ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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ILO職員インタビュー第2回(1/2):田中竜介プログラムオフィサー/渉外・労働基準専門官

本企画はILOや国際機関に関心のある方や将来のキャリアとして国際機関を考えておられる方にILOの具体的な姿をイメージしてもらえることを目的としています。職員の方へのインタビューを通してILOでの具体的な業務、やりがいやキャリアパスを皆様にご紹介していきます! 

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前回はILO駐日事務所の田口代表にインタビューを行いました。

第2回目はILO駐日事務所の田中プログラムオフィサーへのインタビューを2回にわたってお届けします。まずは、ILO駐日事務所での業務について聞いてみました。

 

 

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田中 竜介(たなか りゅうすけ) 

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、立命館大学大学院法務研究科修了。その後、弁護士としてキャリアを積む。法律事務所にて勤務後、米ニューヨーク大学ロースクールLL.M.課程を修了し、ILO駐日事務所コンサルタントを経て、2016年より現ポジションで勤務。政労使の調整を中心に、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)やCSRの推進に関するアドバイザリー業務等、多岐にわたるプロジェクトを担当。

 

プログラムオフィサー/渉外・労働基準専門官の仕事

――今日はお忙しいところお時間頂きありがとうございます。

まず初めに、現在、田中さんが従事されている主な職務内容やプロジェクトなどについて教えてください。

 

田中:現ポジションとして主に行っている業務は政労使三者それぞれの団体との連絡・調整です。駐日事務所での業務や各プロジェクトにおいては三者と協議し方針を決めていく必要がありますが、それらの関係者と目的を共有して対話することによってよりよい成果を出すことが主な仕事です。[1] 加えて、駐日代表の行う業務の全般的なサポートも私の仕事です。

 

 

――それらのご担当職務の中で、現在、主に扱われている案件はどのようなものがあるでしょうか?

 

田中:最近は、持続可能な開発目標(SDGs)やビジネスと人権の分野で講演の機会をいただくことが多くなりました。特に、多国籍企業の活動と国際労働基準の結びつきについて、さまざまな場所で啓発や普及活動を行っています。例えば、使用者の業種別団体で移民労働に関する国際労働基準について話をさせていただいたり、暴力とハラスメントの新条約について講演をしたり、日本弁護士連合会の勉強会に招かれたり、他にも多国籍企業のマテリアリティ(重要課題)を特定するための経営層とのダイアローグ(その企業が関係する社会労働課題を未来志向で議論します)、労働組合の国際関係部局の方々が集まる会議での発表、大学での講義、メディアの方々に対するブリーフィングなど、いろいろな機会をいただいています。その準備のために資料を紐解いて考えを深めたり、それぞれの分野の実務の最先端を担っておられる方々と真剣に議論ができるのはこの上ない刺激になります。

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EUが拠出した「アジアにおける責任あるサプライチェーン」プログラムのセミナーにて

 

国際労働基準の普及活動として、暴力とハラスメントの新条約のパンフレット作りにも携わりました。また、政府関係でも、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)の策定過程に、政労使その他幅広いステークホルダーの方々と携わっています。この国別行動計画というのは、ビジネスが人権に与える負の影響を特定、防止、対処するという国連ビジネスと人権に関する指導原則を実現するために、国の行動を定めるものです。現在実施されているさまざまな政策を踏まえた上で、特に労働者の権利保護やよりよい就労環境がどのようにしたら達成できるか、日本国内の企業で働く労働者だけでなく、日本の多国籍企業が関わるグローバルサプライチェーンで働くすべての人についてそれを実現するにはどうしたらよいか、国際機関としての考えを政府やその他の関係者から求められることも多く、刺激的でもあり大きな責任も感じています。

 

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(パンフレット表紙「仕事の世界における暴力とハラスメント」)

 

プロジェクトとしては、欧州連合EU)が中心となって資金援助し、EUILO、経済開発協力機構(OECD)が共同で実施している「アジアにおける責任あるサプライチェーン」プロジェクトがありますILO駐日事務所として日本で技術協力プロジェクトをやるのはこれが初めてです。EUは様々な国と投資協定を結んでいますが、近年では、関税障壁を下げて人やモノの移動を自由化するという目的のみならず、環境や労働分野でのコミットメントを通じて世界中で持続可能な開発を達成するという目的のもと、トレード&サステナビリティ条項が設けられています。日本もEUとのEPA[2]の中で、CSRの促進や中核的労働基準の批准検討等についての条項が盛り込まれました。アジアにおける責任あるサプライチェーンプロジェクトでは、労働分野における国際的に認知された基準をサプライチェーンを通じてより広く浸透させるために、政労使と協力しながら啓発、三者対話、政策提言などを行っていきます。

