ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ILO職員インタビュー第4回(1/2):三宅伸吾 労働法国際労働基準専門家

本企画はILOや国際機関に関心のある方や将来のキャリアとして国際機関を考えておられる方にILOの具体的な姿をイメージしてもらえることを目的としています。職員の方へのインタビューを通してILOでの具体的な業務、やりがいやキャリアパスを皆様にご紹介していきます!

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前回の記事はコチラ↓

第3回(1/2):川上剛 労働安全衛生・労働監督上級専門家~業務内容ややりがい~

第3回(2/2):川上剛 労働安全衛生・労働監督上級専門家~キャリアパス~

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第4回目はILOカリブ海域事務所(トリニダード・トバゴ)の労働法国際労働基準専門家である三宅さんにお話を伺いました。

 

 

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三宅伸吾(みやけ しんご) 

国際基督教大学にて国際法を学び、東京大学大学院にて国際法の法学修士を取得。アクセンチュアでのコンサルタントを経て、2001年にILOに入り、それ以来国際労働基準の活動に従事。ジュネーブ本部にて11年間法務官として勤務したのに加え、フィリピンの首都マニラのILO東南アジア及び太平洋地域局、インドネシアの首都ジャカルタILOフィールド事務所においても3年半勤務。2015年よりカリブ海域事務所に入所。現在は、カリブ海地域の国際労働基準の適用を促進するため、政府、雇用主、労働者の組織のサポートに従事。

 

国際労働基準労働法専門家の仕事

―現在の業務について教えていただけますか。

労働法国際労働基準専門家という役職で、カリブ海域事務所に所属し、カリブ海域に所属する13加盟国と9海外領土(英語・オランダ語圏)をカバーしています。業務では、ILOの条約や勧告からなる「国際労働基準」を使いながら、できるだけ良い労働法を作ってもらうように、各国の労働法の改正の際のサポートをしています。もう一つは、国際労働基準自体の周知活動です。各国に各条約を批准してもらい、コミットしてもらうと共に、批准しなくても国際労働基準を法律や政策で使ってもらえるようよう働きかけたり、具体的な活用提案をしています。

法律や政策方針を扱うことが多いので普段は政府とやり取りをすることが多いのですが、市民団体などから問い合わせを受けることもあります。私が以前受けた問い合わせは、看護師団体や家事労働者(お手伝いさん)など。トリニダード・トバゴでは家事労働者のNGOの活動が活発なのですが、家事労働者が日々どのような問題に接しているかなどは、政府や組合の人よりもNGOの方が精通しているケースもあります。市民団体の持っている生の情報は貴重なことが多いので、ILOのミーティングでも構成員である「政労使」の三者に加えて市民団体の方に入ってもらうこともあります。

 

―毎日の生活はどのようなものですか?

トリニダード・トバゴでは交通渋滞がひどいので、それを避けて朝7時半~8時の間には出勤しています。メールをチェックして連絡事項や依頼事項を確認してから、その日の業務に取り掛かりますが、ヨーロッパ人の同僚がいるので10時にはコーヒーブレイクが入ることもあります(笑)。昼食はお弁当を用意する同僚が多いですね。僕は食べに行くかテイクアウトしてオフィスで食べるかします。その後午後の仕事を終えて、帰宅は17時~18時頃ですね。長距離を通勤してくる同僚はうんと早く出勤して午後早めに帰宅することもあるので、事務所全体が大体これぐらいの時間にはひっそりします。

 

楽しいこと、嬉しかったこと

―最も楽しいお仕事は何ですか?

私の仕事は法律や条約の文書という、抽象的で大きなものを扱うことが多いのだけれども、楽しさはむしろ、もっと具体的な個人間のつながりの部分にあることが多いです。

例えば、ある国では協議を行うと政労使がそれぞれの立場や見解を主張することに時間が費やされ、それらの共通点や妥協点を見出したりすることができず、結果として対立のみ目立ち、話が進まないことが多く、協議の議長を務める労働省の主席法務官は困っていました。そこで、三者およびILOの意見を論点や法律の条文ごとに整理したマトリックスをあらかじめ作成して、それを見ながら協議を進めるという流れを提案しました。その結果、議論の主眼が立場の主張ではなく、次にやるべきことに移っていくようになったのです。それに手ごたえを得たのか、法務官は他の法律の協議のときにも使うようになり、各立場だけでなく、関連法律の条文を追加してマトリックスだけ見ていればいいようにしたり、会議の場でプロジェクターでマトリックスを映してその場で妥協点を確認しながら進めたりと、自分たちで改良をどんどん進めていきました。それとともに法務官の議長としての采配ぶりも自信に満ち、議論を結論に向けてさらに強くリードしていけるように目に見えて変わっていきました。この経験を通して、この法務官とは仕事上での信頼感も構築され、ちょっとした相談も出来るようになりました。

