ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ILO職員インタビュー第5回(2/2):坂本明子 技能・就業能力専門家

 

前回は、坂本さんの業務内容や、COVID-19による技能・職業訓練への影響について伺いました。記事はこちらから↓

第5回(1/2):坂本明子 技能・就業能力専門家~COVID-19と技能・就業訓練~

今回は、仕事でのやりがいや大切にされていること、そしてキャリアパスについて聞いていきます!

  

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在宅勤務中のバンコクの自宅にて


坂本 明子(さかもと あきこ)

英国ロンドン大学教育大学院博士号取得。専門は技能・職業教育訓練政策。ILOジュネーブ本部にて教育・職業訓練資格制度の整備等に従事した後、ILO南アジア局でインド、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、そしてアジア太平洋地域総局で主にフィリピン、マレーシア、インドネシアベトナムの技能・職能訓練政策並びに制度形成を支援。現在は、ILOアジア太平洋地域総局のディーセントワークチームにて、職業教育訓練、生涯学習などを担当。

  

印象に残っている仕事・やりがい 

坂本さんの中で最も印象深いプロジェクトはなんですか?

印象深かったのは、インドで行なった国家技能・職業能力開発政策(National skill development policy)の発動プロジェクトです。振り返ればもう10年程前になります。インドの経済が全体的に盛り上がっている時で、経済成長率も著しく、企業も高い技能・能力をもつ優秀な人材の確保に取り組んでいる時期でした。人づくりに対して国の戦略的な政策の必要性があると要望があり、インド初の国家技能職業能力開発政策にむけて政労使を含めた対談を重ね、政策策定をサポートしましたILOはプロジェクトの中で対話の場を設けたり、調整したり、また他国での経験や効果的だといわれる事例を紹介し参考にしたりと技術支援をしました。

その中で記憶に残っている場面は、プロジェクト終盤に政府側の責任者が、政策の草稿を首相の前でプレゼンテーションして閣僚決定にかけるという場面でした。その段階にいたっては外部の組織が立ち入ることはなく、全てこのプロジェクトのリーダーシップをとっていた労働省主導で行われたのですが、1年以上かけてILOの支援と政労使の方々との協力のもと作成された草稿を政府側トップがオーナーシップを持って直接プレゼンテーションした時、当事者として頑張ってくださっているということを感じました。政府の方々が、ご自身で噛み砕き、最終的に自分たちの主導で進めてくれたということにやりがいを感じ、少しお役に立てたかなと思える瞬間でした。今ではそのインドの技能・職業能力開発政策もほぼ5年ごとに改訂され、アップデートを重ねています。

 

様々なアクターを含めて合意を形成するということは大変な作業と受け取れます。

大変ですが、社会対話を大切にするというのはILOの精神の一つですからね。活動を行う上で様々なステークホルダーを交えて対話を行い、その中で解決点を見つけていくことはとてもやりがいがあります。政府の方、労使のパートナーの方々からそれは面白いと言われたり、ドナーを含めて一緒にやりませんかとアプローチいただいたりすると、ワクワクします。



専門家として大切なこと

仕事をする上で坂本さんが大事にされている、譲れない点は何でしょうか?

専門家としての仕事の一部なので余り意識していませんが、一緒に働いている国、パートナーの状況やニーズをよく把握すること、そしてそのための努力を怠らないことでしょうか。プロジェクトを行う上で、理想的なベストプラクティスが語られることはよくありますが、その事例が成功するかどうかは各国のコンテクストによって異なってきます。現場の環境が整っていなければ、モデルだけを持ってきても同じ効果は期待できません。その国の状況を100%理解することは難しいですが、できるだけ把握することでモデルの可能性や限界を模索できます。

もう一点は、外部から解決策を持ってくるのではなく、現場の状況をできるだけ把握した上でパートナーの方々と一緒に解決策を探し、プロジェクトを動かしていこうとする姿勢で臨むことを心がけています。

 

―そのような姿勢で臨む上で、特に気をつけている点がありますか?

提案の伝え方に気をつけています。ベストプラクティスや他国で成功したモデルに関して伝える時は、‘このセクター’、‘この国’では成功しているのですが、どうでしょうか、という話し方をするように心掛けています。基本的に外部から持ち込んだ解決策がそのまま現場に当てはまることはありませんので、どこを変えたら良いか、どの部分を改善できるか、情報提供をした上で問いかけていくようにしています

もう一つ、少し違う点になりますが、最近仕事をする上で一息つくことの大切さを特に感じるようになりました。あまり至近距離で仕事をしていると、見えるものも見えなくなります。職業訓練のプロジェクトは中長期の展望も大切なので、ある程度距離を置いて考えてみることが必要な時もあります。意識して少し一息つくことで、いいアイデアが思い浮かぶことが多々あり、また再始動する力になる時もあります。

 


ILOで働くまで

ILOに入られる前は学びの場に身を置かれていたり、仕事をされていたと伺っています。その経験は今にどう生きているのでしょうか?

