ILO_Japan_Friends’s diary

ILO Japan Friends’ diary

国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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コロナ禍に聞く若者の働き方ー世界の労働問題を扱うILOインターン経験者の視点ーVol.1

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新型コロナウイルスは、これまでの私たちの生活を一変させ、世界中の人々に様々な影響を及ぼしました。ILOは、新型コロナウイルス労働市場に与えた影響を分析する「ILOモニタリング資料:新型コロナウイルスと仕事の世界」をこれまで5回にわたって発表しており、その中で、移民労働者、女性など、それぞれのグループが直面している課題を露わにしています。その中でも、「ILOモニタリング資料:新型コロナウイルスと仕事の世界 第4版」は、新型コロナウイルス若者に与えた三重のショックを指摘しています:

パンデミック発生後、働かなくなった若者は6人に1人を上回り、就労中である若者も労働時間が23%減少

②雇用に止まらず、教育や訓練も中断された

③雇用、教育、訓練の中断の結果、若者の就職活動や転職に大きな障害が発生。

モニタリング資料を受け、私たちILOインターンの中で、こんな問いが浮かんできました:新型コロナウイルスの影響が及ぶ社会の中で、実際の若者はキャリアについて何を思い、何を感じているのか?

パンデミックの影響は人によって様々です。ILOモニタリングのようなマクロの視点に基づいた分析やデータと同じように重要であるのは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」と誓った持続可能な開発目標(SDGs)を体現する観点です。つまり、一人一人のリアルな声を拾っていくことが、この問いへの答えを提供し、パンデミックの影響の実態をよりよく知ることができるのです。

本企画では、この問いを中心に、若者のリアルな声をお届けします。

第1回では、現役インターンの3名による、それぞれのキャリアの歩み、今後のキャリアの目標、そしてコロナの感染拡大が続いている今の状況についての座談会内容の一部をご紹介します。

<話し手>

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain大学院在学中、専門は国際人権法。大学卒業後から、研究者を目指すために大学院にて研究を継続。日本生まれ・日本育ちの外国籍であることから、日本の外国人問題にも関心を寄せる。今年から留学予定。

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f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain大学院在学中、専門は人間の安全保障。韓国生まれだが、幼少期から日本で過ごす。宣教師である父の影響を受け、幼い頃から国際協力に関心を寄せる。来年からコンサルティング会社で就職予定。

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f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain大学卒業後、イギリスの大学院にて開発教育・グローバル学習の修士号を取得。その後、人材育成/エグゼクティブコーチングを扱う企業を経て、現在、ILOインターンとして労働問題を勉強中。今年からパートナーの駐在先である南米に合流予定。

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座談会の様子

 
これまでのキャリアの歩み

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain最初の質問は今のキャリアに至るまでの歩みですが、お二人に聞く前に私の話を少しだけ。これまで研究と同時に様々なインターンをしてきました。キャリアを構築する上では、国際人権法をずっと自分の中核においてきました。大学入学までは中国の学校にいたのですが、安全保障等国家間の難しい問題を肌で感じた一方で、人権という普遍的な価値を国際社会で共有しようとしていることに感銘を受けました。日本はもちろん、国際レベルの人権規範の最前線にも携わりたいと思い、研究者を目指すべく研究を続けています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain幼少期から保育園の先生や教師に憧れていましたが、中高時代を経て日本の教育に対して疑問を持つようになりました。日本の教育を変えるためには、国際的な視点が必要だと思ったことから、大学、大学院は国際X教育について学び、様々な活動に参加しました。「教育」を年齢や機関にとらわれない「学び」として捉えるようになったことから、帰国後は企業での人材育成に関われる企業に就職しました。ただ、職場での人間関係の問題が起こり、「学び」の環境整備にはソフト面だけでなく、ハード面(人事制度や労働基準法など)の理解が必要だと思ったことから、現在のILOインターンに応募するに至りました。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain私は大学・大学院で開発協力を学んできたのですが、自分のキャリアの「キーワード」がないと思い、ILOインターンで自分の軸を見つけようとしているところです。大学での研究の専門はPKOで、いつかPKOに関する職にありたいとは思うのですが、現地のためにより良い提案ができるようになりたいと思うようになったので、来年からは民間のコンサルティング会社に就職予定です。

