ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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【まとめシリーズ vol.1】コロナ禍に聞く若者の働き方:はじめに&ILO調査から見る、新型コロナウイルスが若者に与えた影響 

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今回のまとめシリーズの元になった座談会の記事はこちら↓

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol.1

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol.2

コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol. 3

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第1章 はじめに

新型コロナウイルスは、これまでの私たちの生活を一変させ、移民労働者、女性など、それぞれのグループが直面している課題を露わにしています。その中でも、「ILOモニタリング資料:新型コロナウイルスと仕事の世界 第4版」は、新型コロナウイルスが若者に与えた影響に着目しました。(モニタリングでは若者を18-29歳と定義します。)

 

モニタリングは、若者が受ける3重のショックを指摘しています:

パンデミック発生後、働かなくなった若者は6人に1人を上回り、就労中である若者も労働時間が23%減少。

②雇用に止まらず、教育や訓練も中断された。

③雇用、教育、訓練の中断の結果、若者の就職活動や転職に大きな障害が発生。

 

また、8月12日の国際青少年デーに際し公表された報告書 "Youth&COVID-19: Impacts on Jobs, Education, Rights and Mental Well-being"では、約112カ国・12,000以上の18-34歳のアンケート回答をもとに、雇用、教育及び訓練、精神的ウェルビーイング、権利の4つの分野において若者が受けた影響を詳細に分析しています。

 

これらの調査を受け、私たちILOインターンの中で、こんな問いが浮かんできました:

新型コロナウイルスの影響が及ぶ社会の中で、実際の若者はキャリアについて何を思い、何を感じているのか?

 

今回、ILO調査から明らかになった若者への影響を足がかりに、実際の状況を「見える化」するために、ILOインターン経験者計8名の座談会を行いました。本調査レポートでは、第2章でILO報告書の内容を概説し、第3章では座談会から得られたエピソードにも見られるコロナの影響を明らかにしていきます。そして、第4章では、座談会参加者のエピソードに示唆されている、コロナ以前から若者のキャリアに影響を及ぼしている要素を取り上げ、これらの影響を乗り越えるためのアイデアを提示します。この報告書を通して、若者が考える「仕事の未来」とは何か、その答えのヒントとなる示唆を見せられたらと思います。

 

パンデミックの影響は人によって様々です。ILOモニタリングのようなマクロの視点に基づいた分析やデータと同じように重要であるのは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」と誓った持続可能な開発目標(SDGs)を体現する観点です。つまり、一人一人のリアルな声を拾っていくことが、パンデミックの影響の実態をよりよく知ることにつながるのです。

 

※なお、座談会の内容・情報は、座談会を実施した2020年6月時点のものです。

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(座談会の様子)

第2章 ILO調査から見る、新型コロナウイルスが若者に与えた影響 

まず、報告書 "Youth&COVID-19: Impacts on Jobs, Education, Rights and Mental Well-being"で示されている影響を概観していきます*1

「雇用」の分野では、報告書はCOVID-19が発生する以前から、若者は厳しい労働市場に直面していたと指摘しつつ、以下の影響を明らかにしています:

 

  • アンケート回答者の約17.4%の若者が仕事を失った。
  • 仕事を失った若者のうち、約6.9%の回答者は失業し、約10.5%の回答者は雇用されている状態にあるが、実質的な労働時間はゼロである。
  • 仕事をしている若者では、約37%の回答者に労働時間の減少が見られ、約17%の回答者に労働時間の増加が見られた。
  • 労働時間の減少があった約78%の若者には、約42%の賃金減少が見られた。
  • 仕事を失った若者の職業として多かったのは、事務支援、サービス、販売、工芸及び関連業種である。
  • 労働時間や収入の減少は、多くの若者をかつてない労働リスクにさらしている。その多くは、教育から労働への移行期にある若者である。
  • 労働時間が増加した若者は、長時間労働及び仕事から離れることに難しさを見出している。
  • 回答者の約3分の1の若者が、部分的/完全なリモートワークに切り替えた。
  • 雇用における影響に関するジェンダーギャップは、若い女性と男性の間の職業の違いやその他の社会経済的要因に大きく左右されている。
  • 若い女性は、家事労働の増加など、仕事とは直接的に関係のない労働の増加により、仕事の生産性が下がったと自らの状況を評価している。
  • 政府による労働政策について、その多くが雇用状態を保っている若者を対象にする傾向にある。

 

このような甚大な影響は、若者から雇用の見通しを長期的に奪う可能性もあります。報告書は、全世代の若者を守るためには、緊急の大規模かつ的を絞った雇用政策への対応が必要であると呼びかけています。

「教育及び訓練」の分野では、教育機関でのフォーマル教育だけではなく、インフォーマル教育も分析の対象となっています。アンケート結果から、報告書は以下の影響があったと述べています:

 

  • 回答者の約79%が、学校閉鎖等の措置によって、教育及び訓練の中断が生じたと回答した。
  • オンライン教育の導入より、「デジタル格差」が見られるようになった。
  • 学びを継続している若者も、65%の回答者がパンデミック前より学ぶ量が減少した。
  • スムーズなオンライン授業には、インターネットアクセスの欠如、リモートで学び教えるためのデジタルスキルがない、自宅にIT機器が完備されていない、リモート指導のための教材がない、グループワークと社会連関がない、という解決すべき問題がある。
  • キャリアの見通しを立てられないため、多くの若者が不確実性と不安を感じている。
  • しかし、このような危機の中でも、半数以上の若者は新しいスキルや知識を身につけるために自ら機会を作っている。

 

若者の進む道や人生は、教育によって大きく左右されます。教育の軌道修正を怠ったり、遅れてしまった場合、若者が学校から職場に移行する際に、移行そのものの遅れや失敗につながりかねません。報告書は、デジタルソリューションに焦点を当てることや、キャリア相談やカウンセリングを増やすことなどが重要な施策になると指摘しています。

「精神的ウェルビーイング」の分野では、回答者の約半数が不安や抑うつもしくは鬱の影響を受けている可能性があることが明らかになっています。将来に対する願望や希望は、ディーセント・ワークへの移行にあたって重要な役割を果たしていますが、約54%の若者が、パンデミックの影響で将来に不安を感じるようになっています。

「権利」の分野では、教育への権利、住居への権利、宗教や信教に対する自由などに焦点が当てられています。例えば、仕事を失った若者の約32%が住居に対する権利に影響があったと感じています。

 

以上にみてきたように、新型コロナウイルスによる影響は多岐に渡ります。しかし、回答者の約4人に1人がボランティア活動や寄付に従事したとの結果も明らかになりました。また、自宅での自粛期間中も、友人や家族とつながるための工夫が行われていることも明らかになりました。このように、若者はSNSやプラットフォームを通じて、地域社会、友人、家族らとデジタル上でのつながりを保っているのです。

 

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ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回vol.2は、第3章で座談会から得られたエピソードにも見られるコロナの影響を見ていきます。ぜひご覧ください!

*1:この報告書が基づいているILOアンケート調査は、18-34歳の若者計12,605人を対象としたものです。報告書は、18-29歳を若者と定義し、30-34歳の調査結果を比較対象として分析しています。回答者の若者は主に高等教育を受けた若年労働者です。計112カ国の若者からアンケート回答を得られてますが、インターネットで実施したアンケートであるため、低所得国の若者の声が十分に反映されていないことは留意されるべき点です。