ILO_Japan_Friends’s diary

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国際労働機関(ILO)駐日事務所・インターンによるブログです。

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【報告書紹介 vol.2】現代奴隷制の世界推計:強制労働と強制結婚(1/2)

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本企画はILOの活動や労働問題に関心のある方に、ILOの取り組み内容をより知っていただくことを目的としています。ILOがこれまで刊行してきた報告書をご紹介することで、報告書がテーマとしている分野の実情やILOを中心に作られてきた国際労働基準を皆様にご紹介していきます!

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第1回目の記事はコチラ↓

【*新コーナー*報告書紹介】ジェンダー平等に向けて大跳躍(1/2)

【報告書紹介】ジェンダー平等に向けて大跳躍(2/2)

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第2回目は「現代奴隷制の世界推計 強制労働と強制結婚」(2017)を取り上げます。

 

そもそも「現代奴隷制」って?

「現代奴隷制」と聞くと、皆さんはどんな印象を持たれますか?

聞いたことがない、または、言葉は知っているけれど詳しくは…という方が多いのではないでしょうか。 

「現代奴隷制」という言葉に法的な定義があるかと問われれば、その答えは”NO”です。これからご紹介する報告書内では、「現代奴隷制」は、「脅威、暴力、強要、欺瞞や権力乱用により、ある人間が拒絶することも、離れることもできない搾取状態」を指すとしていますが、分りにくいと思いますので、具体的な事例を次章以降で説明していきます。

また、現代奴隷制には多くの概念が包含されていますが、本報告書では、特に2つの主要形態、強制労働強制結婚に焦点を当てます。

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数字で見る世界の現状

言葉の概念をざっくりつかんだところで、早速、現代奴隷制を取り巻く2016年の世界の状況を見ていきましょう。

  • およそ4,030万人の現代奴隷制被害者のうち、2,490 万人は強制労働、1,540 万人は強制結婚の状態(図1)

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  • 現代奴隷制被害者の71%が女性と少女(図2)

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  • 現代奴隷制被害者の4人に1人は18歳未満の子ども(図3) 

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  • アジア太平洋では強制労働の被害率が最も高い(千人中 4.0 人)一方で、強制結婚の被害率はアフリカで最も高くなっている(千人中 4.8 人)(図5) 

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以上、現代奴隷制を取り巻く2016年の世界概況を数字で見てきましたが、皆さんはどんな印象を持たれましたか?

次章では、特に日本社会にも大きく関わってくる「強制労働」に焦点を絞り見ていきます。

強制労働の3つの類型

強制労働がどのような状態を指すのか、皆さん、ご存知ですか?報告書では以下のように強制労働の特徴が説明されています。

就労や労働条件の受け入れが任意でないこと、及び、被害者が逃げられないようにしたり、その他の形で作業を強要したりするための処罰の適用や、その脅威があることが挙げられる。強要は身体的・性的暴力や家族に対する脅迫から、賃金からの天引き、身分証明書の取り上げ、解雇の脅威、当局への告発の脅威など、より巧妙なものに至るまで、多様な形態を取りうる。」

具体例としては、東南アジアの縫製工場で見られる強制労働、アフリカの鉱山での鉱物採掘、東アジアの家庭での家事労働[1]などが挙げられています。イメージは湧きましたでしょうか?

 

さらに、強制労働には3つの類型があります。

①強制労働搾取:商業的性的搾取を除く、民間の主体による労働搾取

2016年の被害者は約1,600万人。業種が分かっている強制労働搾取の事例を見ると、最も多いのは家事労働で、全体の4分の1近くを占めています。(図9)

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②強制による性的搾取:民間の主体による商業的性的搾取で、成人の強制性的搾取とあらゆる形態の子どもの商業的性的搾取(売春、児童ポルノの斡旋も含む)

2016年の被害者は480万人。このうちの99%(!)が女性と少女であり、商業的性的搾取の2割超(100万人超)は18歳未満の子どもであるというショッキングな数字も…。

 

③国家が課す強制労働:政府当局、軍または民兵組織により強制される作業、公共事業への強制的参加、受刑者の強制労働等

2016年の被害者は400万人。このうち64%は自国の政府が経済開発を進めるために労働を強制しています。(図13) 

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強制労働被害者の多くが移民

強制による性的搾取と強制労働搾取の被害者の特筆すべき特徴は、「居住国以外」で搾取されている強制労働被害者が多い、つまり、移住した先で被害に遭うことが多いという点です。(図8)

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報告書によると、移民労働者と求職者は、その移住プロセス全体を通じ、人身取引の被害者となりやすく、特に注意が必要な集団は、最も脆弱な労働者集団に入っている家事労働者であるとしています。

 

では、実際、移民労働者はどのような被害にあっているのでしょうか?

移住労働者が搾取される代表的な手段は、

  • 斡旋手数料の徴収
  • 給与や労働条件、職務の性質に関する虚偽の約束
  • 標準以下の労働条件での労働
  • 国内の基準や同僚を下回る賃金

などが挙げられています。移住プロセスで不正で法外な斡旋手数料を徴収され、高額な借金を背負い、働いても働いても完済できないために、仕事を離れられない状態(債務奴隷)になることも少なくありません。 

一部の地域では、特に二国間協定を通じて、移民労働者の保護が広がってはいるものの、移民労働者を強制労働や人身取引の危険に晒すような募集・採用制度を改革する必要性は残っているのが現状です。

 

次回は、「現状を改善するための取組はどんなことが行われているの?」という問いにお答えします。ぜひご覧下さい!

 

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[1] 家事労働:一つもしくは複数の世帯においてまたは世帯のために遂行する業務と定義し、雇用関係の枠内で家事労働に従事する者を家事労働者とする。