 

 

――日々の業務はどんなことをされていますか。

 

田中:緊急案件がない限り、オフィスではまず前日に来たメールをチェックして返信し、その日やるべきことを付箋にメモして、それぞれのタスクにかける時間を考えて、なるべくそれに沿って進めることを心がけています。公費を使っている仕事なので、なるべく効率的に進めるというのが職員の中での共通の認識であると思います。業務の多くは、ILO関連の文書を調べて書面を作ったり、パートナーに電話をして案件を前に進めたりする、というものです。オフィス外での講演や打ち合わせがない日は貴重な作業日で、案件を進めるための作戦を練ったり、所長と方向性について確認をしたり、生じた疑問を本部や地域総局に聞いたり、講演資料を作ったり。。。そんなことで一日が過ぎていきます。

 

ただ、私自身、「自分のオフィスにいたら仕事は降ってこない」と思っていますので、打合せがあるときはできる限りこちらから積極的に訪問することを心がけています。そうすることで打ち合わせに出てきてくれる人も違うかもしれませんし、今までリーチアウトできていなかった方と会って話して新しい発見や次のアクションの話ができることもあります。

 

忙しさは時期によってまちまちです。本当に忙しかったことも何回かあります。プロジェクトで、ジュネーブとニューヨーク同時並行で仕事をしなければならなかったときがありまして、日本時間で仕事をした後、17時頃になるとジュネーブのオフィスが空いて、23時頃になるとニューヨークのオフィスが開いてスカイプ会議する、ということもありましたが、この仕事ならではの経験でした。また、国際会議のロジスティックサポートも忙しくなりますが貴重な経験です。ILO事務局長がG20大阪とTICAD7の連続行程で日本に来た時は、本当にてんてこ舞いでしたが、普段見ることのできない世界のリーダーたちの世界に触れることができました。

 

 

ILOで働くうえでのやりがいや困難

――ILOで働くうえでの具体的なやりがいや困難について教えてください。

田中:国連憲章によれば、国際公務員は各国から指示を受けてはいけない地位にあり、その職務には「国際性」があるとされています。いかなるときもグローバルな視点を忘れてはならず、もし日本で将来のために変えなければいけないことがあれば世界目線で変えていけます。逆に日本がその他の国から見てすばらしいことを実施していればそれを全力でバックアップできます。それによって他の国にいい影響力を及ぼすことができるかもしれないのです。もちろん責任は伴いますが、グローバル視点をもって自分が正しいと思うことを主張し、それによって人や制度を少しずつでも動かしていく、ということが最大のやりがいです

 

困難については、すべてのことは困難ですしすべてのことは乗り越えられる、というのが私の信念です。困難を困難と感じるかどうかは自分のマインド次第なので、それを面白いと思えれば挑戦できます。ですので、困難だからやめる、という意味での困難はないと信じています。

 

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もちろん現実には様々なチャレンジがあります。ILOは政労使の三者構成ですので、調整が難しくなることもしばしばです。例えば、ひとつの条約ができる過程でもさまざまな交渉と妥協が行われた上で、絶妙なバランスの上に文言が決定されています。そのことは条約の文言だけでは判断できないこともあるので、そのときは条約の策定過程の議論を総会の議事録等で確認しなくてはなりません。条約を正しく説明するのも一苦労です。時には関係者からの厳しいご指摘もいただきながら、ILOとしての中立性を保ち、かつ国際労働基準の目指すところを共有して根気強く対話しなければなりません。途上国も先進国も、使用者も労働者も、全員の利益をひとつの方向性にまとめることは、理想としては素晴らしいですが、実現するのは本当に困難です。しかし、この過程に自分が少しでも貢献できたら、こんなに素晴らしいことはないと思います。

 

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[1] ILOは国連機関の中で唯一、政府(政)、労働者(労)、使用者(使)が対等な立場で意見を述べることが出来る三者構成の形をとっている。

[2] EPA:Economic Partnership Agreement。経済連携協定を指す。

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第2回は、田中プログラムオフィサーのキャリアパスについて掘り下げています。

ぜひご覧ください!