏る傾向があることとも関係しています。OECDの国際比較データ*19によると、 1日の無償労働時間は日本男性41分、日本女性224分と女性が男性の5倍の時間を無償労働に費やしていることが分かります。ただ、日本男性の1日の有償労働時間(452分)はOECD諸国の中でもメキシコに次いで2番目に長いことが報告されています。このことから、日本男性の無償労働時間の少なさは、有償労働時間の長さとも関係していると考えられます。 

無償労働の分担に大きな偏りがある一方、性別役割分業意識は近年薄まってきています。男女共同参画局による2016年「男女共同参画社会に関する世論調査*20では、女性の就業継続を支持する考え方が男女共に初めて50%超えになった他、固定的性別役割分担意識は、「賛成」(40.3%)が過去最少になりました。つまり、無償労働の分担をすることに対する意識は高まってはいるものの、男性の有償労働時間が長すぎるために、実質的に分担ができないという傾向があることが読み取れます。

また、職場における制度整備は進んでいます。厚生労働省の調べによると、2017年、育児休業制度の規定がある事業所の割合は、30 人以上の事業所では 93.2%(前年95.3%)となっており、育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度がある事業所の割合は、69.6%(前年65.6%)と増加傾向にあります*21。また、「3歳未満まで」に次いで「小学校就学の始期に達するまで」の制度が多いことも報告されており、出産と乳幼児期の育児に対する支援が手厚いことが分かります。

しかし、このような意識変化や制度整備は、若者にも届いているのでしょうか?20~34歳の未婚者を対象とした調査によると、女性だけではなく、男性も対象とした制度整備は進んでいる一方で、制度自体が利用しにくい点や、結局長時間働いている人が評価される点が指摘されています*22。また、内閣府の平成30年「子ども・若者白書」では、16歳から29歳までの回答者のうち、86.2%が「子育てと仕事を両立しにくい職業がある」ことについて、「とてもそう思う」または「まあそう思う」と回答し、次いで、81.4%が「家庭のことを考えると転職や離職が難しくなる」と回答しています*23

他方で、同じ調査では70.4%が「結婚したり、子供を持ったりすると仕事にやりがいがでる」とも回答しており、出産・育児が仕事のモチベーションになることを示しています*24。このモチベーションを活用することで、仕事が家庭生活の犠牲の上に成り立つのではなく、相互にプラスになるような働き方や家庭生活の設計が実現できるのではないのでしょうか。

そのために、まずは、ジェンダー不平等の要因ともなっている無償労働の再配分が必要でしょう。家庭内において家事・育児を一方に負担させるのではなく、お互いのキャリアや仕事状況に応じて配分をすることが重要となります。その際に、例えば家事代行サービスなどを通して無償労働を有償化し、実際に家事・育児にはどのくらいの労力が使われているのかを可視化することも考えられます。そうすることで、パートナー同士で各自の労働時間・賃金を反映した家事労働の再分配をすることが可能になるでしょう。家庭内で役割分担意識を持ち続けるのではなく、ドラマ化もされた漫画「逃げるは恥だが役に立つ」で描かれた家族関係のように、パートナーが対等な関係で無償労働についてコミュニケーションをとることが大切となるでしょう。また、家事・育児を行う訓練を家庭内で実施することも、習慣付けやスキルの習得に有効です。例えば、パートナーと同居し始めた時期や子どもが中高生になった時期に、家庭内で家事・育児の方法を共有する日を設けます。意識的にこのような期間を設けることで、家事・育児スキルの習得にもつながり、担い手としての積極性が芽生える可能性を生み出します。さらに、無償労働の再配分には、有償労働の見直しも必要になってきます。1日の限られた時間の中で仕事をする時間が長すぎると、当然ですが、仕事外で使える時間は自ずと減っていきます。そのため、長時間労働を見直し、効率的に仕事を行い、仕事以外にも使える時間を増やすことは、無償労働の合理的な再配分にもつながるのです。

また、出産・育児と仕事を両立しているロールモデルを作ることも必要だと考えています。CさんやNさんの不安は、両立が困難であることを見聞きしてきたことも影響にあり、両立が現実的に可能であるのかが判断できない状況に起因しているのではないのでしょうか。例えば、整備された制度を実際に活用している、家庭内の無償労働を合理的に配分している、といった実践を実施しているロールモデルが周囲にいれば、このような不安は軽減されるかもしれません。もちろん、このようなロールモデルを増やすことも大事ですが、アプリ等のプラットフォームを使って、ロールモデルと若者が直接的につながれる機会を増やすことで、より具体的に不安の軽減や出産・育児とキャリアの両立に関する実践を若者に提供することが可能になります。