この時議論していた法律自体はまだ採択されていないので、専門家としての私が出すべき成果としては未完ですが、この法務官の変化を目の当たりにして、そのお手伝いができたことをとても嬉しく感じたし、仕事上の満足感も得られました。この法務官は大臣にさらに信頼されるようになりました。ILOへのパートナーとしての信頼も高まったように思います。

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ILO条約の国内実施のためのワークショップにて

―現地の政労使から信頼を得るために気を付けていることはありますか?

外交においては、専門家や大臣レベルであっても、個人的なつながりや信頼関係によって物事が進んだり進まなかったりすることはよくあります。私が日々気を付けていることは、問い合わせがあったら、必ず返信をすることですね。カリブ海域では郵便事情はよくないし、島国でそれぞれ離れているので、大きな依頼や問い合わせがメールで来ることがしばしばあります。そんなわけで、1通のメールにしてもその後ろにどれくらいの人が関わっていて、どれくらいの緊急度で送ってきているのかは分からないのです。

あとは、常に同じ視点に立つようにしています。パートナーの隣に並んで問題に「浸ってみた」視点で見るように心がけています。何か解決法を教えてあげるというのではなく、相手の状況を踏まえながら、一緒に考えていこうという姿勢をとるということですね。これは、私自身やILOが必ずしもすべての問合せの回答を持ち合わせていない、また、回答を持っていたとしてもそれが個別状況にとって最適な解か分らないという前提に立つことでもあります。これによって自分の中でも、答えが分らないから焦るということがなくなるので、心に余裕が持てるようになったりもします。問題の発見から解決の提案、実施のサポートまで一緒にやっていくこと、つまり、苦労も共にすることで、信頼ができていくんだと思います。

 

苦労したこと、大変だったこと

―現在の業務で大変に感じたことはありますか?

現在、EU拠出の女性に対する暴力撤廃のプロジェクトをガイアナ、ジャマイカやその他のいくつかのカリブ海の国で実施しています。その中のトリニダード・トバゴの案件調整を昨年担当しましたが、その際にILOの特徴を理解してもらうのに時間がかかりました。他の国連機関は、政府のみと協働することに慣れていますがILOでは労働組合も使用者団体も意思決定パートナーです。そのため、これらの団体の意見も踏まえたILOの関心事項を、国連のプロジェクトに入れてもらうことに苦労しました。また、ILO内での活動計画案作成や変更も短い準備期間の中で複数の同僚とやっていたため、大変でしたね。

 

―国際労働基準の中には、意見の対立が顕著な分野もあると思いますが、それで苦労された経験はありますか?

ILO基準をベースにした議論の場合、国内法の具体的な条文について指摘することが多いので、政治的に反対されることはあまりありません。ただ、先住民、児童労働やLGBTなどについては、問題によっては政治化されているものもあり、「この国には先住民はいません」と言われてしまうこともあります。もう、その話題は扱いたくないという風な態度をとられてしまった場合などは難しいですね。

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専門家として大切なこと

ー三宅さんにとって、専門家として働く上で大事なことはなんですか?

専門家にとって大事なことは、自分自身で回答が用意できないときにどうすればいいのか、を思いつける知識、人脈、経験を持っていることですかね。すべての国の法律を分かったり、問題について知ったりは出来ないわけですから。もちろん分かる範囲では自分で回答を用意するけれども、本部の人たちや他の国連機関と協力することで、より包括的な解決にもつながります。他の国連機関があつまる会議に案件をもっていってアドバイスを求めたり、場合によっては資金を拠出してもらったり、協働できるアクションを考えたりという経験は大切ですね。

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後半は、三宅さんのキャリアパスについて掘り下げています。記事はこちらから↓
第4回(2/2):三宅伸吾 労働法国際労働基準専門家〜キャリアパス〜

また、以前、三宅さんには「活躍する日本人職員」でもインタビューをさせていただきました。こちらの動画も是非ご覧ください。

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