大学では政治経済学を専攻し、その後カナダで国際開発学の修士をとりました。最初に働いた職場は、政府系開発援助のリサーチ業務などを行うところだったのですが、その職場で出会った方々からたくさんの刺激や挑戦を頂きました。当時職場にいながら社会人入学で夜学で大学に通っていましたが、頑張れ、と応援をくださる方々がおり、人柄的にも尊敬できる方が多くいらっしゃいました。また、この職場での業務経験をその後に繋いでいきたいと思っていました。

その後、ロンドン大学で取ったコースで教授に博士課程を勧められ進学をしました。博士課程を始める前は東アジアのプロジェクトの比較研究をやらないかと勧められ、研究員にもなりましたね。その時々に来た機会を躊躇せず受け入れてきたと思います。

これまでの職場、学校、奨学金の財団などで出会った方々とは今でもずっと繋がっていますし、大学を卒業してからもこれは面白いかもしれない、やりたい、と思える自分がいました。場面場面で巡り合った人たちに恵まれ、経験がまたその次の経験へ繋がることの連続で、今に繋がっていると思います。

 

研究員からILOという国際機関に入ることに抵抗感や不安はありませんでしたか?

初めての職場(政府系援助のリサーチ業務)では国連でのキャリアをもつ人もいて、開発援助に携わっている方々と交流することが多くあったので、国際機関に対する抵抗感はありませんでした。日本の外に出て活動することに関して不安などはなく、むしろそういった方々の仲間になりたいという思いが強くありました。また、その当時から労働というトピックには漠然と惹かれるものがありました。国際機関の中でもILOは専門性が高いということもあり、国連機関で唯一興味を持っていた機関でしたね。

 

 

キャリアを振り返って

―キャリアを積み上げていく中で苦労された点は何でしょうか? 

やはり仕事と家庭のバランスを取るのは大変です。家族が遠距離で暮らしていても大丈夫という方やご家庭ももちろんありますし、仕方がない状況にある場合もあるでしょう。それでも、私は一緒にいることを家族像の一つとして持っているので、そのような理想を持ちつつ国際機関で働き、移動を重ねるというキャリアはなかなか難しいものがあります。

夫とは私の家族観を共有しており、今となってはだいぶ長くなってきたキャリアの中で、ある時は夫が、ある時は私がお互いのキャリアを極力サポートしてきました。綱渡り状態ではありますが、バランスを取るためにお互いの譲り合いや、努力が大切と感じています。また、職場からの理解やサポートも仕事と家庭のバランスを取る上で大事なポイントでした。さらなる取り組みが必要な部分もありますが、ILOジェンダー意識も比較的高く、女性が働きやすい方だと思っています。お互いにキャリアを持つ家庭で仕事とのバランスをどう取るかは、職場内でよくあるトピックで、話題がつきません。

 

坂本さんのこれまでのキャリアを振り返ってみて、その中心にあると思われるもの、共通点のようなものはありますでしょうか?

今振り返ってみると、色々なことに対して常に主体的に動いてきたと思います。各場面で出会った人たちから感銘をうけ、面白いかもしれない、やれるかもしれないという好奇心や、または根拠のない自信などを持ち続けてきました。余り意識しているわけでないのですが、計画を立て達成していくというより、心持ちを大切にし、蓄積した知見や経験で誰かの役に立っているという感覚を大切にしてきました。
 

 

読者に向けたアドバイス

最後に国際機関を目指す人々にアドバイスをお願いします!

目指す機関にもよりますが、共通して実務経験は大切だと思います。国際機関で働くということ、特に各地域・国事務所では、現場の人たちと一緒に働くことになりますが、実務経験があるとパートナーの方々の問題意識を共有しやすいですし、特にILOは労働の世界の問題に取り組んでいる機関なので、労働市場に実際に出て、知見や感覚を得ることは大切なことではないかと思います。そのために一度、民間機関や、NGO等で実務経験を積むことをお勧めします。そこである程度自分の知識や経験を積んで、それをベースに国連の職についた時、さらに成長し活躍できるのではないかと思います。

そのような意味では、最初から国連機関を目指すのではなく、自分がやりたいことの先に、そして自分が何を貢献できるか考えた上で、たまたま雇用主が国連機関であるというように、選択肢の一つとして捉える方が良いと思います。

ILOは仕事の幅、裁量が広く、学びの機会がとても多いと思っています。違うバックグラウンドの人がいて、(労働の分野とはいえ)専門分野をこえてつながるグループがいて、考え方も多様で、同文化同一言語内によくみられる固定観念や既成概念などがあまりありません。それによるチャレンジもなきにしもあらずですが、そのような同僚と一緒に仕事をするのはとても面白いですし、お薦めの仕事です。頑張ってください!



―お忙しい中、ありがとうございました!