ハラスメント

パワハラ・セクハラなどのハラスメントも課題として座談会で言及されていました。民間企業で働いていた経験をもつFさんは、新人へのパワハラ・セクハラへの認識が不十分である事業所が多いと感じています。更に、パワハラ・セクハラへの耐久性が、個人の能力に結びつけて考えられる傾向を疑問視していました。

職場のハラスメントの現状を数字で見てみると、連合が2019年に実施した実態調査では、ハラスメントを受けたことのある人の割合は、回答者全体の38%と報告されています*25。また、2016年度の厚生労働省の調査によると、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は32.5%(2012年度実態調査では25.3%)となっています*26。更に、都道府県労働局等に設置した総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は2012年度に相談内容の中でトップとなり、引き続き増加傾向にあります*27

ハラスメントに関する相談件数は増加傾向にある中、日本国内での職場でのハラスメント対策は進みつつあります。2019年5月に改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が成立し、2020年6月より大企業における職場でのパワハラ対策が義務付けられました。この法律により、パワハラの定義が改めて整理されました。しかし、但し書きとして「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。*28」という文言が記載されている点は注意が必要です。ハラスメント自体が被害者の感じ方に依る(同じ人に同じ言葉を言われても、感じ方は人によって異なる等)部分が大きいことを念頭に置いた上で、客観性を判断に組み込まなければ、ハラスメント被害が過小評価される可能性もあるからです。

ハラスメント対策は、法律整備だけでなく、労働者のハラスメントに対する意識を変えていくことも重要なポイントです。連合の調査によると、ハラスメントを受けた人のうち、誰にも相談しなかった人は44%に及んでいます。相談しなかった理由は、「相談しても無駄だと思ったから」(67.3%)が最も高く、「相談するとまた不快な思いをすると思ったから」(20.6%)と「誰に相談してよいのかわからなかったから」(17.0%)が続きました*29。このことから、ハラスメントについて相談することが有効な手段だと思っている人が少ないこと、また、相談する相手がいない職場環境が伺えます。これは、労働者自身の職場でのハラスメントへの理解が不足していることを示唆しています。

ハラスメントは若者の離職や就職活動にも影響しています。連合の調査によると、ハラスメントを受けて離職を選択した20代は27.3%、特に20代女性では33.3%と他の世代よりも高い数字となっており*30、ハラスメントが若手の離職の一因となっていることが分かります。また、同じ調査では20代男性の21%、20代女性の12.5%が「就活中にセクシュアル・ハラスメントを受けたことがある」と回答しており、就職活動への意欲低下や人と会うことが怖くなるといった影響が出ています*31。ハラスメントの中身としては、「性的な冗談やからかい」(39.8%)が最も高く、次いで、「性的な事実関係(性体験など)の質問」(23.9%)、「食事やデートへの執拗な誘い」(20.5%)となっており、採用面接やOB訪問などにおいて、性的なことを話題にされたというケースが少なくないようです*32

一方で、国際的な動向としては、2019年のILO総会にて「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約」*33が圧倒的多数の支持を受け採択されました。この条約では、インターンや求職者、ボランティアなども保護の対象に含まれている他、場所も職場のみならず、通勤中、メール・社内SNSや社員寮など広く対象としています。このような広い範囲を含んだハラスメントの概念は、就活中のハラスメントの他、在宅勤務の増加に伴って生じている「リモハラ、テレハラ」も含むことができており、国内のハラスメント対策を進める上でも注目すべき条約と言えます。

では、新型コロナの影響で「職場」の定義が急速に広がり、今までには無かった形のハラスメントが発生する中、どのような対策が取れるでしょうか。ハラスメントを相談できる第三者機関と企業が提携し、相談しやすい環境をつくることは有効かもしれません。現状、ハラスメントを受けた多くの人が職場で相談できていない一方で、都道府県労働局に寄せられる相談件数が増加し続けていることから、話した内容が社内関係者に知られないことが担保されている相談機関が必要とされていると考えられます。また、このような機関は、大企業ではもちろんのこと、社内コミュニティの狭い中小企業ではより必要性が高いでしょう。さらに、ハラスメントに対する認識は世代間の差が大きいため、若手がハラスメントだと感じることも管理職以上にとっては「自分たちが受けてきたことよりマシ」なことが多く相互理解が進まないこともあります。その際も第三者の意見を参考にできる環境を整備しておくことは、問題解決の一助になるのではないでしょうか。

 

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ここまで読んでいただきありがとうございます!次回Vol.4は、第4章の続編です。まとめシリーズの最終投稿になります。ぜひご覧ください!