日本の「仕事の世界」の見え方

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f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainこれまでキャリアを歩んでいく中で、困難だと思った点はありますか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainキャリアにおける軸を探している、と言いましたが、開発協力という分野の中で、自分が若干ブレていると感じることがあります。確かに、「これは私のキーワードだ」と言えるものがあることは一般的には望ましいと思われています。ただ、全員がそれをすぐに見つけれるわけではないという点は、自分のキャリアを考える上で大事だと感じますね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain自分のキャリアを表す「キーワード」または「軸」が決まっている・見つけていることが良しとされているのも、固定観念の一つであるように思います。例えば特定の分野の専門家でも、アウトリーチを通して様々な能力を伸ばす環境を得ている人はたくさんいます。世の中には様々な側面があるので、色々経験をすることは、遠回りに見えても自分につながっていくと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain私も、ジェネラリストになるか、スペシャリストになるか、という問いをよく考えていましたね。今こそ分野を絞っていますが、専門性に対するこだわりがあったように思います。一つの分野に絞ることが、自分の能力を最大限に発揮できると信じていたので、今の分野に辿り着くまでは大変でした。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain今の仕事の世界では、ジェネラリストが重宝されていますよね。でも、そもそも人間の能力と知識は断続的であることが多いですし、ジェネラリスト/スペシャリストという二項対立の考え方自体も、分業化が進んでいる現代だからこそある考え方だと思います。昔の人たちは、スペシャリストであっても、もっと色々なことをやっていますよね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainこういった固定観念は、私たちのキャリア観に大きな影響を与えていますよね。今年就活をした時には、新卒一括採用の制度が与える影響を強く感じました。就活生は、常に「今年受からなかったらどうしよう」という思いを持っていました。それって、結局「空白」が生じることへの恐怖感から来てるのだと思います。日本では、人生のステージが決まっているような印象を受けました。どの段階だと、だいたいどの層に属していかなければいけない、というように、直線的なキャリアが前提になっている気がしますよね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain直線的なキャリアが前提だと、例えばキャリアアップとして教育機関に戻るといった選択肢が難しくなってきますよね。私がイギリスの大学院にいた際、クラスメートは全員社会人で、キャリアップの為に大学院に来ていました。労働者は学んだことを次の職場で活かせることができますし、仕事の現場で色々な経験をした人たちと議論すると、大学院の授業の内容もとても深くなります。さらに、その経験は間接的であれ直接的であれ、企業活動にも還元されていくと思います。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainそのような効果を期待するには、教育機関労働市場の接続をもっと有効にしていく必要があると思います。分野にもよると思いますが、今の日本の大学で学ぶ内容がどれほど実地と関連性があるのか、私は疑問に思います。例えば、新卒枠で就職活動をする際、教育で学んだことが評価されることはほとんど無いように思います。これは、私が研究者を志すきっかけの一つでもあるのですが(笑)もちろん、関連性が無いからこそ、キャリアチェンジという意味では適切なのかもしれませんが。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain同じ会社・組織の中にいたいけど、でもスキルアップもしたい、という方々には、その手段として教育機関に戻ることを選択するのは現在はハードルが高いかもしれません。スキルの習得には、同じ分野で「縦に」スキルを積み上げていくことと、様々な分野に及ぶ「横に」スキルを学んでいくという2種類がありますが、どのようなスキルや経験がプラスになるのか、を企業が改めて考えることで、スキル習得の選択肢全体が広がっていくことが望ましいと思います。

今後のキャリアプラン

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今後のキャリアについても教えてください。私は、冒頭で日本の研究者を目指していると言いましたが、実は少しだけ予定が変更になり、パートナーとの生活と折り合いをつけるために、海外で研究者を目指すことになりました。留学もそのためです。日本の問題の最前線にはいられないかもしれませんが、世界の様々な人権問題を見聞きし、そこに取り組んでいける研究者を引き続き目指します。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain私は成人教育やライフロングラーニングを軸に手に職をつけたいと思っています。今後、パートナーの仕事の都合で海外で生活することも想定されることから、どこに行っても働けるようになりたいですね。それが、どのような職業なのかはまだわからないのですが、コーチングは資格を取りたいと思っていますし、現地のNGOや国際機関などでも経験を積めたらいいなと思っています。

 f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain短期的には、入社予定の会社でしっかり勉強し、願わくばこれまで研究してきたことと親和性のある仕事に従事できたらと思っています。長期的には、例えば10年後に国際機関で実務家になりたいなと。また、来年以降も大学院に所属したままなので、博士論文を書き上げることを人生の目標に設定しています。