 

*1:p.13

*2:国立社会保障・人口問題研究所(2018) 「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」p.8 http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/1kouhyo/gaiyo_s.pdf

*3:同上 p.7

*4:国立社会保障・人口問題研究所(2013)「日本の地域別将来推計人口(平成25(2013)年推計)」 p.6 http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/1kouhyo/gaiyo.pdf

*5:総務省統計局(2019)「住民基本台帳人口移動報告2019年(令和元年)結果」p.2 https://www.stat.go.jp/data/idou/2019np/kihon/pdf/all.pdf

*6:大和総研(2018)「大学進学にともなう人口流出と地方創生~東京 23 区の大学定員増加抑制が人口流出阻止の切り札なのか~」https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/regionalecnmy/20180104_012631.pdf

*7:国土交通省(2019)「企業等の東京一極集中の現状」 p.3 https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/content/001319708.pdf

*8:労働政策研究・研修機構(2019) 「データブック国際労働比較2019」p.247 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/06/d2019_T6-03.pdf

同上(2015)「データブック国際労働比較2015」p.202 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2015/06/p202_t6-3.pdf

*9:厚生労働省「働き方特設サイト 支援のご案内」https://www.mhlw.go.jp/hatarakikata/overtime.html

*10:内閣府 (2014)「男女共同参画局 ワーク・ライフ・バランスに関する 個人・企業調査」p.10 http://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_h2511/9_insatsu.pdf

*11:黒田・山本(2014)「従業員のメンタルヘルスと労働時間:従業員パネルデータを用いた検証」https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/14j020.pdf

*12:JILPT(2019)「調査シリーズNo.191『若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ(第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)』」p.104 https://www.jil.go.jp/institute/research/2019/documents/191_03.pdf

*13:同上、p.117

*14:パーソル プロセス・テクノロジー(2017)「若者の理想の働き方調査を実施若者の8割は「残業ゼロで成果を出すタイプ」が理想の上司」https://www.persol-pt.co.jp/news/2017/08/09/1858/

*15:リクルートマネジメントソリューションズ(2017)「調査レポート 長時間労働に関する実態調査ー20~30代正社員の月の平均労働時間に関する実態と意識」https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000582/

*16:パートナーエージェント(2017)「長時間残業で恋愛や結婚生活がうまくいかなくなった経験者は約7割!「交際を諦めて仕事に集中」(15.5%)、「転職した」(9.2%)人も」https://www.p-a.jp/research/report_83.html

*17:渡辺・山内(2017)「職場リーダーの長時間労働が部下のワーク・ライフ・バランス満足度に及ぼす影響:病院に勤務する看護職における検討」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsha/54/2/54_65/_pdf/-char/ja

*18:男女共同参画局(2020)「令和2年版 男女共同参画白書http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/gaiyou/pdf/r02_gaiyou.pdf

*19:OECD Employment  : Time spent in paid and unpaid work, by sex https://www.oecd.org/gender/data/time-spent-in-unpaid-paid-and-total-work-by-sex.htm

*20:男女共同参画局(2016) 「共同参画 2016年12月号」p.3 http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2016/201612/pdf/201612.pdf

*21:厚生労働省(2018)「平成 29 年度雇用均等基本調査」p.14 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-29r/03.pdf

*22:ニッセイ基礎研究所「若者の現在と10年後の未来~働き方編-「働き方改革」の理想と現実のギャップ、アフターコロナに期待」https://www.nli-research.co.jp/files/topics/64268_ext_18_0.pdf?site=nli

*23:内閣府「平成30年版 子供・若者白書」https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30honpen/pdf_index.html

*24:内閣府「平成30年版 子供・若者白書」https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30honpen/pdf_index.html

*25:日本労働組合総連合会(2019)「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20190528.pdf?50

*26:厚生労働省(2017) 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000163573.html

*27:厚生労働省 職場のいじめ・嫌がらせ問題の予防・解決に向けたポータルサイト「あかるい職場応援団」 https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/statistics/

*28:厚生労働省(2020)「職場におけるハラスメント関係指針」https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/symposium_siryo_2.pdf

*29:日本労働組合総連合会(2019) 「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」p.5 https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20190528.pdf?50

*30:同上、p.7

*31:同上、p.8-12

*32:同上、p.9

*33:ILO駐日事務所 「2019年の暴力及びハラスメント条約(第190号)」https://www.ilo.org/tokyo/standards/list-of-conventions/WCMS_723156/lang--ja/index.htm