キャリアにおける障壁

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f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain皆さんそれぞれのプランがありますが、実現にあたって障壁となっているものはありますか?私の場合は、パートナーなどとの家族生活とキャリアの両立の問題はいずれ生じてくるのかなと思います。女性の研究者の中では、例えば博論を書いている間に妊娠・出産のライフイベントがあり、とても苦労された話も聞くことはあります。ILO報告書ジェンダー平等に向けて大跳躍:より良い仕事の未来をすべての人に」では、ジェンダーに根付くキャリアの中断、労働時間の短縮は「母親であることに対する賃金ペナルティ」の格差をもたらすと指摘していますが、まさにその問題が現実として生じ得ると感じています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain私もキャリアプランとライフプランの両立は絶賛悩み中です。今後、出産・育児などのライフイベントを考えると、一箇所で3~5年働いてからの方がいいのかなと考えたりもしています。また、日本の職場は、新人へのパワハラ・セクハラへの認識が不十分であるところが多いと、周りの友人の話を聞いていても感じます。より問題なのは、パワハラ・セクハラへの耐久性が、多くの場合、精神力など個人の能力に結びつけて考えられている点にあると思います。ILOでは第190号・暴力とハラスメント条約が昨年採択され、日本では今年6月からパワハラ防止法が施行されたので、ハラスメントへの対応がより改善していくことを願っています。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain私は実家が福岡なのですが、両親が気になります。できれば両親の近くにいたいのですが、仕事や機会は東京に集中してしまっているので、福岡に帰る決断はまだできそうにないです。元々田舎が大好きで、東京にずっと住むことは自分の性格に合っていないのですが、やりたいことが東京にあるため、仕方がないです。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainコロナによってリモートワークが推進され、最近は政府がワーケーションを推進するようになったので、ワーケーションの導入に伴い、リモートワークの環境の整備が進んでいくことで、それが結果的に東京一極集中の解消につながっていけばいいのですが。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain今の状況でリモートワークの導入が進んでいますが、それでも原則は出社で、今が例外の状態と捉えられている気がします。また、仕事内容によっては毎日出社しなければいけない人もいます。さらに、例えば本社が東京とかだと、仕事や機会が九州までに分散することはないのかなと。分散しても、やはり関東に近いエリア内になると思います。

コロナ時代における仕事の未来

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f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plainコロナの話がありました。皆さんはどの影響を受けていますか?私は留学予定でしたが、渡航の目処が立たず、オンラインでのスタートとなります。留学先で仕事を見つけることが目標で、そのために現地の労働市場の観察も兼ねての留学だったのですが、最後までオンラインだと、そのあとの職探しに大きな影響が出そうで、とても不安です。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain私も南米にいるパートナーとの合流がいつになるかわからず、宙ぶらりんの状態です。もしも海外にいるパートナーが緊急帰国したら、日本で職探しをするのか…見通しが立ちません。現地でインターンをしたいのですが、先行き不透明で、なかなかアクションに移せません。また、駐在員のパートナーも、いつ帰国指示が出るかわからない中、どこまで現地の仕事を展開していったらいいかわからず、大変そうです。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plain私も見通しが立たない中、アクションへの躊躇が増えた気がします。また、私の場合はアルバイトができなくなったので、家賃の収入源が丸々なくなっている状態が続いていました。大学からの援助も、他の奨学金を受けていることで受給資格がないとされてしまい、元々はアルバイトで家賃、奨学金で生活費を賄っていたのですが、とにかく家賃分が大変でした。また、ILOインターンを最初から最後までリモートでやることになっているのですが、当初は顔も知らない職員さんとお仕事をするにあたって、とても気を使ったりしました。さらに、新しい人々との繋がりなど本来インターンから得られる機会が全く享受できていないことは、仕方がないですが残念に感じます。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain私も最初はリモートワーク自体が初めてだったので、色々戸惑いはありました。もはやリモートの方が長いので、結果的に慣れてきましたが(笑)また、当初は仕事があまりなくて、時間を持て余していましたが、今は仕事量も増えてあまり気にしなくなりました。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plain一方で、働きすぎてしまうことはやはりありますよね。プライベート時間との切り分けが難しいと感じます。ですが、リモートワークのいいポイントとしては、私は逆に密にオンラインコミュニケーションをとるようになったので、上司とより親しく慣れたと思います。会えなくなるからこそ、ちゃんと機会を設けることがより重要になっていると感じます。

 ILOインターンからみた若者の働き方

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122644p:plain今日の議論の中で仕事の世界に関する様々な論点が出てきましたね。

・キャリアの軸

スペシャリスト/ジェネラリストという二項対立

・所属していないこと/「空白」への恐怖感、新卒一括採用、直線的なキャリアの前提

生涯学習、大学での学びの価値、労働市場教育機関の接続

・プライベートとキャリアの両立

・暴力とハラスメント

・東京一極集中、リモートワーク

・コロナの影響とこれから

お二人は話してていかがでしたか?

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122654p:plainコロナによって起きた問題も多いですが、やはり元からある課題が多いように思いますね。

f:id:ILO_Japan_Friends:20200828122647p:plainこの企画では、次回から2回にわたってILOインターンの卒業生をお呼びし、これらの点について話していきますので、先輩方からどのようなお話が聞けるのか、とても楽しみです。

==============================================================次回は、若手キャリア座談会の拡張版として、ILOインターン卒業生を交えた「リアルな声」をご紹介します。ぜひご覧ください!